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アーヴィングのように

 美しいJ・W・アーヴィングの世界が好きだ。アーヴィングの文学、というかそれを原作とする映画が(いえ、実は本は読んだことが無い)。代表作はどれも、美しい自然の残る近代アメリカを舞台に語られる家族の、赤裸々な事情と激しめの事件と展開、そしてそれはいつも、愛にあふれている。

 先日というかほぼ毎日だけど、その日もサブスクでまだ見ぬ映画を探していた。見慣れぬタイトルと、地味そうな紹介文のそれは見たことがなさそうだ…。

サイダーハウス・ルール
1999 13+ 2時間5分
孤児院を営む医師に育てられ弟子として手伝う青年。世界を見たい衝動を抑えきれず家を飛び出すが、純粋な理想と道徳観が現実によって次第にほころびを見せる。
Netflixより

 視聴を開始してしばらくして思った。このウィットに富んだ会話と語り口、この映像この舞台、そしてこの濃密かつ速いペースの展開の仕方、何よりすばらしく豊かに映像で示される家族愛。なんだか、私が生涯の映画5本の指に不動で入り続けているジョン・アーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」のそれに似てるな…、と思って調べたらドンピシャでした。アーヴィングが好きだと心のなかで長年公言しておきながらこれを観てないとは一生の不覚…!そして傑作すぎた。

少なくとも5度は感動して、泣いた。「サイダーハウス・ルール」。

サイダーハウス・ルール

The Cider House Rules
1999年アメリカ

監督
ラッセ・ハルストレム
出演者
トビー・マグワイア、シャーリーズ・セロン、マイケル・ケイン他

 自身も出生直後から親に捨てられて孤児院で育った主人公ホーマーの青春を描いているのだが、孤児院で世話をしてくれる父役の医者の先生、母役の院長先生たちの皆も、また、年長となったので他は全員年下なのだが孤児の子どもたちも、お互いへの愛情と幸せの感情に満ち溢れすぎている。

 何より父役で医者のラーチ先生が良い。幼い頃の若干のんびりした性格のホーマーが「貰われそうにない」とみて、若い頃から自分の技術をホーマーに教え尽くすのだが、その中でお小言が多く、主義も違いホーマーは反感も抱いている。その孤児院では外部から訪れた妊婦の出産と、希望すれば違法なのだが堕胎も行っているのだ。ホーマーはそれだけは手伝えないと意地を張り、その都度先生のお小言を聞く。先生によれば、女性の自由な意思を尊重せよと。その身を守るためにもと。しかしホーマーは納得がいかない。そんな師弟関係であるが、ラーチ先生は明らかに、ホーマーの、全孤児たちの父であった。毎晩、就寝の時間には子どもたちの小さいベッドが並ぶ寝室で本を読み聞かせ(ホーマーも交代で手伝う)、そして消灯の前に必ず言う。

「おやすみ、メーン州の王子たち、ニューイングランドの王たちよ」

 その言葉を聞いて、孤児たちは幸せな気分で眠るのだ。

 孤児院の幼い子供らは、来訪者の夫婦が来るたびに貰われたいと努力して笑顔を作り自分を売り込む。一人が貰われていくのを、皆で幸せをお祈りしつつ見送るが、辛いだろう。重い喘息持ちの子、ファジーは特に先生たちから労られているが、やはり自分の機会はこない。やんちゃな男の子、カーリーも必死に笑顔を作るが選ばれず、選ばれた子を窓から寂しそうに眺めて見送って言った。
 「誰も僕を欲しがらない」
 ホーマーは言う。「それは違うよ、君は一番いい子だから、そう簡単には渡せない。」
 「僕を欲しいって言った人はいるの?」
 「特別じゃなかった」
 二人は手をつないで部屋に戻っていく。

