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VeryBest2 - しとしと雨が降りしきる土曜日、渋谷・青山にて。

 前日、経営議題が残りすぎ💢、出社して、昼過ぎまでだけど一緒に課題を潰していきましょう、と私から社長に進言して、それで緊急事態宣言下だけど久しぶりに本社に集合したのでした。雨だし、傘で自転車面倒だし寒いしマイカーで。あの辺…パーキング12分で六百円とか高いんだけど、まあ会社に請求すれば、良いか。

 オフィス街でありおしゃれタウンでもあるその辺りでも一際高いその自社ビル(…カッコ仮になった)の上のほうの階の会議室からも、大きな窓からはしとしと雨で薄灰色に染まった渋谷を囲む都会の街並みが一望できます。意外と大きな公園がぽつぽつとあって、自然も結構ある、私の好きな街、東京。

 熱々のコーヒーを用意して会議をスタートすると、私はホワイトボード脇に立って、この短時間で消化できそうかつ重要な議題をいくつか頭の中で選びつつ、アジェンダをちゃっちゃと列挙して書き出し、社長の合意を確認。それに沿って話しあって次々に仮決定していったのでした(…話し合うというか、社長のお考えを聞き出して、それを壁打ち、質疑応答したり、例を探し出して見て頂き気づきを得てもらったりする。あくまで考えて決めるのは私でなくて)。

 たまにMBA的な経営判断の分析テクニックも使ったりはします。…社長もMBA持ちなはずなんだけど。その時、社長が唐突にニヤリと嬉しそうにドヤ顔で、この記事良いこと書いてあるから私に読めというので(戦略は無意味とか書いてある)、さっと読んで、これこそなんの意味もないって突き返して。
 こういう論者はなにか逆転の発想的なことを書いてお金にしてるんでしょ、ちょっと賢ければ、どんなことでも説得力の有りそうなことを書けます。この人は、お金を貰えればまったく逆のことも書くでしょう。そんなのに乗せられちゃだめでしょって。

 昼過ぎになり社長のご都合で会議は終了となり、まあまあの成果が出せたということにして、それぞれ解散。オフィスを後にして、私はお腹が空いたので近場で軽くランチかなと思って雨の中お気に入りの水玉模様の傘をさしてぶらぶらしていたんだけど、なかなか決まらず(このご時世で閉店が多いかというと、この地域はそうでもない感じ)気がつけば、お墓の中にいました

 青山霊園。東京のど真ん中に巨大な墓地。それが自然豊かで以前(LD前)よくランチしてたの。独りで。お骨が眠るお墓を眺めながら。そしてお墓巡りの散策すると、歴史上の有名人のお墓がずらり。日露戦争の秋山真之とか。

 けつなんその近くのカフェ(夜はビストロ)CITRON のレモンタルトにしました。かわいい〜💕美味しい〜💕甘酸っぱい!…酸っぱい寄りの。

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 食事を終えてゆっくりしてから(あ、今のがランチね?ケーキセット=ランチ、私にとってラーメン相当)、パーキングへ。しとしと雨に打たれながら精算機に何枚もの千円札をしつこく、しつこく投入して支払い切り、マイカーにて一方通行なので自宅方向と逆だけど、とりあえず走り出したすぐのこと。

 あ…この辺り、見覚えがある…。

 新国立競技場…明治神宮外苑前、の手前あたり。職場の近くだけど、10年ほど前に来たことある。私が高校生の頃、関西から一人で来て。誰かのコンサートだったかな…?東京、渋谷、青山といえばアイドルやモデルさんがたくさん歩いてるのかな…とか思いながら。当時、私の東京のイメージは偏っていたと思う。排気ガスと、無機質な高層ビルと、繁華街と、竹下通りばかりなイメージ。違いました。そしてその時ここが憧れになったのです。

 でも今はそういう方たちと普通にここで仕事させて頂いてる…。そういえば昔ここに来たのはコンサートなんかじゃない、高校に行くのがついに嫌になって、親に内緒でこの辺りの会社に分厚い企画書込みの履歴書送って書類審査受かったので、親に内緒で関西から新幹線で面接に来た時だった…。

 小さいけどビルの内外装コンクリート打ちっぱなしのオフィスは格好良かった。その社長もスタッフもとにかく身なりもお召し物もおしゃれで、大人に見えました。オフィスのなかを見学させてもらって、自由な雰囲気が素敵でした。そしてすぐ面接が始まると、私沢山アピールして調子に乗って喋ってしまって、でもたくさん質問されて。高校出ずにすぐ来たい理由は、とか、住む場所はどうするのか、「住み込みでお願いします」とか。でもたくさん喋らされて、気がつけば家や学校の嫌なこと、全部喋らされて私ぐちばかりで「しまった」と思った時にはもう遅い←

 高校をちゃんと行って卒業することを説得され、卒業したら、またおいでと言われ帰されました。私は若干唖然としてる中、社長さん、エレベーターまで見送ってくれて一礼までされました(そういう作法すら、知らなかった)。私もエレベーターの中で同じように頭を下げ、でもエレベーターが降りる間下を向いたまますでに涙が止まらなかった…。

 私の、唯一の就職活動、そして唯一の不採用となりました。

レモンタルトな思い出

 でも帰りの新幹線ではすでに私、「なぜあんなに私を喋らすことができたんだろう?どうやったら…?」とか考えてた。それからビジネスマナーをガラケーで検索したり。結局高校はまともに行かず…。卒業したら。そういえば今のいままであの約束忘れてた←

 私の、酸っぱい寄りの、甘酸っぱい、レモンタルトな思い出。

 今、会社のすぐそばのビルで働いてます。あなたの会社より百倍も大きい会社ですよ!この辺りも東京も、アイドルもモデルもレモンタルトも何も珍しく無くなりました。社長、私のこと覚えていて下さいましたか。履歴書の顔写真をハートに切り抜いて応募した女子高校生です。今、毎日楽しいです。でも、社長はその後お亡くなりになったこと、業界でニュースになってましたね。もしかしたら、青山霊園ですか?

 私ははっと気がついて、車をUターンし、霊園のパーキングに止め、その東京ドームの五倍はある墓地の中を雨がしとしと降りしきる中、必死に探し続けた…

 …なんてことはしていませんw

 ただ、なんとなくあの頃聞いていた音楽を思い出したので、それをスマホで選んでbluetoothで車のスピーカーに飛ばして再生して、そして音楽に耳を寄せ、それからなぜだか安全運転しなきゃならない気がして、ゆっくり、ゆっくり、集中して運転して、帰りました。

 そのキースジャレットのソロピアノ・ライブアルバム、Rioは、完全に即興(たぶん)で、高速で複雑な音の波が上下にうねるのが気持ちいい。その音の洪水に酔いながら、私大事なことを思い出した。


 …パーキングの領収書取るの忘れてた💧

 さらに酸っぱくなりました…。

 しとしと雨が降りしきる土曜日、渋谷・青山にて。

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 前作、高校が嫌になった話しはこちら。

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