記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

たまには昔の映画の話をしようか②~猿の惑星:創世記(ジェネシス)

映画の話は久々なのでタイトルをどうしようか迷い、今回取り上げる映画を調べてみたら13年前の映画だったので、過去記事の「昔の映画の話」をそのまま継続。
しかし13年…?光陰矢の如し…(天を仰ぐ)。

公式サイトより

猿の惑星:創世記(ジェネシス)は、『猿の惑星』シリーズの中でも比較的新しいリブート版の1作目です。
その後に2作目『:新世紀(ライジング)』3作目『:聖戦記(グレート・ウォー)』と続き、
現在上映中の『猿の惑星/キングダム』はその続編となる作品です。

リブート版3作とも大好きで映画館でも自宅でも観たのですが、最新作の公開に合わせてもう一度観ておこうと、何日かに分けて少しずつ『創世記』からディズニープラスでおさらいを始めました。

…というわけで、今回見直す過程で色々思うところがありましたので、『猿の惑星:創世記』を通常とは少し違う視点で語りたいと思います。
※注意:ネタバレ全開です!)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

序盤。
主人公が仕事から帰宅すると、たどたどしいピアノの音が部屋の奥から聴こえる。
どうやらうまく弾けずに苛立っているようだ。

ここで私は、ハッと思い出す。
ピアノを弾いているのは主人公の父親、そして彼は認知症であること。そして主人公は、とある製薬会社でアルツハイマー治療薬の開発研究をしている。
このリブート版『猿の惑星』シリーズの真の主人公とも言える猿[エイプ]・シーザーのルーツとなるチンパンジーも、製薬会社の研究所の実験体として開発中の薬を投与されていた。

ーーーーー

以前この3作を観た時の私は、認知症についてなんとなくの知識しか無かった。しかし、この10年もの間に我が家の状況もガラリと変わった。自分も歳を重ねたし、親世代も含め周りに高齢者が増え、家族の介護も始まったからである。

久々にこの映画と対峙した時に、初見時とはまるで違う世界がそこにあった。
とにかく自分の視点が違う。

初見時は、主人公が一時預かりで自宅に連れて帰ってきた赤ん坊のチンパンジー「シーザー」がどんなことをやらかしてしまうのか、ただただそれをハラハラして観ていたように思う。

しかし今回は、主人公でもシーザーでもなく、父親から目が離せない。
認知症の父親の行動が、手に取るように予測できる。だから怖い。

他愛のない日常描写の中で、父親が「車のキーが無い」と探している。
主人公はやんわりと『父さんはもう運転できないんだ』と諭す。おそらく鍵も普段は隠してあるのだろう。
「…わかってるよ」と苛立たしげに答える父に、主人公は即座に「それより父さん、シーザーにミルクをやってくれないか、出来る?」と話題を切り替え、「当たり前だ」と別のことに意識を向けさせる。さすが認知症に関わる専門家、教科書のような対応だ。

しかし、主人公にも仕事がある。四六時中父親の面倒を見ることはできない。
自宅介護に限界を感じたヘルパーらしき女性(?)も、怒りで興奮して暴れる父親に『もう我慢できない。施設に預けるべきよ!』とキレ気味に家を出て行ってしまう。
そして父親も、「もう生きていてもしょうがない…生きていてもしょうがない…」と繰り返し呟きながらうなだれる。

私(…見覚えがありすぎる光景だ。身につまされる。つらい。つらすぎる。こんな話だったっけ…。)

数年後のある日、とうとう父親が玄関から外に出て車に乗ってしまう。
これから仕事に出かける隣人の車のドアがたまたま開いていたのだ。

私(イヤアァァァーー!!!やめてお父さん!!誰か!誰かああぁぁ!!)

車に乗り込み、いそいそとミラーの位置を調整し、エンジンをかけようとする父親。
……嗚呼…。
意気揚々と車を発進させる父親。そして、あっ!と思う間も無く、近くに駐車してある車に激突…………。

私(あああああああ。ああああああああ。)

大きな物音に驚いて車に戻ってくる隣人。
自分の車に何が起きたか把握した隣人は激怒し、降りろと叫びながら車から父親を引きずり下ろす。何故こうなったのか理解できず、「私の車かと…」とオロオロする父親。

私(…恐れていたことが起きてしまった。父親の行動が不安すぎて見ていられない。
この映画って、こんな気持ちで見るものだったっけ…ーーー?)