 自分がいつまでも貰われないその悲しい心情が画面から伝わってきて胸に突き刺さる。ホーマーに歳が近いちょっとませた女の子、メアリー・アグネスはとっくに諦めていて、すれた態度をとる。ある日、かっこいいオープンカーで若い、かっこいい男女が孤児院に来ると、子どもたちは見たことのない車に大喜び。そして期待して売り込む。カーリーも売り込む。「僕がいちばんいい子だよ」と。しかしその二人は、訳あって先生のほうに用事があって来たのだ。
 兵役についているウォリーと、その恋人キャンディ。すごく都会的で、態度も洗練されていて、ホーマーはおそらくとても何かを期待したのだろう、見たことのないものを見てきた人たちだと。そして用事が済み帰ろうとする二人にホーマーは連れて行ってくれと提案する。ホーマーの献身的で誠実な態度も二人にすでに気に入られていて、快諾される。孤児院は突然のホーマーとの別れに、騒然とする。ラーチ先生には呆れられるが、ホーマーの心臓のレントゲン写真をもってけと渡される。ホーマーは心臓が弱いとのことでその証明になるのだ。院長先生と、カーリーが見送りに来る。ファジーは病床から見送る。その夜、院長先生は孤児たちの寝室で「ホーマーは家族を見つけたの。幸せを祈りましょう」と説明する…。メアリーは洗面所で悔しがり、密かに泣いた。

ここまでで全体の1/4である。この「起」にあたる分だけでもとてもいろいろなことが分かるし、ダーティーなこともありつつも、しかし全編を「愛」が貫いているということを私は疑わない。これがアーヴィングだ!残りの3/4はさらに凄く展開していく。しかし、それでも本筋のテーマが常にひしひしと感じられ、最後にすべてが集約するように結実していく。それが、アーヴィングだ。

 ホーマー(トビー・マクガイア)、ラーチ先生(マイケル・ケイン)、美しい憧れの人・キャンディ(シャーリーズ・セロン!大好き)という配役も完璧。私はこの作品を一生語るであろう。忘れない。


ホテル・ニューハンプシャー

THE HOTEL NEW HAMPSHIRE

1984年アメリカ
監督
トニー・リチャードソン
脚本
トニー・リチャードソン
出演者
ジョディ・フォスター、ロブ・ロウ、ポール・マクレーン、ボー・ブリッジス、ナスターシャ・キンスキー他

 若いジョディ・フォスター、ロブ・ロウ、ナスターシャ・キンスキーが美しく共演。アーヴィング作品の美しいメルヘンチックな世界観。ある日さえない流浪のピエロが、宿泊先の2階?の「開いた窓」に気づかずそこから落ちて死んでしまったことから「開いた扉は見過ごす」という変な家訓を大事にしてる、それほど裕福ではないホテル経営のファミリーのドラマ…なんだけど、ファミリーそれぞれに結構激しいドラマ(とはいえ日常的にありえそうな)があって、辛い事件も皆で乗り越えながら、頑張って生きていく…というお話しなんだけど、前述の家訓が何度か出てくるのだがはっきり言ってその意味は分からない…w

 しかし、小人症の姉のリリイは本物の妖精のように清く美しく、ジョディ演じる次女も美しく、若いロブロイはハンサムで優しすぎるし、そしてそして美人すぎるナスターシャ演じる熊の被り物が無いと恥ずかしくて人前に出れない居候の彼女も、父も祖父も伯父さんも母も弟たちも、また後半で居候になる永遠の処女?な女性も、家族を支えてくれる黒人でジョディの親友の男の子も、みんなみんな美しくて、まるで妖精のようで、それぞれに幸せを求めていて、ほんとにほんとに幸せを求めていて、それがひしひしと伝わってきて辛いぐらいに求めていて、そして哀しみを抱えて生きている…。そして最後まで観ると、基本群像劇だしストーリー的な終わりは無い感じなのだけど、何故だか全く分からないのだけど、何度観ても何故だか全く分からないのだけど、涙が1時間は止まりません…。

 若い時に偶然夜中にTVでやっているのを観て、それからずっと自分のベスト映画に入っているとは先に述べた通り。人生の節目節目に観たくなって見ています。
 まあ、何の役に立ったか分かりませんが、いえ、もしかしたら私の重要な部分を形成したのかも?ともかく、本当に、この映画に出会えて良かったって思ってます。

ガープの世界

THE WORLD ACCORDING TO GARP
1982年アメリカ

監督
ジョージ・ロイ・ヒル
脚本
スティーヴ・テシック
出演者
ロビン・ウィリアムズ、メアリー・ベス・ハート、グレン・クローズ他

 アーヴィングの代表作は、これで合ってます?

