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映画『BLOODY ESCAPE』ハード路線全開の谷口悟朗スタイルに涙を流す

 全人類のおよそ99%が、人生に一度は「改造人間と吸血鬼とヤクザがドンパチやる映画が見てぇ!!」という欲望をむき出しにする時期がある、と言われているが(そんなことはない)そんな欲望を満たす映画が、今年の1月に公開された。

 そう、『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』である。上記の予告映像を見てもらえばわかっていただけると思うが、この映画は完璧にして究極のハード路線活劇映画である。

 筆者は公開当時に見に行ったが、そこで物凄い衝撃を受けて帰ってきた。吸血鬼に血を吸われつつヤクザにハジキを向けられていた時に改造人間からキックを食らうような、まさしくそんな映画だった。

 主人公は改造人間にして吸血鬼のキサラギ。この男はとある事情により吸血鬼の集団から逃走を続け、新宿クラスタなるヒロインが住む場所に逃げてくるのだが……だが。ストーリーは実際に映画を見てもらった方が早いだろうから、割愛する。

 この記事で述べたいのは、何と言っても『主人公であるキサラギの谷口悟朗らしさ』『敵にして吸血鬼の親玉・転法輪の谷口悟朗らしさ』『ハードスタイルバトルの谷口悟朗らしさ』である。「谷口悟朗しかないじゃないか!! どうなってるんだこの記事は!!」と思われる人もいるかもしれない。そう、この記事には谷口悟朗しかいないのである(ゴメンナサイ谷口悟朗監督……)。

 まず、主人公であるキサラギの谷口悟朗らしさについて。主人公のキサラギは、一言でいうとクールで寡黙な改造人間……サイボーグである。そこは正直、谷口悟朗らしいとはそこまで思わない。しかし、だがしかしキサラギはそのクールな皮を一枚剥がすと、熱い感情を内に秘めた人間であることがわかってくる。

 この熱い感情、激情はキサラギの過去に関わってくるのだが、そこを語るとネタバレになるので、あえて言及はしない。重要なのは、この記事を見た人に「へー、この映画面白そうじゃん」と思ってもらえることだからである。そしてできればネタバレなしで映画を楽しんで欲しいからである。

 とにかく、キサラギの内に秘めた激情は、因縁の敵・転法輪との戦いによってその姿を徐々に現してくる。自分の考える谷口悟朗らしさとは『余裕ぶっこいてようがおちゃらけてようが、どんな時でもこれだけは譲れない、絶対的な芯、男としてのプライドがあること』であるが、まさしくそれがぴったりとキサラギには合ってくるのである。もっとも、キサラギは余裕ぶっこいたりおちゃらけたりするわけではないが……。

 筆者が見た谷口悟朗監督作品で、一番キサラギに近いと感じたのは『ガン×ソード』のヴァンだった。ヴァンは普段はぼんやりとしていて頼りにならなさそうな雰囲気を出しているものの、愛する妻を殺したカギ爪の男に関係したとなれば、激情を表に出し怒りと共に敵を倒す、というクールさと激しさを兼ね備えたキャラである。

 そのようなヴァンと、キサラギはどこか似ていると筆者は感じている。勿論、違うところは多々あるのだが『やる時はやる』そしてそのやり方が非常に似ていると感じたのだ。そして案外、ヴァンもキサラギも根は優しい人間であったりする。そういう根底が、やはり似ていると思うのだ。

 次に、敵にして吸血鬼の親玉・転法輪の谷口悟朗らしさについて。転法輪はとある理由によりキサラギを追っているのだが、この転法輪にもやはり谷口悟朗らしさがある。

 一言でいうとそれは『理解できない人外の考え方をしているにもかかわらず、それでいてどこか人間を捨てきれていないところ』である。これを言うとちょっとしたネタバレになってしまうので、あまり書きたくはない部分である。

