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Part.0-2【後編】フットボール界の"ドン・コルレオーネ"は、エヴァートンで成功できるか。カルロ・アンチェロッティにフォーカス!@BF

こちらは後編です。前編を読んでくださった方、ありがとうございました。もう少し、お付き合いいただけたら幸いです。まずは前編を読みたい!という方はこちらから。また、全部通して読むのは大変だと思うので、パート毎に区切っています。目次からどうぞ。よろしくお願いします。

Part.4 アンチェロッティが求めるもの、もたらすもの

「It’s not personal, Sonny. It’s strictly business.(私情なんかはさんでいない。これはビジネスだ)」/マイケル・コルレオーネ
『我々が”リーダーシップ・アーク”と呼ぶのは、リーダー、つまり監督のクラブにおける歩みの浮き沈みのことであり、それは曲線を描く弧(アーク)に似ているからだ』<カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督>より

アンチェロッティが最も長く任期を過ごしたクラブはACミランの8年だ。
そもそも現役時代に5年過ごしたこともあり、「家族そのもの」と特別なクラブであることを公表している。”リーダーシップ・アーク”はミランでのキャリアが最も大きく緩やかだ。そんなミランと同じくチャンピオンズリーグのトロフィーを掲げたレアル・マドリーでの曲線は、極端に短く急な弧を描く。どれだけ1年目をうまく過ごそうとも、チェルシーでも、PSGでも、一度ヒビが入ると別れはあっという間に近づいてくる。レアル・マドリーではデシマも達成した。2年目は22連勝という圧倒的な旋風を巻き起こしたが、最終的に優勝を逃すと、議論も計画もなく終わりが訪れた。


フロレンティーノ・ペレスは私をレアルの監督にするためにそれまで2度打診してきたし、いつも私のことを称賛してくれた。3度目の依頼で加入を承諾した時、彼は”ピースメイカー”としての私を歓迎した。彼は親切な言葉をたくさんかけてくれたが、会長としての2期12年間の間に9人の監督を雇用、そして解雇してきたことも知っていた。――私を解任した直後のペレスの発言から明らかになったことは、マドリードは根を下ろすべきクラブではないということだ。<カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督>より

アンチェロッティは選手と関係を築く才能に長けている、銀河系軍団の強烈な個性も纏め上げられる、それが当初のマドリー及びペレスの判断だった。アンチェロッティ自身も選手とポジティブな関係を築くことはどのクラブでも目標としていた。スタッフ、フットボール・ディレクター(ゼネラル・マネージャー)そして、会長にも当てはまることだ。しばしば、「家族」と例える関係性を求めている。ゴッドファーザーでいうところの「ファミリー」だ。しかし、マドリーでは成功が最優先であり、ビジネスが第一なのだ。自国リーグでは優勝が絶対。ヨーロッパの舞台でも結果が必要。デシマを勝ち取ろうとも、1度リーグの優勝を逃せば、それはクラブのレベルに無いと見做される。さらに上を目指し、ビジネスは続くからである。昨今、マドリーに限らず、フットボールが産業として大きく発展している。お金が多く動くクラブほど、避けられない問題かもしれない。
以下は、マドリーでの将来について、記者会見で尋ねられたアンチェロッティの返答だ。

『私はできればとどまりたいが、来シーズンここにいるかどうかわからない。今年の私自身に点数をつけるのは、私ではないからだ。状況はわかっている。話す必要はないし、クラブが満足しているのならここで続けることができるだろう。そうでなければ、彼らは決断を下さなければならない』<カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督>より

私が購入した3冊の書籍のうちのひとつ、『カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督/静かなるリーダーシップ』は、最も彼の人柄、信念、仕事への価値観などが伝わってきた素晴らしい内容だった。アンチェロッティ自身による言葉もさることながら、その言葉をより確固たるものとして説得力を付加してくれたのは、選手・対戦相手、上司、部下といった人物からのメッセージだ。

