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それを踊りと呼べるまで③ ~庭劇場プロジェクト始動~

もうすぐ娘が一歳になる。
日々スクスクと育つ我が子を見ていると、月並みだが、この先10年、20年後のこの子の未来について、考えずにはいられなくなる。

とはいえそれ以上に日々は忙しく、未来どころか、今をこなすので精一杯。自分の未来もままならないのが現状である。
踊る事しかできない私は、果たしてこの先、この子の未来のために何が出来るのだろうか?
そんな不安に飲み込まれそうになった時、さんざん悩み、考えた挙句、私が辿り着いたのがココだった。

石井ゆかりの星読み【公式】 (cocoloni.jp)

まさか自分でも占いに辿り着くとは思いもしなかったが、妻に教えてもらった占い界の超有名人であるこの人の書く文章はとても魅力的で、ついつい読み進めてしまった。
そして私の太陽星座、射手座の今年のキーワードには、こんなことが書かれていた。

「場所」「外部」「内部」「旅」

占いを100%信じるわけではないが、意外とこれらのキーワードは、私の中でここ数年起きている変化にピタリとハマるような気がした。
そして、この言葉たちの中に、私が娘にしてやれること、私と家族の未来へのヒントが隠されているような気がしたのである。

以前ここにも書いたが、5年前、私達夫婦は東京から兵庫の山奥に移住してきた。それは単なる「場所」の移動というだけでは語りきれない、大きな変化だったのだが、その辺りの話は私のnoteに詳しく書いたので、興味のある方はぜひ覗いてみて欲しい。
地方移住4年目 ダンサー夫婦の “カタチのない生活”|TOMOHIKO KYOGOKU|note

そして移住3年目にして世の中はコロナ禍となった。
移住した新しい「場所」を拠点に「外部」に活動を広げていくつもりが、コロナによって「内部」に留まらざるを得なくなり、どこか足止めを食らったような気分でいたが、実はそのおかげで逆に「内部」が充実していったのも事実だ。

外に出かけていけない分、私達は家の内で過ごし、よく庭で踊った。
何処からか、その庭に迷い込んだ猫はいつしか家族になり、奥さんのお腹から生れ出た子は、今その猫と庭で遊んでいる。
緩やかに「内部」と「外部」が混じり合いながら、我が家という「場所」は作られていった。

全国、海外と飛び回り、“まだ見ぬ場所”を求めてダンス、舞台の世界を「旅」してきた私は、コロナによって、この2年ほぼ県外に出ていない。
しかし私の「旅」は形を変えて継続していた。
それは今までの物理的、地理的な「外部」への旅ではなく、思考的、精神的な「内部」への旅だ。

今、家、家族、暮らしといった「内部」の世界が、今まで私が海外で見た、どの風景よりも、新しく感じられる瞬間がある。

毎朝眺めている庭も、季節ごとに育つ様々な植物も、単なる風景としてではなく、生命として見えるようになった。毎年異なる種を運んでくる鳥たちと、命を繋ぐ虫たちの営み、割れんばかりのカエルの鳴き声も全て、数え上げればきりがないほどの命の連鎖として見え、庭全体が生きているように感じることがある。

そのことを最初に私に教えてくれたのは、奥さんだった。

10年以上空き家で、荒れ果てた我が家の庭を、誰よりも世話し、花を植え、土を耕し、整えてきたのは彼女だった。
コロナ禍でもこの庭があったからこそ私達は、マスクなしで気兼ねなく過ごすことが出来た。
大げさではなく私たちの生命は、この庭に救われたと言ってもいい。
そして奥さんの地道な仕事のお陰で、私たちは家に居ながらにして「旅」を味わうことが出来たのだった。

庭だけでなく、近所の散歩道を流れる川にも癒された

「場所」「外部」「内部」「旅」

図らずも、占いにあった全てのキーワードが出そろった今年、私達はお世話になったこの庭と共に、新たなプロジェクト「庭劇場」をスタートさせることとなった。

「娘が、身近に芸術に触れる機会を作りたい」という奥さんのアイデアから始まったこの企画は、読んで字の如く、自宅の庭を劇場に見立てて観客を招き、私達がパフォーマンスを行うというものだ。