 これぞ映画の中の映画であり名作中の名作と、間違いなく言えるだろうけど、実際本作「ガープの世界」のイメージというと、タイトルは有名な作品だが、想像力というか妄想癖のある自閉症かなにかの傾向か病質がある主人公の話し、とか、なにか別のものと誤解されている映画の代表のような気がするけど、どうよ??w

 ロビン・ウィリアムズつながりで、レナードの朝となにかが混ざってるでしょw

 実際は、ガープは至極まじめてまともで愛情と人情みある優しい人物の伝記的物語である。ジョン・アービングの作風のエッセンスが凝縮されてもいるし、もっともコミカルで非常に楽しくもあるし、性的にダイレクトでグロテスクでもあるので誰と見るかは考えてしまう。でガープ本人よりも映画前半に活躍する母ジェニーのキャラクターのほうが凄まじい。すさまじく変人であり、面白い。中盤からは、恋人であり妻となるメアリー・ベス・ハート演じるヘレンおよびガープ一家の話しとなっていくが、そのヘレンが美しすぎて辛い。アーヴィング作品のいつものパターンといえる、激しい展開をし続けるが全体に美しい愛の話しであり、アーヴィング作品らしく観終わった感動は約束されている。

 全体の私の評価としては、前に紹介した2作よりはずっとエンタメであり、面白さを重視しているので私の趣味的には3番手となるが、ともかく本当に面白い。間違いなく傑作でしょ。

 ロビン・ウィリアムズ、私が一番好きな出演作は「フィッシャー・キング」なんだけど、もち名優すぎて好きだけど、演技が過剰だからそういう役柄でははまってて良いけど、本作を改めて見て、ちょっといつも過剰すぎない?と思ってWikiったらやっぱり、コメディアンだったしもう亡くなってた…😢。

アーヴィングのように

 ここまでアーヴィングの代表的3作品を見てきたが、その「作風」たる共通点はなんだろう?という答えは端々ですでに述べただろう。

このウィットに富んだ会話と語り口、この映像この舞台、そしてこの濃密かつ速いペースの展開の仕方、何よりすばらしく豊かに映像で示される家族愛。
しかし全編を「愛」が貫いているということを私は疑わない。これがアーヴィングだ!残りの3/4はさらに凄く展開していく。しかし、それでも本筋のテーマが常にひしひしと感じられ、最後にすべてが集約するように結実していく。それが、アーヴィングだ。
アーヴィング作品のいつものパターンといえる、激しい展開をし続けるが全体に美しい愛の話しであり、アーヴィング作品らしく観終わった感動は約束されている。

 まとめると、アーヴィング作品とは…

  • ウィットに富んだ軽妙な語り口とセリフ

  • 写実。美しい自然の描写

  • 濃密かつ速いペースの、大胆な展開

  • それでいて、貫かれる一本筋のテーマ性

  • 物語は伝記的に長いタイムラインで語られ、大胆な展開で広がりを見せるが、最後に全てが集約し、結実し、読者として充実感を禁じえない

 …ということだと思う。

 そうだ、私、アーヴィングのような作品を書きたいと・作りたいと、いつも思ってたんだ。そう、思った。いつか書けるかな…。


§


 ところで冒頭で、「ホテル・ニューハンプシャー」が生涯ベスト5だと言ったので、ではベスト5は何かを説明しておく。映画の紹介は度々してるけど、ベストを紹介するの、ベタ本邦初公開でしょ。価値があるよ?w

ベタ、好きな映画TOP5

 じゃん!

 TOP5なのに9作あるって?よく見て、評価値が同じのがあるでしょ。つまり
 1位 .. アンジェイ・ズラウスキー監督「ポゼッション」
 2位…アルフォンソ・キュアロン監督「ゼロ・グラヴィティ」
 3位…ヴィム・ヴェンダース監督「パリ、テキサス」
同3位…デイヴィッド・リンチ監督「マルホランド・ドライブ」
 4位…松本壮史監督「サマーフィルムにのって」
同4位…トム・ストッパード監督「 ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」
同4位…トニー・リチャードソン監督「ホテル・ニューハンプシャー」
 5位…ニール・ブロムカンプ監督「チャッピー」
同5位…ラース・フォントリアー監督「ドッグヴィル」

