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”ジョッキー”と呼ばれた男。〜岡部幸雄「馬、優先主義」を読んでいる。

こちらの本を、拾い読み中。

「馬、優先主義」

1991年発行

平成元年(1989年)〜平成三年(1991年)にかけ、毎週サンケイスポーツに連載されていたコラムを一冊の本にしたもの。
当時の空気が伝わってくる本である。ただ、読み方としては、最初から通読するというよりは、興味を引かれた部分を拾い読みしている感じ。

例えば、1990年の有馬記念直前のコラム。
初めての騎乗を依頼されたオグリキャップについて、前走まで騎乗していた河内洋に、クセがあるかどうか聞いてみた、というエピソードが紹介されている。
河内の答えは、「特にない。」という簡単なものであったが、このやりとりについて、岡部は補足の説明として、騎乗する馬について騎乗経験のある騎手にクセを聞くのは非常に重要なこと。馬の素質を最大限引き出すためにクセを把握することは騎手の務めであり、怠るとクセを悪化させ、最悪その馬を凡馬にしてしまう恐れがある、としている。

岡部幸雄は”ジョッキー”と呼ばれた。

騎手なのだから当たり前のようであるが、数多いる騎手の中でも、”正真正銘の騎手”ということで、ホースマンたちの間では”ジョッキー”と呼ばれていた岡部幸雄。
自分が競馬にハマり出した90年代半ばは、西の武豊、東の岡部という感じで、熾烈なリーディング争いを毎年繰り広げていた。

何かの本で、今年の2月で調教師を引退した藤沢和雄元調教師も、岡部幸雄のことを”ジョッキー”と呼んでいたというエピソードを読んだ事がある。

通算1500勝以上、G1級勝利30勝以上と、他の追随を全く許さない名調教師・藤沢和雄がもっとも信頼を寄せた騎手が岡部幸雄。

この本の中で、岡部は藤沢厩舎に触れ、まだ開業4年目だが快進撃を続け、間も無く自分とのコンビで重賞初勝利を飾るだろう、と書いている。

その馬はビーチハウスであったが、ビーチハウスとのコンビではなかったものの、のちにシンコウラブリイを駆り、藤沢厩舎の重賞初勝利となるニュージーランドトロフィーを勝って有言実行を果たしている。

なお、シンコウラブリイとのコンビでは、藤沢厩舎のG1初勝利であるマイルチャンピオンシップにも勝っている。


岡部(小田部)で負けたら仕方ない。

何度か書いた事があるが、私が競馬に興味を持ち始めたのは、競走馬育成ゲームのダビスタがきっかけだった。
アラフォー、アラフィフ世代にはダビスタきっかけの競馬ファンはかなり多いのではと想像している。
今、ウマ娘きっかけで競馬ファンが増えていると思うが、リアルな競馬以外が興味のとっかかりとなった、という点は同じだと思う。

そのダビスタの中で、岡部は「小田部」という名前で登場しており、得意とする乗り方が「自在」だった。(他に、「逃げ」、「先行」、「差し」、「追込」などのタイプがあった。)

「自在」とはすなわち、どの戦法も得意であるという事であり、「小田部」を自分が育成した馬に乗せる事ができると、他の騎手では気性の問題が出て折り合いに問題がある馬も、ピタリと折り合わせてくれるのだった。他の騎手を乗せるより、勝率は2〜3割ぐらい高かった印象がある。

もっとも、小田部は人気騎手であり、馬の方に能力がないと、あっさり騎乗を断られることも多かったが・・。

ダビスタの馬柱。ビアハヤヒデ(ビワハヤヒデ)と小田部のコンビは強かった、、


話がだいぶダビスタ寄りとなってしまったが、現実の競馬でも、「岡部が乗っている馬に賭けて負けたらしょうがない。」と、個人的には思っていた。

岡部とルメール、岡部とトウカイテイオー

そういう意味では、今の競馬であればルメールは近い感覚を持って馬券を買う事ができる。
そう思うと、ルメールは、藤沢厩舎晩年の主戦騎手であり、藤沢調教師にとって初となるダービー勝利のレイデオロに騎乗したのはルメール。最後の厩舎看板馬だったグランアレグリアの主戦騎手もルメールだった。

藤沢調教師にとって、晩年もっとも信頼していたのがルメールだったのだと思う。

「馬・優先主義」という、馬の気持ちを何より大事に、馬が能力をフルに発揮できるように心がける、というスタイルも、岡部とルメールの共通点だと思う。


この本に収録されたコラムは、ちょうど岡部幸雄がトウカイテイオーに騎乗する前の年に連載されたもので、トウカイテイオーには安田隆行が騎乗し、皐月賞・ダービーの二冠を制覇している。(安田隆行は、昨日NHKマイルカップに勝ったダノンスコーピオンや、その父ロードカナロアの調教師。)

岡部自身はダービーではレオダーバンに騎乗しトウカイテイオーに挑むが、「完敗だった。」と書いている。

奇しくも次の年から、岡部はトウカイテイオーの主戦騎手を務めることになるが、その時期のコラムは、続編「馬、優先主義(続)」に収められているようなので、いつかそちらも読んでみたいと思っている。


(おまけ)コングラカードをいただいた。

以下の記事で、「#推薦図書」の中でスキを集めた、としてコングラカードをいただいた。


自分には無縁のような気がしていたので、嬉しい。。

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