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元MUFG役員が語る、経営者が実践すべき「人的資本経営」と「資産形成支援」

「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」という企業理念のもと、現在および将来にわたり、人々が「お金の心配なく」「自分らしく働ける」社会を目指す株式会社ベター・プレイス。医療、保育や介護など、人々の生命と社会生活を支える人たちの資産形成や福利厚生を支援するための「はぐくみ基金」の設立のほか、DXにより企業年金を刷新し、初心者の方でも手軽に老後の資産形成ができるような取り組みを行っています。

当社顧問であり、三菱UFJフィナンシャル・グループにおいて常務執行役員を務められていた西本浩二氏は、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の各社において証券業務や投資信託業務に従事し、モルガン・スタンレーとの交渉・協働責任者として、メガバンクとグローバル投資銀行とのジョイントベンチャーを成功に導いた方です。今回は豊富な経験をお持ちの西本氏に、なぜ今、日本企業に「人的資本経営」が必要なのか、および、従業員の「資産形成支援」の重要性についてお話を伺いました。

成長する企業の条件は「ミッションへの共感」と「カルチャーの醸成」

—西本さんは、メガバンクとグローバル投資銀行とのジョイントベンチャーで大きな役割を担われましたが、そうした経験を通して感じた日本企業と外資系企業の違いについて教えてください。

グローバル企業には次のような特徴があります。
● 「実質上世界でひとつの会社」
● 多種多様な人材が働く

まず、「実質上世界でひとつの会社」とはどういう意味なのかをご説明しましょう。たとえばわたしが所属していた三菱UFJフィナンシャル・グループにも日本中はおろか、世界中にたくさんの会社があります。しかし多くの場合、各社は世界中でそれぞれ「独立」した形で存在しています。一方、モルガン・スタンレーにも、世界中に多くの会社がありますが、法律上は分かれた会社であっても、基本的には「モルガン・スタンレー」というひとつの会社であり、真のグローバル企業でした。一例を挙げると、各会社に財務責任者はいますが、その責任者のボスはモルガン・スタンレー本社の財務責任者になっています。

さらに、人種や民族も多種多様です。日本企業も変化しつつあるとはいえ、やはり本社内では「日本人」が大多数で構成されていますが、外資系は、文化圏の違う人々が普通に当たり前に一緒に働いています。

—世界中に会社があり、多種多様な人たちが属しながら、なぜ「ひとつのモルガン・スタンレー」として同じ方向を向いて仕事ができるのでしょうか。

いくつか理由はありますが、柱となっているのがコアバリュー、つまりミッションやバリュー、あるいはパーパスを重視している点です。

ミッションやパーパスに強い共感があれば、会社に貢献しようと思えるし、やりがいも感じます。みんなが同じミッションをめざしているからこそ、世界各国・多種多様な人が属しながら「ひとつの会社」として機能しているのでしょう。

今でこそ多くの日本企業がミッションやパーパスの重要性を認識し、明示を始めていますが、少し前までは、社是や経営理念はあっても、社員全員が共有してそこをめざすような明確な「ことば」はありませんでした。

企業のパーパスに共感した人々が集まり、一体感を持ったカルチャーが醸成されていくことは、企業の成長には欠かせない大きな強みだと思いますし、これからより一層重要になるでしょう。

ウェルビーイングと社員エンゲージメントが「企業価値」を向上する

—では、最近よく聞かれる「人的資本経営」の必要性についてお聞かせください。

人的資本経営の最終的な目標は「企業価値の向上」です。
人的資本経営では、次の3つがポイントになると考えています。
● リスキリング
● 賃上げ
● 人材戦略

リスキリングは最近よく耳にする言葉ですが、わたしは「人の力を最大限に発揮できるようにすること」だと捉えています。人材を育成することへの投資は、その人がより企業で活躍することに結びつき、結果として「企業価値の向上」に貢献します。

と同時に、まさに「人への投資」という面では、賃上げが重要です。ずっと給料も停滞したままの日本は経済成長が感じられません。今はインフレですが、去年の上昇率を見ると2.5%、12月だけなら4%くらいですね、そうしたら最低でも2〜3%の賃上げは実践したいところです。ベター・プレイスも賃上げを行いましたよね。