 …までが、同列の上位5位なのです。ていうか、この中でどれが上かなんて決められない。でも、その中でも1位のポゼッションだけは特別にダントツかな…。
一部を、ちょっとだけ紹介しましょう。

1位 .. アンジェイ・ズラウスキー監督「ポゼッション」

 「ポゼッション」で、サブスク等で検索すると、オーレ・ボールネダル監督のホラー「ポゼッション」がしつこく検索されますが(うざい)、これとは全然違います。サブスクには、多分どのサービスにも無い模様。買うとDVDがプレミアついて13800円~となっている模様、私は持ってるけど手が出せまい見れまいやーいやーい!!
 …1981年フランス+西ドイツ合作。美貌の天才女優、イザベル・アジャーニ、そしサム・ニール主演。息子もいるが長い出張などもあり不仲の夫婦の関係がますます悪化して、狂気じみていく。その果てに、本当に、予想もつかない展開に突き進んでいく…!
 こんなに恐ろしく、気が狂っている演技が凄まじく、そして怒涛の信じられないような全く見たことのない展開、それを東ドイツ風の寂れた雰囲気で(西ドイツだけど)しっかり演出するというのがすごい。映画としてのトータルの完成度が完璧だと思っています(なにを「映画」とするかは人それぞれで良いですが、つまり私はこういうの)。


2位…「ゼロ・グラヴィティ」

 これは、最近のSFハリウッドだから、知ってる方も多いでしょう。現代宇宙もの、内容・展開としては非常に削ぎ落とされていて薄いかもしれませんが、そのリアルな「設定」をうまく使っていて宇宙好きでもあるからですが、非常に、非常に、好きです。宇宙は本来無音ですが、あえて宇宙の音を表現したという劇伴も、素晴らしい。観たら満足して余韻に浸れます。


3位…ヴィム・ヴェンダース監督「パリ、テキサス」

 ヴェンダース作品の中でもわりと人気があるはずの本作、分かりやすいロードムービー(的)作品であり、楽しく、美しい。アメリカの荒野をライ・クーダーのギターが冴え響く。少年ハンターの通学に疎遠だった父が付き添うシーンがほんと好き。


4位…トム・ストッパード監督「 ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」

 こちらはあまり知られて居ないと思う、劇作家であるトム・ストッパードによる戯曲を彼自身が見事に映画化。題材は、なんとなく聞いたことがある人名のこれ、シェイクスピア「ハムレット」の脇役の二人でしょ。彼らを主人公ととして彼らの視点で描いたハムレットの物語のスピンオフなのです。これが、もう、傑作(面白い、楽しいいい!)。これも、サブスクには全く存在しないですね!で、DVDがプレミアついて26249円!私は持ってるやーいやーい!

 …でも、借りパクされてるけど。返せ!!ヽ(`Д´)ノ😢

5位…ラース・フォントリアー監督「ドッグヴィル」

 ラース・フォントリアーといえば、政治的・宗教的に批判的な作品を作ったり、また代表作といえば、歌姫ビョークを主演としてミュージカル映画にした名作「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の悲惨すぎる悲劇が有名ですが、このドッグヴィルもあらゆる点で凄まじい。主演は美女すぎるニコール・キッドマンですが、舞台は近代のアメリカの田舎で、ギャングに追われて一人迷い込んだ、辺境の小さな村「ドッグヴィル」。怪しまれながらも次第に溶け込んで行くのだが村人の猜疑心が募っていきしだいに雰囲気が怪しくなり…、という集団心理の変化が非常にリアルに感じるところが見もの。
 なだけではありません。これはネタバレではないですが、映画としての映像というかセット、これが、「体育館の床に、白い線を引き、ここは住居A、ここは教会、ここは村の入口」などと示しただけの、壁などリアルなものが全くない「セット」を、本当にそのまま撮影してる。まさに演劇そのもの。なので、、村人たちという出演者も多い中、子供の役者もいるのに、向こうでは裸で夜の営みが行われている…というのも丸見え、というすごい映像なのです。そして、それが非常に物語を語る上で効果的になっている。そして同様に主人公に襲いかかるヴィヴィッドな展開。面白いです。


以上…

絶対おどろかせてやるんだから!( ´・ω・`)

感想コメントはどのこベタの食べ物です。ぜひお恵みを…w

betalayertale 2022年10月17日

6800文字

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