クリスティアーノ・ロナウド、ズラタン・イブラヒモビッチ、デビッド・ベッカム、ジョン・テリー、パオロ・マルディーニなど教え子たち、サー・アレックス・ファーガソン…そして個人的にサプライズだったのは、2013年からエヴァートンを指揮した、ロベルト・マルティネスがアンチェロッティとのエピソードをメッセージと共に寄稿してくれていたことだ。個人的にはイブラですら手中に収めたアンチェロッティの凄さに注目と関心を寄せていたが、本稿ではマルティネスのパートをご紹介できたらと思う。各々がアンチェロッティについて熱く語っているので、ぜひ興味がある方は書籍を手に取ってみてほしい。

『カルロの人となりを示す物語をひとつ話そうと思う。
私の妻はある日、スタンフォード・ブリッジに試合を見るために車を運転して向かい、スタジアムの地下駐車場に駐車した。試合後、彼女が車を発車しようとした時、オイル警告灯が点灯した。オイルを点検しようとボンネットを開いた時、ひとりの人が彼女のところにやってきて言った。"失礼ですが、何か問題が起こりましたか?"それはカルロだった。私が思うに、彼は駐車場で一息ついていたところで、着ていたチェルシーのスーツの袖をまくり上げ、妻のためにオイルを補充してくれた。
彼は彼女が誰だか知らなかったが、誰に対してもそれをやっただろう。彼はそれを試合のすぐ後、ただ彼らしく自然に誰かを助けたが、彼はその様にして監督をするのだと思う。彼は選手たちを助け、彼らを理解し、ロッカールームでは彼らのベストを引き出そうと努めている。
彼が何故大きな期待と名高い選手たちによる重圧のかかる状況の中で、ずっと大きな成功を収めてきたのかに関しては、秘密などない。あれ以外にないのだ。』
<カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督>より ~対戦相手の語るカルロ~ ロベルト・マルティネス

※ビル・ケンライトとロベルト・マルティネス

このエピソードの後、マルティネスが実際にアンチェロッティと対峙した試合のこと、アンチェロッティの人間性についてを深く掘り下げて語っている(初対戦はマルティネスがウィガンの監督を務めていた頃。チェルシーを打ち破る結果も残している)。加えて興味深いのは、アーセン・ヴェンゲルがやり遂げたことは極めて稀であるとしながら、アンチェロッティの場合、短期戦略且つ、常にチャンピオンズリーグの舞台で結果を残す必要があるクラブに身を置いてきたからこそ、解雇されやすい立場であったことを指摘している。逆に、マルティネス自身、エヴァートンに在籍していた際に、ビル・ケンライト会長は長期的哲学を持っていたことを明かしている。ジョン・ストーンズ、ロス・バークリー、ブレンダン・ギャロウェイなど、若手の潜在能力を引き出すための時間やチャンスを長い目で与えてくれるクラブだった。ウィガンも同様だったと。

アンチェロッティは、これまで渡り歩いた多くのクラブでトロフィーをもたらしてきた。その偉大さや経歴に、出会ったばかりの選手たちは恐れを抱く。しかし、その経歴やトロフィーの数で相手を手なずけるような圧政を行わない泰然自若ぶりがアンチェロッティの人間性である。さらに、これまでの実績が効果を発揮するのは、就任して序盤の頃だけだというのだから、選手もまた、監督の人間性を見ているのだ。そして、過去の経歴だけで勝負出来ないことを監督も知っている。

人として尊敬され、信頼されることで選手との関係を築く。忠誠を求め、共鳴しチームに勝利をもたらす。目指すことはエヴァートンでも同じだ。あとはクラブがアンチェロッティの"リーダーシップ・アーク"をどこまで見届ける気概があるか。ビル・ケンライトは長期的目線を持っているはず。では、モシリは?ブランズは?きっとプロジェクトを共有し、アンチェロッティも納得をしている。エヴァートン就任時には、「出来るだけ長くここにいたい」と伝えてくれた。少なくとも、心のホームであるミランを退任して以降、「家族/ファミリー」を探し続けているアンチェロッティの次の居場所が、ここエヴァートンであることを望むばかりだ。

Part.5 アンチェロッティと”エヴァートン”

