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べてるの家のオンラインマガジン「ホップステップだうん!」 Vol.295




・「馬、馬、馬」 江連麻紀

雑誌で特集される「子ども・若者当事者研究」の撮影依頼をいただいて、先日編集者と一緒に北海道に行ってきました。
札幌や静内にある3ヶ所の当事者研究会に参加させていただきました。詳しくは夏に発売予定の雑誌ができてからご紹介します!

日高地方にある静内への移動はレンタカーを借りて移動しました。馬好きの私はこの移動も楽しみのひとつでした。
日高地方はサラブレッドの名産地で道路の両脇に馬牧場がいくつもあって放牧された馬たちが見えてきます。他にも日高地方は街灯、マンホール、道路標識、看板、モニュメント、あらゆるところが馬だらけで、馬好きのいわゆる聖地です。

私は4年前のコロナ禍で仕事が減って時間を持て余していたところ、べてるの家がある浦河の馬のいる景色の影響もあって、以前からやってみたいと思っていた体験乗馬に行ったら見事にハマって乗馬クラブに入会し乗馬ライセンス3級を取得したほど通っています。

私の乗馬が好きな理由ひとつめは、乗馬の心地よさは「いまここ」でい続けられるところです。思考が過去のふりかえりや未来の予定とぐるぐるとしている日常から解放されていまここしかなくなります。他のことがよぎったとしてもすぐに馬がいまここに引きもどしてくれます。

ふたつめは、馬と人は人の言葉ではなく確かなやりとりをするところです。聴覚が過敏にも関わらず言葉が入ってきづらいといういびつさのある私は、身体を使って表現する馬の言葉は理解しやすく馬とのやりとりに長けているようです。また、自分自身の感じていることを言葉にすることもどうもしっくり来ないと思うことが多く、言葉を使って他者や自分とつながろうとするとずいぶんとエネルギーを使います。馬とは言葉を使わないため得意な感覚だけにエネルギーを使うことができて頭は疲れません。(乗馬はスポーツなので身体はぐったりとしています)

みっつめは、異種間の信頼関係。それぞれの馬のクセを感じるほど私は自分の姿勢と身体とつながって自分らしくいられます。そのうえで信頼関係が深まったとき私と馬の境界線があいまいになっていわゆる人馬一体になったときの心地よさを感じています。

残念なことに日常で馬好きな方に会うことがないので馬好きな方はぜひ教えてください!これからもべてるがあって馬がいる日高地方に通おうと思います。

・文/写真:江連麻紀


・べてるまつり2024開催についてのご案内

日時:2024年10月4日(金)・5日(土)
場所:北海道浦河町文化ホール
プログラムの内容:浦河べてるの家、40周年記念企画お楽しみに!
<宿泊場所について>
例年、町内のホテルや宿が満室になることが予想されております。町内が満室の場合は、多くの方は隣町の施設を予約されることが多いです。
各ホテルの空室状況については、直接各施設へお問い合わせくださいませ。(ウェブではなくお電話での空室確認をお勧めします)
浦河への交通手段・宿についてはこちらをご参考ください。

・ 日本精神障害者リハビリテーション学会 第31回東京お台場大会のご案内

学会名称:日本精神障害者リハビリテーション学会 第31回東京お台場大会
テーマ:多様性と調和 ~台場シティで調(ととの)う~
会期:2024年12月14日(土)~15日(日)
会場:東京有明医療大学(〒135-0063 東京都江東区有明2丁目9番1号)
参加者数:約1,200名
開催目的:本会は精神科リハビリテーション学に関する研究発表、連絡、提携、及び研究の促進を図り、これらの進歩、普及に貢献することを目的とする。
大会長:肥田 裕久(医療法人社団宙麦会ひだクリニック 理事長/院長)
副大会長:角田 秋(東京有明医療大学看護学部看護学科 教授)
     佐々 毅(医療法人社団宙麦会ひだクリニックお台場 院長)
実行委員長:中田 健士(株式会社МARS 代表取締役)
主催:日本精神障害者リハビリテーション学会

⚫︎参加登録受付中!

精リハ学会は、2010年に浦河でも開催した学会です。
今年の東京大会はべてるからもメンバー・スタッフがたくさん参加する予定です。
みなさん、東京・有明(お台場)でもお会いしましょう!


●新刊「弱さの情報公開」

2023年10月発売の最新書籍です。
2020年に発売しご好評をいただきました「弱さの研究」の続編。
不寛容な社会での孤立と孤独「つながり」を考える。

一部では、カーリング日本代表の吉田知那美選手とべてるの家の人や
向谷地生良氏との「強さと弱さ」についての対談。

二部では人と人の「つながり」を各章で考察、依存症、認知症の孤独について、本当の「つながる」ことの意味を考える。

<目次>
まえがき―「弱さの情報公開」の源流 
一部 弱さの情報公開
一章 弱さの情報公開 
二章 弱さを認める 
三章 行き当たりバッチリ 
二部 つながる
四章 わたしが「ダメ。ゼッタイ。」ではダメだと思う理由 
質疑応答 
五章 「認知症と繋がる」ということ 
六章 あいだは「愛だ」 
七章 地域と人と苦労で繋がって(向谷地生良氏最終講義) 

