見出し画像

チャレンジを後押しすること

大学生の頃、大学野球部で学生コーチをしていました。3年秋のシーズン以降は事務方の主務も兼任し、比較的他の大学野球部の学生スタッフよりもノビノビと主体的に活動させてもらえていました。

学生コーチとは高校野球ではそう多くない珍しい役割ですが、大学野球になると多くのチームにおいて学生がコーチングスタッフを務めています。何をしているかはその野球部ごとに異なってきますが、将来指導者を目指している学生にとっては非常に良い学びを得る経験ですし、そうでない学生にとっても一足先に大人の世界を学ぶ貴重な経験になる場です。

さて、学生コーチをしていると同級生や後輩などから進路や将来の相談を受けることがあります。指導者や教員になると受け持った選手や生徒の将来に対しても責任を持つことになるため、こうした相談を受けることも学生コーチとして得られた貴重な経験です。

その中に、大学野球を引退後に海外で野球を続けた同級生がいます。その彼が現在その経験を野球を始めた時から順を追ってブログにして発信しています。それが以下の記事です。

私たちが所属していた大学は部員が100人を超える大所帯のチームであり、スターティングメンバーになるだけでなくベンチメンバーの25人の枠を勝ち取ることも大変です。そんな環境下で努力を重ね、目標に向かって軸を曲げることなく取り組み続けた野球に対する姿勢は素晴らしいものです。

記事では、目標に向かって進んでいく中で様々な考え方などを吸収しながらチャレンジを続け、またチャレンジした結果得た考え方や経験をまとめています。これからチャレンジをしていこうと考えている人たちの後押しになるような記事づくりに努めています。

これを踏まえて、私の中での視点をまとめてみようと思います。

コーチはアスリートの競技力向上だけでなく、社会的・心理的な幸福に対しても責任を持っているとされています(Werthner & Trudel, 2006; Horn, 2008; Côté & Gilbert, 2009)。スポーツが上手になることだけでなく、スポーツを通して得られる様々な効果をアスリートが享受できることも、コーチが支援する必要があります。また、「あの時の監督の教えが今役に立っている」といったような話はスポーツをしていた人ならばよく耳にする、もしくは他の人に話しているのではないでしょうか。スポーツをしていた人の多くが感じているように、コーチはアスリートの将来に対しても影響力を持っています。

そのため、コーチはそうした役割を果たすためには競技スキルを習得させるためのコーチングスキルだけではなく、ある程度アスリートの将来の目標へ進んでいくための相談に乗れるだけの知識が必要となってきます。そして何より大切なのは、偏った視点でアドバイスをしてしまわないことでしょうか。

例えば、今回紹介した記事の中でも海外への挑戦に対して”一般企業への就職”をアドバイスされています。当然このアドバイスも、一意見として正しいアドバイスです。将来のキャリア形成のために様々な理由を踏まえた上でのアドバイスなはずです。

しかし気をつけなければならないのは、海外挑戦で得られることや海外挑戦後の人生について熟考した上で一般就職をアドバイスしたのかどうかです。

人は自ら進んだ道を根拠にアドバイスすることはできても、そうでない場合は推察してアドバイスをするしかありません。海外で野球をした経験がなければ、海外挑戦に挑もうとする人に自身の経験からアドバイスすることはできません。経験がないということは情報や知識がないということです。情報や知識がないからこそ、選手が挑もうとする挑戦が実現する具体的なイメージが沸きにくくなり、一般就職を進めがちになってしまうかもしれません。

その結果として一般就職を進めるのは相談になっていません。あくまでも大卒で就職をした先の人生についての情報・知識だけで考えた話であり、大卒で就職することによるメリットとデメリット、海外へ挑戦することによるメリット・デメリットを考慮した上で総合的にみてアドバイスをしていくべきです。そして、経験したことのない進路(今回で言えば海外での野球の挑戦)については、できる限り情報・知識を探す必要があります。知人を頼って話を聞く、様々な人のブログを参照してみるといったことも大事なことでしょう。

そうしたできる限りのリサーチをした上で、コーチ自身の意見を作り上げ、アスリートに”提案”していくことが大切だろうと思います。進路の悩みや不安は、情報や知識がないからこそ、先が分からないから故に生まれている場合があります。そうした不安などを解消していくための情報や考え方を提示しアスリートが取捨選択できるようにしていくことも大切かもしれません。

また、挑戦を後押しするようなポジティブな言葉がけも些細なことかもしれませんが、かなり重要になってきます。前向きな言葉を活用することで、不安による余計な考えをぬぐい、目標に向かって一直線に突き進めるよう支援することも大切です。

こうしたコーチとしてのアドバイスや後押しは、自分の経験だけではなく他の人の挑戦を模擬体験することで上手になっていくことと思います。模擬体験にはこうしたチャレンジしていた人の話を聞いたり、このようなブログを読んでみたり、書籍を買ってみたりして得ていくことができます。

この情報や知識の蓄積があるからこそ、自分が経験していないことにアスリートがチャレンジしようとしたときに偏りなく後押ししていけるようになります。より多くの情報を収集し、多面的に考えながらアスリートの目標達成を支援できるようでありたいものです。


引用参考文献

Côté, J. & Gilbert, W. (2009) An Integrative Definition of Coaching Effectiveness and Expertise. International Journal of Sports Science and Coaching, 4(3): 307-323.
Horn, T. S. (2008) Advances in sport psychology, Human Kinetics.
Werthner, P. & Trudel, P. (2006) A New Theoretical Perspective for Understanding How Coaches Learn to Coach. Sport Psychologist, 20(2): 198-212.





よろしければサポートをお願いいたします! いただいたサポートは研究や記事執筆のための活動費に当てさせていただきます!