「Never hate your enemies. It affects your judgement.(敵を憎むな。判断に影響する)」/マイケル・コルレオーネ

19-20シーズン、同じ街のクラブであるリヴァプールが悲願のリーグ優勝を達成した。30年振りの快挙、圧倒的だった。

クラブの掲げるヨーロッパの舞台への参加は年々命題と化し、そのあらゆる動きにプレッシャーとして現れている。今夏の移籍市場もそのひとつだろう。モイーズの長期政権以降、マルティネス、クーマン、アラダイス、シウヴァと渡ってきた系譜も、今思うとその繋がりも幾らか弱々しい。
どれだけのアイデンティティーをチームに築き、残してきたのかを考える。監督の任期も、選手の滞在期間も限られる昨今で、深い繋がりを見出すのは難しい。

アンチェロッティにとって、エヴァートンでの本当のスタートは、20-21、ハメス・ロドリゲスの獲得によって始まったと感じる。冬にやって来たアンチェロッティにとって、ようやく自分のカラーを選手の個性でさらに濃く表現できるチャンスだ。
レアル・マドリーで出会い、その才能を噛み締めた。バイエルンで再会したが共に過ごせたのは僅かな期間。ナポリでもラブコールを送るが、相思相愛も叶わず。ふたりが主役のドラマでいえば、シーズン3にあたる舞台はエヴァートンとなった。アンチェロッティのマスターピースと言ってもいい。しかし、そのピースが決して"長くない寿命"である事は頭の片隅に入れておく必要がある。

過去、PSGに就任したアンチェロッティは、多くの選手を獲得し、同時にチームの顔ぶれが変わったことにつき、トッププレイヤーが加入した際に、チームのアイデンティティーを確立する重要性を唱えていた。そのためには、主に次の2つが不可欠と挙げている。

・戦術トレーニング
・時間

『選手の獲得に大金を投じたオーナーは通常、チームのアイデンティティーを確立するために通過しなければならない困難について関心が薄く、すぐに結果を出すことを期待するものだ。--挙げた2つにとってはマイナス要因にしかならない。』

文字で見るだけなら当たり前にすら感じる2点。これが実際には難しい。

エヴァートン、昨シーズンの最終節が7/27のボーンマス戦だったが、今シーズンは9/13にプレミアリーグ開幕戦のスパーズとの試合が控えていた。あっという間の開幕である。そして中2日でカラバオ・カップのサルフォードシティ、更に続いて2節のWBA戦が待ち受けており、早速ハードな日程だ。準備期間であるプレシーズンではブラックバーンとの試合が中止に。また代表招集が重なり、フルメンバーでのトレーニングや試合も限られている。フィジカルコンディションをいきなりピークへ持っていくのは難しい。トップに留まる為には徐々に調子を上げていき、シーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮することが必要になるだろう。

しかし、誰しも想像していた範疇を超えた現実が訪れた。全く新しいチームがそこにはあった。
スパーズ戦ではハメス・ロドリゲスを軸にしたチームの動きが窺えた。昨年と全く違う振る舞いに唖然としつつ、興奮を抑えきれなかった人も多かったはずだ。私はまるで魔法がかかったかのような内容に驚いてしまった。そして笑っていたと思う。深夜にニヤニヤしながら画面にかじりつくオタクそのものである。


新戦力のハメス・ロドリゲス、アラン、ドゥクレはいずれも即戦力としての計算で、アンチェロッティの真価が問われる補強だった。いずれにしても失敗は許されないが、どちらかというと、ここまで踏み込んでしまったからには、成功を目指すしかない、という考え方でいたいと思う。CLの切符、最低でもELへの扉が開かれなければ、今シーズンにも解任はあり得るだろう。
だが、アンチェロッティの言う通り、戦術の浸透や、費やす時間はマストで、クラブやファンも結果だけに左右されない忍耐を持つ必要がある。

