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神に捧げる料理


テーブルの上にバナナの葉っぱが敷かれ次々と料理がサーブされていく。カラフルな野菜をココナッツなどで炒めたものや豆と一緒にたくさんの野菜も一緒に煮込んだサンバル。酸味が効いたラッサムやふわっとしたご飯。さっぱりしたチャツネにピリッと辛いアチャールなどが盛られていく。それらをご飯と一緒に混ぜながら次々と口に運んでいく。パリッとしたパパドを割りながら混ぜて食べても美味しい。それぞれが美味しいがお米を潰すように混ぜて食べると尚、美味しい。

南インド、特にタミルナドゥ州でよく食べられる「ミールス」と呼ばれる定食である。ご飯もサンバルも野菜もアチャールもおかわり自由で、給仕がそれぞれの残りが少なくなってくるとよそってくれる。椀子そばさながらよそってくれるので、気をつけないといけない。ミールスと呼ばれている南インドの定番の定食だが、基本的にはベジタリアン、肉や魚などは使わず、豆、野菜、フルーツ、米などから構成されており周りが海に囲まれている南インドでたくさん取れるはずの魚などは入っていない。

美味しいので特に気にすることはなかったが、周りが海に囲まれて市場などあんなにもたくさん魚が売っているにも関わらず、ミールスがベジタリアンなのは不思議だなと最近思うようになった。調べてみるとインド全体のベジタリアンの比率はあまり多くはなく全体の2割くらいだといわれている。中でも西インドのグジャラート州やラジャスタン州にはベジタリアンの人々が多く、全体の6割ぐらいだといわれている。宗教や環境も影響しているのだろう。しかし南インドは全体に比べてもベジタリアンの比率は少ない。それにも関わらず「ミールス」がベジタリアンなのはどうやらミールスができた背景にあるらしい。

タミルナドゥ州で多く食べられているミールスであるが、誕生したのは西側の南インド、リゾート地としても有名なゴアの近くのカルナータカ州のウドゥピという町らしい。そこでは有名なヒンズー教のお寺があり、クリシュナやシヴァ神が祀られている。ヒンズー教の僧侶たちは神に捧げるために様々な料理を作るのが習わしらしく、神に喜んでもらうために様々な場所へ旅をしてその学んできたものを作っていったそうである。神に捧げるものなので肉や魚は一切使用せずに作られた。それらが広まっていったのは1920年代の洪水が一つの理由らしく、料理を作る僧侶が移り住んだタミルナドゥやムンバイでウドゥピの料理を広めていったそうである。美味しい料理は瞬く間に人気となり、南インドの定番のミールスへと変化していったそうである。元々は玉ねぎやニンニク、人参なども使わずに作られていったが、寺院から離れて食されるようになって変化していったのかもしれない。

南インドのミールスだけでなく、米と豆を発酵させて作るドーサもウドゥピで誕生したらしく、ドーサ誕生の物語も面白いので今度書いてみようと思う。

神に捧げるために作られた手の込んだ料理が人々の定食となっていった。何かのために作る料理は愛と手間で溢れており、美味しくなるのかもしれない。

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