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掌編小説、随筆

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掌編小説と随筆をまとめています。
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#創作大賞2023

残喘の喞ち言《ざんぜんのかこちごと》

 山に舂く、斜陽を愁う。
 何故こうも哀しくなるのでしょう。

 死に花を咲かす人生をと、そう思って今まで生きてきたのだが、見事に咲かせる魂も無く、慚愧がこの身を喰らうては、ただ蠢爾たる芋虫の如く、終日と、衾を被って生きている。
 そろそろ文反故をどうにかしなければならないと思いつつ、間がな隙がな心の奥処にある芥に惑溺して、ただ時間を駄目にして過ごしていた。
 其の瘠軀は貧窶にして不如意。全くの懶

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今年の秋は

 仲秋。雷乃収声を迎えた頃、初老の男は独り秋を楽しんでいた。彼岸花が並ぶ畦道に立ち、黄金色に輝く田園を穏やかな気持ちで眺めていた。今年は雷が、まるで雷神が祭の指揮でもしているかのように、雨空の中にいくつもの太鼓を轟かせていた。それ故か、今年は豊作だ。
 近くに葦原は無いが、瑞穂とはこういったものを言うのかしらんと、稲穂の原に風がそよぎ、次から次へとゆるやかな波を立てているのを見て、その美しさに酔い

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