逆に言えば、本当にアンチェロッティに力を発揮してほしいのであれば、当初結んだ4年半という任期を全うさせる事がチームにアイデンティティーをもたらす源になるはずだ。すでに、その要素を持ち合わせたピースを整えたのだ。結果が出なければ仕事を失うのはアンチェロッティは百も承知である。時間は必要、戦術の落とし込みも必要、しかし悠長に過ごすわけにはいかない、だからこそお互いを知る、攻撃のタクトを振るうハメス、プレッシング戦術を把握するアラン、加えてプレミアに慣れたボックス・トゥ・ボックス型のドゥクレは納得の人選だ。且つ、いずれも昨シーズンの主力メンバーには居ないタイプの3人で、的確にピースを埋めた印象。
短期的に結果を出す重要性と、長期的な継続性が作り出すチームのアイデンティティー。実際のところ、アンチェロッティにはそのどちらも課せられている気がしている。

しかしながら、当初は批判や懐疑的な意見も散見された。エヴァトニアンには将来の成長を見込んだ、25歳以下の若手を獲得するプランを推す声が多い。私もその1人だ。

以前、ブランズは"25歳以下の選手を獲得する"ことを方針としていた影響もあるだろう。ユース、アカデミーから昇格させる手も勿論、リシャーリソンやディニュの定着はブランズの手腕でもある。さらに、若手気鋭のシウヴァを招聘し、大きな期待を寄せていたファンも多かった。しかし、あらゆる要因のもと、2年目に入って間もなくチームは崩れてしまった。

アンチェロッティは数多のクラブで「ベテランの重用」について賛否が問われた。バイエルンではリベリーやロッベンを使い続けた。28歳以上の選手起用が多く、同時にその実力や才能を遺憾無く発揮させてきた。実際に19-20のエヴァートンにおいても、若手が多く、経験が欠けている点を補強すべきポイントとして挙げていた。それが今夏移籍市場の動きに基づいている。

アンチェロッティはチームの人材確保、特に若手に関して以下のように述べている。

『私はこれまでどのクラブにおいても、補強に関する全権を任されたことはない。--レアル・マドリードが16歳のノルウェー出身の少年マルティン・ウーデゴーと契約したとき、私はこう思った。"彼が来ようと来るまいと私には関係ない。なぜなら、彼は今現在、私のためにプレーする訳じゃないのだから''ウーデゴーは私が去った後に、世界で最高の選手になるかもしれない。しかし私の仕事にとっては重要なことではないので、獲得には関心がなかった。--彼は将来のため、私の後の監督たちのために獲得されるのだから。』<カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督>より

と、これはあくまでもオーナーの構想に配慮することも重要なこととした上での、レアル・マドリードでのエピソードである。彼は、将来を嘱望された選手を育てることより、自分がいかにクラブに長く留まれるかを見ていた。至極最もな意見だと思う。しかし、PSGでの方向性は少し異なっていた。

『パリ・サンジェルマンでは自分は長期的なプロジェクトに関わろうとしていると思っていた。アカデミーや補強方針、あるいはチームのために現在と将来にわたって選手たちを作り出す全てのことについて、より深く知りたかった。私は、そこでカルチャーを作り出そうと努めており、入ってくる選手たちがそれな確実に適応するために全面的に関与したいと思った。』<カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督>より

結局、皮肉にもPSGのフロント陣とうまくいかなかったことが監督としての仕事の難しさを知らされるが、エヴァートンにおけるアンチェロッティの役割はPSGのそれに近いとも感じた。20-21シーズンにどれだけ若手を組み込むかは注目すべき点だ。既に主力ラインのカルヴァート・ルウィンやホルゲイト(残念ながら開幕前に怪我を負い、秋まで出場が見込めない)を除き、微妙な立場になりつつあるデイビスが気になるところ。シャルケで着実に経験を積んだケニー、昨シーズンアンチェロッティからの起用機会が増えたゴードン、ブランスウェイト、プレシーズンで好印象を見せた新戦力のヌクンクも期待値は高い。

正直なところ、今夏の移籍市場は短期的視野での動きを見て、エヴァートンは来るところまで来てしまったか…と感触を抱いたのだが、エヴァトニアンの皆さんはどうだっただろうか。特に開幕1節目のスパーズ戦は衝撃だっただけに期待が目一杯膨らんだ。しかし、不安が無いわけではない。