—ベター・プレイスは2023年1月にインフレ率を上回る5%の給与アップを決定しました。

それは評価されるべき点です。さらに重要になるのが、人材戦略です。急激に時代が動いている今、企業も変革が必要です。経営戦略は段階的にですが時代と共に動いています。しかし人材戦略はついていっていません。終身雇用、メンバーシップ型、年功序列から脱却し、人事制度そのものを変えていかないといけません。いわゆるジョブ型といわれるものです。

ジョブ型とは、「こういう業務が必要である」「その業務をするために必要な能力やスキルを持つ人材を採用する、あるいは育成する」ことです。

たとえばユニクロの賃上げが話題になりましたが、私の視点から申し上げると、あれば賃上げというより、人材戦略のトランスフォームですね。人事制度そのものを変えて、結果として給料も上がるというトランスフォームを行っているのです。

しかし、大企業の多くは「従来からある仕事を1万人の社員に割り当てる」方式のままです。

事業や業務に合わせた人を育てるか採用するのが人材戦略であり、それに必要な採用費用とか教育研修費用は、コストではなく「人への投資」です。要するに「人件費」ではなく「投資」と捉えるべきというのが、人的資本経営の基本です。

—人の採用などに関わる人事部門の役割は大きいということでしょうか?

そうですね、市場に対峙しているのは経営者であり、財務責任者であるCFOです。今後は、人的資本こそ企業の強みであるという考えのもと、CHRO(最高人事責任者)に対する市場からの注目度がアップするのではないかと思います。

—社員エンゲージメントやウェルビーイングという言葉も最近よく耳にします。人的資本経営とも関係すると思うのですが、西本さんのお考えを聞かせてください。

社員が自発的に会社のために貢献しようという気持ちを持つことが、社員エンゲージメントです。人的資本経営のベースには社員エンゲージメントがあります。

ウェルビーイングはもともとWHOが提唱した言葉で「人は幸せであるべき」という観点ですが、わたしはビジネスにおいては「社員が活き活きと働いている」と解釈しています。

企業側の視点で見ると、社員が活き活きと働いていれば生産性が上がり、企業価値が向上します。社員側の視点では、身体的にも精神的にも良い状態で働けることで幸せにつながる。社員満足度が上がり、ミッションやパーパスへの共感と相まって企業への愛着が深まり、貢献したいと思うようになる。ウェルビーイングに取り組むことは、社員エンゲージメントの向上を意味します。

中小企業こそ「企業年金」を活用すべき

—今、岸田政権が国民にどんどん投資をしましょうと推奨しています。西本さんは長く金融業界に携わられていますが、投資は今後進むのか、あるいは進まないならその理由はなぜか、ぜひご意見をお聞かせください。

「貯蓄から資産形成へ」という提言には2つの意図があります、ひとつは国の経済を回すための投資で、対象は主に高齢者や富裕層です。もうひとつは、少子高齢化が進む中で将来への不安を軽減させるための資産形成で、これはどなたにもあてはまりますし、特に若い世代が資産形成に積極的です。

実際につみたてNISAは680万口座*開かれていますが、約半分は20代から30代で、ものすごい勢いで増えています。

*参考:2022年9月末時点で684万口座開設 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20230112.html

—将来の資産形成の方法として、NISAやiDeCoがあり、あるいは株式投資もあり、そして企業が提供するDB(確定給付企業年金)、企業型DC(企業型確定拠出年金)があるわけですが、経営者目線から企業年金の整備はメリットがあるとお考えですか?

まず、年金はとても重要だということを認識していただきたいですね。自営業者は国民年金、雇用されている人は厚生年金となっていますが、実際には雇用されているのに国民年金の人が1,000万人以上いると言われ、由々しき問題です。政府の政策でパートやアルバイトの方の厚生年金加入が増えつつありますが、なるべく多くの人が加入できるようにしなくてはなりません。

そして厚生年金に加入したら、特権のひとつである「企業年金」はぜひ使うべきです。細かくは解説しませんが、政府が税金を優遇してくれる大きなメリットがあります。企業年金で積立をし資産形成をすることで、将来のお金に対する不安を低減させることができ、先ほど申し上げた「ウェルビーイング」にも繋がります。「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とも言いますが、働きがいだけではなく、安定した生活は働く人の幸せの土台となります。ですから大企業のように高額な退職金や高年収が難しい中小企業こそ、企業年金を活用すべきです。結果、社員のエンゲージメント向上にも役立ち、自分の会社に返ってくるものも大きいはずです。

