見ず知らずの人との雑談と左利きの苦悩
私はよく知らない人に声をかけられます。道を聞かれたり、時間を聞かれたり。日本で暮らしている頃も、カナダのビクトリアで暮らしていた時も、そしてもちろんロンドンでも。
まあロンドンでは、施術台をガラガラと引っ張って移動をしていることも多いので、大抵は「何それ?楽器?」と興味津々の人だったり、「マッサージするの?名刺ある?」だったり。声をかけられなくても、割とよく凝視されたり、チラ見されたりします。なんだそのデカイ黒いものは?といった感じで。そして最近ではそこにチェロが加わりました。笑
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チェロの練習をするために、そこそこ近くに見つけた格安の部屋があるリハーサルスタジオへ向かうバス待ちをしていたところで、「それってもしかしてチェロ?」とショッピングカートを手にしたおばちゃんに声をかけられました。なんでもずっとチェロをやってみたいと思い続けているとのことでした。私も始めたばっかりだし、やってみたらいいよ、というと、おばちゃんの顔がぱああとなって、そうなの?レッスンはいくらくらい?難しい?と食いついてきた。笑
そこからしばしチェロ雑談。なんとこのどこからどうみても普通のおばちゃん(失礼な)は、パンクバンドをやっていた(今もやってる、だったかな?)そうで、パンクバンドでチェロを弾く人になりたかったのだそう。レッスンも探せばそれなりにリーズナブルに習えるし、楽器もレンタルできるし、特に私は左利きなこともあって超絶難しく感じてるけど、それでもすごく楽しいよ、興味あるんだったら絶対やってみたほうがいいよ、と絶賛お勧めしておきました。
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そしてリハーサルスタジオに到着。
実は今週のチェロレッスンはさらに散々で、レッスン中にほんのりパニックアタックに見舞われるほどでした。最近、根を詰めていることが多くて疲労感が半端なかったので、そろそろ緩めないとなと思っていた矢先のこと。楽しくて、大好きなのに、その気持ちとは裏腹に、あるべき様に動かない指、突拍子もなく現れる汚いうえにとんでもなく外れた音、力ずくで私の指をグッと広げる先生の何の為にもならないハンズオンの修正や、できてないのが明らかなのに「Well done」という態度、などなど、いろんな思いがぐっちゃぐちゃで脳が癇癪を起こしたのかも知れません。
そんなこともあって、今日は2時間とたっぷり目に部屋を予約して、練習というよりは、のんびり休み休み、いろんなことを試してみようと思いました。
まずは練習用ミュートの効力テスト。
なにしろ大家さんは上に住んでるし、私の下の部屋にいるハウスメイトはWFHをしているっぽいので、自分の部屋では弓をほんのり弦に擦る以上の音を出すのが恐ろしい。でもほんのりだと、ミュートがついててもついてなくても音量に違いが感じられませんでした。なので、ミュートをつけて全力で弓を使ったときにどこまで音が抑えられるのかを知りたかったのです。
結果は、、、練習ミュートでちゃんと音が抑えられてました。1/10くらい?これなら自分の部屋でも、いけるのではという気がしないでもありません。あとはその勇気が出るかどうか。
そして次は左右を変えてみる実験。
グループレッスンが進むにつれて、私の苦戦具合がどうもおかしいのではないか、という思いが強くなってきていました。できない理由がないところができない、誰も苦戦していないところでなぜか1人苦戦している、という気がしてならないのです。
というのもレッスンの帰り道、毎回、腕や肩がしんどいのはチェロを持ち歩いているからだと思っていたのだけれど、そう言えば手首と前腕の凝りが半端ないし、しかもその凝り方はとても特徴的だったので、これってレッスン中に手がものすごく緊張していて、力が入りすぎているんじゃないかと気づいたのです。腕や肩がしんどいのも、そのせいかも、と。手に力が入りすぎていれば、当然指も思うように動くわけがない。もちろん初心者というのもありますが、クラスメイトたちはそうでもないらしいので、ということは私が左利きなのに右利きに合わせた奏法をしているからなのではないか、と思ったのです。だとすれば、過度のストレス状態になるのも、脳がSOSを出しているのでは、という説明がつく気がします。
ということで、フィンガーボードを自分の右側に、弓を左手に持って、逆さまに弾いてみました。もちろん、普通の構え方で数週間は練習してきたので馴染みがあるのは普通の弾き方ですが、反対にしてみると、弓は右手に持った時ほどよれよれせずにコントロールが効くし、弦を抑えるのも程よく力が入らず指が動かしやすいではありませんか。弦が弓の手の位置に対して逆さまになるという不自然さを持ってしても、反対にしたほうが身体は断然楽です。
左利きであることが、難しい楽器をさらに難しくしているのは承知の上でしたが、箸も右手で普通に使ってるし、編み物なんかも右利きと同じやり方で覚えたから、大丈夫なんじゃないかと思っていました。が、そう言えばそれらは、遅くても10代という脳の適応能力が高い時期に覚えたこと。それから何十年も経った今、同じことを期待するのは、草臥れ始めた脳には酷だったのかもしれません。
オーケストラで弾く時に問題になるというのは確かだとは思いますが、そもそも今から初めてオーケストラで弾けるレベルになるまでにどれだけ時間かかるかって話だし、プロになるという可能性なんて1ミクロンより小さいわけで、心身に負担をかけて”普通”に合わせて苦しんで弾くのと、楽器の選択肢があまりにも少ないことや可能性を狭めてしまう、などという多少の不都合があってもリラックスして楽しく弾くのと、を考えたら、答えばもう出てるよね、と思ったのです。私は左手に弓で行こう、と。
それからの45分くらい、休憩を挟みつつ練習をしていたら、今までで一番音程が取れるようになってきたし、何より開放感がすごかった。”普通”なんてえふゆーってだわよ。
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あとはチェロをどうするか。調べたところ、楽器の構造上、弦を反対に張り替えるだけではダメらしいので、"普通"のチェロをそのままで逆さまに弾くか、左利き用のチェロを買うか。心配なのは、教えてくれる先生が見つかるのかということ。
反対に弾くのだと今の楽器を使えるし、アップグレードする時にもチョイスは多いけれど、それを教えてくれる先生が見つけるとなると、指導者的には嫌だろうなというのは想像できます。左利き用を使えば、教える立場からだとミラーになるだけなので、先生探しのハードルは多少下がるんじゃないかと思うけれど、この生活費クライシスやら何やらで、そもそもパンデミックからも立ち直れていない不安定な自営業がさらに不安定になっているタイミングで、千ポンド単位を趣味に費やしている場合なのかと、どちらかというと衝動的な私も流石に尻込みしてしまいます。
となるとそれまで反対で自力で勉強して、左利き用を手に入れたところでやり直す?…それもなかなか辛いけど、初心者レベルを抜ければ”普通”に慣れるらしいので、それを信じて今はひたすら苦しみに耐える?というのも、うーん . . . 嫌 . . . だな、やっぱり。
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