一つ、都合のいいポジティブな推測をすると、ブランズにも兼ねてからプランがいくつかあり、25歳以下の選手を獲得した上で、ある程度成熟が見られた2~3年内で不足している分をベテラン、もしくは経験豊富な選手を補強し、チームを強化する方法を元々検討していたのではないか、という点だ。監督がシウヴァのままなら引き続き25歳以下の若手を狙った動きだったかもしれない、と考える。アンチェロッティだからこそ使えるルートやコネクションを最大限に活かしての補強戦略だった。あくまでも個人の推測である。

さて、大変長々と綴ってしまったが、最後に今シーズンの展望、目標を挙げて締めさせていただきたい。最終パートはおまけ的な内容なので悪しからず。

既にプレミアリーグを1節消化した時点の内容となったが、ファン歴十数年にして最大、この波に乗らずして如何に過ごすのか。強烈なファーストインパクトには期待をせざるを得ない。しっかり夢を見させてもらおう。

Part.6 アンチェロッティと20-21シーズン

「Our ships, must all sail in the same direction.(全ての船が同じ方向を目指さなければならない)」/リシオ・ルケージ

▽20-21シーズン目標

▲最高目標ライン:CL出場権獲得

▼最低目標ライン:EL出場権獲得

開幕から素晴らしいスタートを切ったことは本当に大きい。延々と勝てていなかったスパーズが相手なら尚更だ。

そして、今夏の補強と放出が最終的にどのような結末に至るか。まだ1ヶ月弱、様子を見ることになる。1つ確かなことは、クラブとアンチェロッティの"本気度"を現場の選手たちは確実に感じ取っているはずだ。レギュラークラスの士気は高まり、当落線上の微妙な立場の選手からは、移籍を決断するケースも出てくるだろう。更なる競争がチームを滾らせてくれることを願う。

プレミアリーグの移籍期間は10/5までと予定されている。

マージーサイド・ダービーが早速来月に控える。目立つ山場は年末。試合数が多く、対戦相手もチェルシー、レスター、アーセナル、シティ…と、分岐点になりそうな12月だ。

システムは4-3-3、4-4-2が主体でハメス・ロドリゲスが出場するか否かで戦い方は大きく変わりそう。彼がいない状態にどういった戦いができるかも注目のひとつだ。

ポジション別展望(おまけ的な内容です)

GK: ピックフォードになりそう。開幕戦の集中力と存在感をシーズンでどれだけ維持できるか。彼を追いやる選手の台頭が望ましい、タイミングを図って第2GKの起用を求む。その上で彼の真価を見る事が出来るはず。

RB: コールマンorケニー。今のエヴァートンで、精神的なリーダーシップを発揮できるのはコールマンだけでは?と気づかされる。昨シーズンもマネを完封した姿には惚れ惚れとしてしまった。だが、個人の意見としては、ビルドアップやアシストなどの好感度を含めるとシディベがベストだった。コールマンを凌いだパフォーマンスだった。ケニーはハードワークができるし、将来性を見込めば今シーズンはできるだけ多くプレイし、コールマンの背中を見て追い越して欲しい。

CB: ホルゲイトが軸。が、10月〜11月までは怪我で離脱。大きな不安要素である。キーンがファーストチョイスになりそう。コンディション良好なら相方はミナだが、決して頑丈とは言えず怪我の心配がある。順位や対戦相手によってはブランスウェイトを。出来る事なら新たなレギュラークラスを据えたかったが…。ここへきて新たな噂も出ているが、移籍関連のゴシップには疲れてしまったのが素直な気持ち。

LB: ディニュは攻守において絶対的なキーマン。べインズの跡継ぎに申し分なし。ブランズの功績は大きいと実感できる選手だ。プレシーズンの好印象から、余裕のある試合展開や、カップ戦での格下相手ならヌクンクも積極的に起用してほしい。アンチェロッティも高く評価している。ディニュが大車輪の活躍を見せてくれる気配があるが、フル稼働させるのも怖いところ。