本格的なオープンはまだ先の予定だか、今回はプレオープンと称して、まずは神河町で活動している野外自主保育団体、みあいっ子の子供たちを招待する事にした。

数日前から子供たちのもとに「謎の招待状」(みあいっ子のお母さんの手作り!)が届くところから始まり、当日、集合場所に突然現れた庭劇場支配人に誘われ、劇場への入口を探す旅が始まる。

謎の劇場支配人(キャラはまだ定まってない)
劇場の入り口を探す旅

宝探し、からだあそび、絵本の読み聞かせから飛び出した、猫たちのパフォーマンス、おやつの分け分けワークショップと盛りだくさんの2時間。
娘はもちろん、子供たちも本当に楽しそうに過ごしてくれた。

劇場に到着したら、さっそく「からだあそび」
持ち寄ったおやつを、どう工夫すれば人数分に均等に分けられるか?
絵本『やまねこのおはなし』の世界から飛び出した猫たちのダンスパフォーマンス

元はと言えば、コロナと移住と育児とで、劇場で中々踊れなくなった私達が、最も踊っていた場所が我が家の庭で、「劇場に行けないなら庭に劇場を作っちゃおう!」という思いつきから始まったこの企画。

「娘に見せるだけじゃなく、普段なかなか芸術に触れる機会の無い子供たちにも見せてあげたい!」となってから実現するまでが、かなり大変だったが、当日起きた様々な出来事や、そこに至るまでのプロセスの中にも、私達が娘の未来のために出来る事のヒントが沢山あったように思う。

庭という「場所」は「内部」でありながら「外部」であり、そこに生まれる生命は、訪れる私たちの身体の「内部」に活力を与え、私たちの「外部」への営みを後押ししてくれる。そのエネルギーは「旅」をして巡り、また新たな「場所」に活力を与えていく。

「庭劇場」が出来るまでのプロセス。それは正に娘の育つ「場所」自体を育てていくことだったように思う。

それは私が親になるまでの準備期間でもあったし、地域の子供達、親達との関係性を築いていくための時間でもあった。
実際に私達がみあいっ子の子供たち、親達と出会ってから、今日に至るまで3年以上は経っているし、今回おやつのワークショップをしてくれた中島明日香さんとの付き合いは、それ以上に長い。
そう考えると、娘が生まれる前から「庭劇場」は始まっていたのかもしれない。

●みあいっ子の皆さんが出演してくれた
かみかわハート体操 座位編
●中島明日香さんにお手伝い頂いた作品
豊岡演劇祭2020フリンジ 竹野町 猫町ウォーキング

蒔いた種が実るまでには、多くの時間と手間暇がかかるが、荒れた庭を耕し、整えることで鳥たちが帰ってきたように、「内部」を豊かにしていくことが、やがて「外部」に繋がっていくということを、私はこの「庭劇場」を作るプロセスの中で改めて実感することが出来た。

自分がアーティストとして最前線で活躍することに必死だった私が、そんなことを思えるようになったのは、この庭と娘と猫、そして何より今まで私と苦楽を共に「旅」してきた奥さんのお陰だと思っている。

始まったばかりの私たち家族の「旅」は、まだ見ぬ未来へと進み始めたが、悲しいかな既に一つだけ分かっていることがある。
それは、娘はいつかここを旅立っていくということだ。

いつか私たちの手を離れ、多くの「外部」に触れあう冒険に繰り出す娘の為に、今私に出来ることは、「内部」である我が家を娘が安心して帰れる「場所」にすること。
そしてそのために私たちは「外部」への「旅」を続けながら「内部」を充実させることを止めないでいることだ。
 
占いにヒントをもらうような、頼りない親でゴメンという気持ちと、こんな変な親は他になかなか居ないという自負を持って、これからも娘の成長を見守りたいと思う。いつかこの場所が、娘の未来と繋がるその日まで。

私たちの「場所」作りはまだ、始まったばかりだ。



京極朋彦の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/mf4d89e6e7111


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