…いや、最初から紛れもなく、こういう映画だった。ただ前回見た時は、自分が認知症のことをあまり理解していなかっただけで。
ーー世界の見え方が違っているだけだ。

ここに取り上げたのはあくまで父親の部分だけ掻い摘んだもので、当然、実際には主人公やシーザーを中心に物語は続いてゆく。
この後は認知症の父親だけでなく、主人公が「我が子」として研究しながら育て、年々手に追えないほどに成長してゆくシーザーも見守ることになるので、何層にも複雑な物語として展開していく。
ここまではほんの序盤のシーンではあるのだが、この土台の上にあの壮大なストーリーが成り立っていたことを再確認し、今の自分にはあらためて衝撃的で、
ドッと脳が疲労した思いだった。

そしてこのタイミングで今日、こんなニュースが飛び込んできた。
90歳の認知症の父親が車を運転して事故を起こし、家族が免許を返納させたという。
息子夫婦は車の鍵を寝室に隠してあった。しかし、父親は探し当てて車に乗ってしまった。
ーーこの映画の父親と同じようなことを起こしてしまったわけだ。

免許返納については家族にも何度も促されていたものの、本人が頑なに拒否し続けた末の事故であったとーー。

思えば、もう随分前に亡くなった私の祖父も、晩年に伯父のバイクを黙って運転して転倒事故を起こしたことがあると聞いている。老いたとはいえ、長年仕事で毎日乗り続けた勘は衰えていない自負があったのだろう。
認知症だったとは聞いていない。だが、当時はまだ専門的な情報も今より全然少なかった頃だ。自身も周りもただ「(年齢相応に)ちょっとボケてきた」くらいのことで済まされたのだと思われる。
一昔前の自分なら、どちらも理解に苦しんだかもしれない件だが、
今なら、ああ…そうなるだろうなあ…厳しいなぁ…。と、認知症の親と子のそれまでのやり取りを、ありありと想像できる。
そしておそらく、このような事故は稀な例ではない。世界中で似たようなことが起きているのだと思う。

認知症自体は誰も何も悪くない。悪くないのだが、症状が進行すれば否が応でも周囲を巻き込んで色々なことが起きる。そういうものなのだ。
この映画の父親も「車くらいまだ運転できる」と、そう思いたかったのだろう。

そして特筆すべきは、この映画の主人公はなんといってもアルツハイマー型認知症の薬を開発中の研究者であるということだ。
我々のようなごく普通の家族と要介護高齢者という関係性とは、そこは一味も二味も違ってくる。最前線の専門家としての視点で父親の症状を毎日観察しているのだから。

しかし、ありふれた我々の家庭ではあり得ないことがそこでは起きる。
劇中、認知症状が悪化してゆく父親の有り様を見かねて、主人公はとうとう研究途中の認知症治療薬を父親に投与してしまうのだ。
なんてことを…!という思いと、今となっては(薬がもし本当に効くのなら…)と願うような思いが脳裏でせめぎ合いながらそのシーンを見守る。

劇中でその薬は見事に効果を発揮し、父親は驚異的な回復を見せる。
以前まであんなに苛立たしげに弾いていたピアノも流れるような音色を響かせ、何より素晴らしいのは親子の日常会話が普通に出来るように戻ったということ。
それだけでもどんなに良いだろうと、映画を見ながらしみじみ思った。

しかし、禁断の選択にそのような都合の良い話は長く続かない。
やがて抗体により薬の効果は薄れ、懸命の研究もむなしく父親は再び認知症状が悪化してゆく…。
その製薬、あるいは医療関係者の歓喜と絶望は、1990年の映画「レナードの朝」にも似て、なんともやるせない気持ちになる。

この『猿の惑星:創世記』が公開された頃から高齢化社会も進み、最新の認知症研究に関してはこの数日だけでも様々なニュースが飛び込んでくるようになった。
老化現象の一つとして致し方ないものと思う反面、肉体の寿命の高齢化に脳の健康は必ずしも伴わないというのは、どうにもやりきれない想いにも駆られることはある。
若年性のケースもあることから、いつか幅広い世代で気軽に早期発見、予防できる病気になれば良いと思っている。

しかし、残念ながら今はまだその時ではないのも確かだ。
今の時代を生きる者として、私たちはひとつずつ良い方法を模索し、それぞれの形を選びながら近しい人と寄り添い続けるしかない。
だがこの映画は、「今はその時ではないのに、足を踏み入れてしまった」先の物語だ。
期せずして、このタイミングで私の人生に新たな発見と視点を与えてくれた映画となったので、ここに覚書として記そうと思った次第だ。

今回取り上げたのは、あくまで脇役と言って良い父親の件だ。しかし、それも含めてこの作品には人間の有りようや罪や業といったものがこれでもかと詰め込まれている。
人間の都合の末に誕生した猿[エイプ]のシーザーは、その象徴と言って良い存在だ。

そんなシーザーと人間との行く末と生き様は、
「猿の惑星:創世記」
「猿の惑星:新世紀」
「猿の惑星:聖戦記」
…で是非見届けて頂きたい。劇場で最新作も楽しんでいただければなお幸いである。

公式サイトより

猿の惑星/キングダム 公式サイト


この記事が参加している募集

#映画感想文

67,494件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?