 転法輪は吸血鬼である。今作での吸血鬼は、集団……種の生存を最も意識する生き物となっている。それ故、多少の犠牲が出ても吸血鬼全体が生き残ればオールオッケー、そういう考え方で転法輪も配下の吸血鬼たちも動いている。だがしかし、転法輪はとある理由によりそうとは思えないような行動を取っている事がある。そこが正に、谷口悟朗らしさなのだ。

 人であることを捨てたはずなのに、人を捨てられない。激情の感覚を忘れられない。そう、先ほどのキサラギと『激情を持っている』という部分が共通しているのである。思えばスクライドのカズマも、ガン×ソードのヴァンも、全員激情を持ち合わせていた。

 「でも激情を持つキャラって、ほとんどの創作物には大抵いるんじゃない?」とそう思われるかもしれない。実際そうである。そういう作品は多い。ただ、谷口悟朗の激情には、その裏には『クールだが暑苦しい漢の姿』が秘められているのである。

 スクライド第十二話予告編のセリフには、このような言葉がある。「馬鹿な男と吐き捨てて、クズな男と揶揄される」。これは谷口悟朗が描く男のキャラクター、そのほぼ全員に言えることである。バカだと言われ、クズだと言われ、だがしかし譲れないものを秘めている。そしてその内なる激情を解き放ったその時、たった一つの『漢』の地位を確立する。そのような生き様を、谷口悟朗監督作品の男たちは見せてくれる。

 よくわからない文章になってきたが、とにかく。この映画の主人公であるキサラギと敵である転法輪には、そういった激情からくる『漢の美学』が含まれていると、自分は強く感じたのだ。

 最後、ハードスタイルバトルの谷口悟朗らしさについてである。谷口悟朗と言えば熱いバトル、と思うほどに筆者はは谷口悟朗とバトルの関係は密接であると考えている。

 少年漫画的な熱さを含むバトルでありながら、しかしその実、昨今では最も少年漫画らしいとも言える『卍解』や『領域展開』、『セコンズ』のような必殺型の技はあまり使われていない、というのが特徴的である(スクライドの主人公・カズマの『抹殺のラスト・ブリット』は一応必殺技と言えなくもないが、あまり使ってないことから今回はノーカウントとしている)。

 どちらかというと谷口悟朗監督は、必殺技による瞬間的な見せ場よりも、今までの流れを積み重ねた上での見せ場を重要視しているように思える。勿論、必殺技のような瞬間的な見せ場もあるにはあるが。

 谷口悟朗監督は全体的に、物語をロジカルに作る方ではないだろうか。「この要素があるからこのキャラがこういう行動を取る、では対立させた場所にこのキャラを置いて、キャラとキャラが戦わないといけない下地を作ろう」と考えている要素が強いように感じた(どこで見たかは忘れてしまったので、あくまで噂程度にとどめて欲しいが、谷口悟朗監督自身も「物語はロジカルに作る方だ」と言及されていたような記憶がある)。

 本作、BLOODY ESCAPEにもその傾向が表れている気がする。あくまでも理由が薄いまま戦ったりはせず、しっかりと「こういうことがあって今こうであるから、だから戦う」という導線が引かれてあったように思う。そして、その流れの上で少年漫画的熱さを爆発させ、手に汗握るバトルを展開しているのだ。

 ……と、ここまで語ってきたものの、筆者自身は完全にこの映画に満足できている、というわけではない。好き勝手言った挙句、映画に満足できてないというのは世話ないが、それでも谷口悟朗監督ならさらに面白いアニメや映画を見せてくれる気がしてならないのだ。

 自分にとって谷口悟朗監督作品はバイブルであり、漢の美学をキッチリ余すところなく教えてくれる唯一無二の創作物である。ぜひ一度は、これを読んだ皆さんにも見て頂きたい。

 きっとこの映画を見終わる頃には、拳を熱く握りしめて何かを殴りたくなっているだろうと思う。しかしその衝動は、絶対に人やモノに向けてはならない。代わりと言っては何だが、拳を高々と天に突き上げて、空に向けて宣戦布告をしてみて欲しい。きっと、今よりも清々しい気分になれるはずだ。



(ヘッダー画像引用:映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』公式サイト (bloody-escape.com)

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