●大反響増刷中!
『子ども当事者研究 わたしの心の街にはおこるちゃんがいる』

本体価格:990円+税、出版社:コトノネ生活



・「北のバラバラな日々」 (48) 笹渕乃梨

6月のわたしは意図せず体メンテ月間でした。婦人科系のがん健診、乳がん検診、そして歯科受診。さいわい子宮界隈もおっぱいも健康でした。よかった。しかし、口腔内は思いもよらない散々な状態だったのです。

白状すると歯科受診は3年以上ぶりでした。これには弁解したいワケがあるのです。それは、これまで15年ほどお世話になっていた歯科医院の電話がある時からなぜか繋がらなくなってしまったのです。最後の治療のときも、何度も何度も電話をし1週間くらいかけてやっと予約が取れてなんとか受診できたのですが、直後治療した歯が壊れ、それからは二度と電話がつながらなくなってしまったのでした。
電話がつながらないワケを最後の受診時に訊ねてみると「予約のない時間は往診に出ていて人がいないから」という話。一切のアナウンスなく往診メインの歯医者になっちゃったなんて!というマイペースさに思わずのけぞったのは何の比喩でもありません。患者サイドとしてはちょっと困るけど、そうしたいなら仕方あるまい。

そんなわけでわたしは歯医者の鞍替えに踏み切りました。いくつかの歯医者を受診したものの、わたし自身も歯医者のほうもクセが強すぎて折り合いがつかず、しだいに歯医者を新たに探すことも歯科受診のことも忘れ、壊れた歯のまま暮らしていたのでした。しかし先週、数年間がんばってくれていたもう一つの詰め物が「クリーム玄米ブラン」を齧ったことで壊れてしまい、これをきっかけに友人に紹介してもらって近所の歯医者を受診することを決意したのでした。

しかしその歯医者もなかなかのクセつよだったのです。お口の健康のための正義の空気が院内に充満している感じです。若い歯科衛生士の主導で、レントゲンにはじまり、乾いた唇がちぎれながら口腔内の写真撮影、歯周ポケットのチェックなどがテンポよく繰り広げられていきます。けっきょく虫歯は7本もあり、若い歯科衛生士はまっすぐな目でわたしを叱ります。「今まで何やってたんですか」「どうしてこんなに放置したんですか」「まあ、できたものは仕方ないので、これからは”二度と”虫歯を作らないように頑張りましょう!」など。とにかくめちゃくちゃ正しい言葉を浴びたのでした。ほかにも、さっき食べたパンのカスがついているだとか、右上奥の歯周ポケットがやや深いだとか枚挙にいとまがない。若い歯科衛生士の指摘の嵐はわたしの心を萎縮させるのに十分でした。

倒された治療台で丸太のように転がって恥の気持ちですっかり縮こまっているわたしの所に、今度は男性の歯科医師がやってきて言いました。「ずいぶんと派手な虫歯を何本も作りましたね!」。「もういいです。帰ります」と言いたい気持ちを抑えつつ「はい」と答えると、歯科医師はこう続けました。「でもさ、今までの治療の様子をみるに、こんなに虫歯だらけになったことないでしょ。この3年で何か生活の変化はあったんですか」と。
 わたしはこの3年を振り返ってこう答えました。「実は、元夫と別居して調停して裁判して離婚して働きだして子どもと二人暮らしになったりしました」。すると、「なるほどね。何か生活の変化があったと思ったんだよ。こんなにいきなり口の中が変わるなんてこと普通はないから」。なんとなく理解を寄せてくれたような気がして、わたしの恥の気持ちは少しやわらぎました。隣で話を聞いていた若い歯科衛生士も「まじか」という顔をして、それ以降はダメ出しせずにいてくれました。ほっ。

実はわたしの父親も歯科医師でした。生前彼はいつもわたしにこう言っていたのです。「口の中をみれば、その人の暮らしがわかるんだよ」と。この日初めて会った歯科医師もやっぱりそうだったのでした。
思わぬカタチでわたしの人生(の一部)がバレたことで、恥の感情の峠はピークを越え不思議な安堵感を覚えました。

いやぁ、しかし正しさは人を傷つけますね。痛感しました。そして、口の中にも人生は詰まってるみたいです。嘘や隠しごとって体に悪いことはわかってるつもりでしたが、まさかこんなカタチで露わになってしまうとは。生きるという営みは何も隠せないものなのですね。自分にも他人にも正しすぎない正しさで優しくありたいもんです。とほほ。

☆写真は、友人たちとビーチコーミングに出かけた時のもの。
玉髄や瑪瑙をたくさん拾いました!


笹渕乃梨(ささき・のり) 自己病名は『境界線ぐちゃぐちゃ症候群サトラレ型変化球言葉タイプ(現在は枯れている)』
北海道で小学生の娘と二人暮らしをしている。趣味はゆるめの野遊び、スキー、工作、手芸など。精神科のお医者につけてもらった病名はうつ病とADHD。現在は無脳薬で約3年。
「子ども当事者研究」、「子育て当事者研究」、「なさ親」などで活動中。22年4月より「nasaLAB(なさラボ)」のWebラジオ「つまり、きりがないラジオ」パーソナリティ。

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・ 続「技法以前」 232 向谷地生良 「自分自身で、ともに」

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