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「上海」を読む。(3日目・45章の内37章まで)

横光利一の「上海」を読んでいます。

一息で読めないので少しずつ読み進め、感想も分けて書いています。

今日で三日目。(初日、二日目の感想は、記事の一番下にリンクを置きました。)

さてさて。

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物語としては、中盤を過ぎ、起承転結の「転」部分。

25章から読みを再開したのですが、お杉が春婦となります。

お杉としては、ほのかに想いを持っていた参木さんきに受け止めて欲しかったのではと感じるのですが、参木は自分は何をするべきか悩むなかで、お杉と一緒になる事だけは自分に許していない感じ。ふらふらしている参木ですが、そこは頑な。

上海の街は、共産派の工場破壊や、機械を守る反共派工人の衝突、英国(?)官憲と支那警官vs秋蘭一派の市街戦が拡がっていき、死体が転がる風景が日常と化していく異様さ。

その中でお杉が春婦として自分の居場所を獲得していくかのよう。

 お杉は雑閙ざつとうした街の中で車を降りた。彼女は露路の入口に立つと、通りかかった支那人の肩を叩いて云った。
「あなた、いらっしゃいな、ね、ね。」
 湯を売る店頭の壺の口から、湯気が馬車屋の馬のたてがみへまつわりついて、流れていた。吊り下がった薪のような乾物の谷底で、水々しい白魚の一群が盛り上がったまま光っていた。

135p


また、風呂屋でお杉を使っていたお柳が、お杉が今「立っている」場所を具体的に示すセリフがあります。

「あなたはまだあの娘の出ている所も御存知ないの。四川しせん路の十三番八号の皆川みながわよ。」

141p

お杉は自分の場所を見つけたのだと思います。もちろん、それが望んだ境遇ではないものの。

それからお杉は、日本の風景を思い出し、鰤が食べたい、誰か親切な客を選んで、日本に帰ってみようか、と思う。

また、偶然マーケットで、自分の貞操を奪った甲谷こうやと、自分をクビにしたお柳の二人を見かける。二人を狼狽えさせてやろうかと考えるがとどまり、客を見つけて稼いだ方がいい、と街に出る。

まだ昼間なので流石に客は見つからなかったが、お杉は公園まで来る。

 ベンチに腰かけて、霧雨のように絶えず降って来るプラターンの花を肩の上にとまらせながら、ちょろちょろ昇っては裂けて散る噴水のたまを、みなと一緒にぼんやりと眺めていた。すると、女達の黙った顔の前で、微風が方向を変えるたびに、噴水から虹がひとり立ち昇っては消え、立ち昇っては消えて、勝手に華やかな騒ぎをいつまでも繰り返していった。

181-182p


お杉を取り巻く描写が、お杉の自立と共に、温かみを増してきたように読めました。

一方で、現代の港区女子のような(?)奔放な宮子が、一緒にシンガポールに行こうと執拗に食い下がる甲谷をバッサリと振るシーンもあります。

甲谷はやり手のビジネスマンですが、宮子にはバッサリ切り捨てられるし、恋人のお柳には馬鹿にされているしで、だんだん面白い人だなと好きになってきました。(竹中直人が演じたら面白そう。)

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三日目は、ここまで読みました。

上海の混乱はどうなっていくのか、参木と秋蘭は再会できるのか。

引き込まれて読んでます。
(繰り返しになりますが、前に読んだはずなのに、忘却度がすごい。)

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初日、二日目の記事のリンクです。

【初日】1〜10章まで。

【二日目】11〜24章まで。

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