CM: アラン、ドゥクレがフィットするのを見極めるまでファンは耐える必要がある。とシーズン前は懸念していたがそんな思いは綺麗に晴れてしまった。前者は敵の起点を潰し、ピッチを広くカバーするダイナモ(アンチェロッティはインコントリスタと称し、戦術インテリジェンスの重要なポジションとして挙げている)、後者はスペースに入り込み、高低のライン関わらずトランジションの中心に顔を出す、ボックス・トゥ・ボックスタイプ。ベースにはゴメスを置きつつ、3人を同時起用、もしくはターンオーバーする手も。デイビスの立場が危うい。昨シーズンよりも出場機会が限られそうで、チームに残るなら是非ともトレーニングの段階から猛アピールして欲しい。彼にとっては今後のキャリアの分岐点になるとも言えるシーズンだ。私はゲイェの抜けた穴に関して何度か嘆いてきたが、アランが解決、そしてグバミンの可能性も捨ててはいけないと思う。シグルズソンは得られるチャンスでライバルとの違いを出すしかない。得意のプレースキックは、ディニュのクオリティとハメスの参戦で価値が下がっている。申し訳ないがデルフはノーコメントで。べシッチは好きなのでたくさん試合に出られる場所を見つけてほしい。

WG: 可能性として、リシャーリソン、ハメス、イウォビ、ゴードン、ベルナール、ウォルコット…と干される死人が出そうなポジション。ハメスは右側、もしくはトップ下で起用されるパターンが濃厚。ゴードンは昨年に十分できることを示し、契約延長を勝ち取った。ベルナールは昨シーズンに華麗かつ貴重なゴールを複数挙げたが、アンチェロッティ政権下では序列として低めの位置に。イウォビは両サイドOK。個人的にウォルコットのアジリティは武器だと思うが、精度と崩し、加えて守備への貢献も求むならイウォビ。健気で明朗なボラシーを忘れてはいけない。

CF: DCLが柱。2トップならDCLとリシャーリソン。2人の連携を深めればさらに数字はついてくるはず。ケーンについて。昨シーズンは、アンチェロッティの求む2トップの役割に苦労していた印象だった。トランジションにおける切り替えと、もう一方のCFとの連携が重要となる。4-4-2におけるストライカーの仕事量は多くのことが求められる。アンチェロッティの4-4-2なら尚更だ。本人もチームも辛抱して欲しい。トスンとサンドロは売却対象?

監督:  もう、存分に語りすぎなので…最後にアンチェロッティの監督論をご紹介する。

『何よりもまず、自分のプロジェクトとそれを実現するためのメソッドに揺るぎない確信を持つこと。そして、対話を通じて選手を理解すると同時に、自らの考え方や実現したいサッカーを伝え、理解させ、納得させること。序盤戦に限らず、監督が困難に直面した時にそれを乗り越えるための鍵はそこにしかない。それができなければ、監督はチームを去るべきだし、たとえそれができたとしても、結果がついてこないのであれば、やはりチームを去る以外にはない。繰り返すが、最終的に監督の仕事を判断する基準は、結果以外には存在しないのである。』<アンチェロッティの完全戦術論>より

おわりに

まず、ここまで読み進めてくれた方がいらっしゃるのなら、それは本当にありがたいことで、感謝を述べさせていだだきます。ありがとうございました。『閑人閑話』という言葉が思い浮かぶほど、思っていることを吐き出すように書き連ねてしまいました。
よく言えば、下手なりに一生懸命取り組んだ「おっさんの夏の自由研究」と題した今回のコラム、悪く言えばコンパクトにまとめられなかった自己満足の読書感想文です。笑いやユーモアに欠け、まとまりのないコラムだと思うものの、自分が得た情報を少しでもエヴァトニアンの皆様と共有できたら、とわずかな期待を持って綴ることができました。


また、普段私個人のTwitterにてリアクションをくださるフォロワーの皆様、今回文章を書くことに背中を押してくださった方々にも感謝を申し上げたいと思います。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。そして今シーズンもどうぞ、よろしくお願い致します。

BF

参考文献

*『アンチェロッティの戦術ノート』 著者:カルロ・アンチェロッティ、片野道郎

*『アンチェロッティの完全戦術論』著者:カルロ・アンチェロッティwithジョルジョ・チャスキーニ 訳者:片野道郎

*『カルロ・アンチェロッティ 戦術としての監督』著者:カルロ・アンチェロッティ 訳者:豊福 晋



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