とはいえ、企業年金には不幸な歴史もあります。大企業は金利5%の時代に確定給付型の厚生年金基金を整備し、そして低金利が長引いた結果、破綻するケースが多発しました。ですから大企業にいる昔の年金制度を知っている人は、確定給付型であるDBに対してあまり良い印象をもっていません。

—たしかに厚生年金基金の破綻による印象は強く残っているように感じます。はぐくみ基金も、確定給付型であるDBのひとつですが……。

ですから、わたしは最初に、主にエッセンシャルワーカーに向けてDBをやろうとしている会社があると聞いて驚きました。しかし内容を聞いて、「なるほど」と思いました。

たとえば、60歳未満でも休職時や退職時に受け取れる。スマホひとつで残高が見られて、誰にでもわかりやすく使いやすい。金融の知識がなくても、安心して利用できる。はぐくみ基金は、DBのメリットを捉えた、社会を支える人たちのニーズに非常に寄り添った仕組みとなっていますね。

—では企業型DCについては、いかがでしょう?

ベター・プレイスにもDCがありますが、個人的には、DCもぜひ使っていただきたい思いがあります。

なぜかと言えば、結局、今の日本で格差が開いているのは、富裕層は株でさらに資産を増やしているからです。ところが、普通に暮らしている人たちは株を持っていない。ゼロから増やすことはできません。ですからリスクはあるにしても、DBだけではなく株式に投資する投資信託や、投資信託を使ったDCにもぜひ関心を持っていただきたいですね。

—おっしゃる通りかと思うのですが、今までの社会人は人生で金融教育を受けたことがない人がほとんどで、なかなか投資信託には踏み切れないところがあると思うのですが。

確かに金融とか資産形成について、これまで啓発する活動は少なかった。それに金融の話はどうしてもうさん臭く聞こえる(笑)

ただ、最近では動画などで資産形成や金融商品について、とても分かりやすく詳しく説明されているものもあります。若い人たちが資産形成や投資に関心を深める傾向があるのは、こうした影響も大きいのかなと思います。

証券投資とは、世の中の成長の果実をそのまま受け取れるメリットがあることは、ここでもぜひ訴えたい点です。

創業の強い思いがベター・プレイスそのものである

—ベター・プレイスの良さはどこにあるとお考えでしょうか?

ベター・プレイスの一番の良さは、やはり創業の思いです。創業の思いが、ミッションやビジョンに包括されています。そしてミッションに触発されて、賛同する人たちが集まった会社というのが大きな強みです。

加えて、社長は金融業界でさまざまな経験をしており、高い志にプラスして実現できる能力があります。会社が一体となって、創業の思いをカタチにしていこうと前向きに取り組んでいるのが良いところだと思います。

—では、最後に、「はぐくみ基金」の成長について、ご意見をお聞かせください。

「はぐくみ基金」は順調に加入者を伸ばしています。もともと素晴らしい商品であれば、営業は難しくありません。「はぐくみ基金」でいえば、サービスについてわかりやすく情報を伝えさえすれば、加入者は増えるでしょう。

怪しいモノを売るときこそ「ものすごい営業力」が必要になるんですよ(笑)良い商品は過大な営業をしなくても、きちんと売れるものです。

ベター・プレイスはすべての働く人々に「資産形成」が身近にあるもので、誰もがお金の心配なく暮らせるベースになるものだと、これからも金融の大切さを啓発し続けてほしいですね。

そして正しく自社を運営し、やさしい人がやさしいままでいられる社会の実現にぜひ貢献してほしいと願っています。



ベター・プレイス顧問 西本 浩二
1982年旧三菱銀行入社。2022年3月まで三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の各社にて主として証券業務に従事。40年間で合併・統合を5回経験。証券会社における対UFJ合併事務局長として、システム統合を含む大規模合併プロジェクト管理を完遂。同グループ証券会社CFO兼モルガン・スタンレーとの交渉・協働責任者として、当時懐疑的に受け止められていたメガバンクとグローバル投資銀行との合弁証券会社を成功に導いた。
持株会社である三菱UFJフィナンシャル・グループ常務執行役員(財務・経営戦略・経営管理の副担当)、経営会議メンバーとして持株会社経営に関与。
三菱UFJ国際投信株式会社の副社長として、ESG投資の高度化、つみたてNISAの普及に貢献。
【現任】株式会社iCARE取締役(独立社外)


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