見出し画像

『草迷宮』(泉鏡花、岩波文庫)の感想

 ジャパニーズホラーの父の一人泉鏡花。まるで古文な文語文で小説を書いたが、「魔」というものの描き方が独特で、鏡花ファンはこのつかみきれない「魔」の感触にひたすら溺れていくのである。
 亡くなった母の「手毬の唄が聞きたいのです」(p117)と葉越明が旅の末にたどり着いたのは、化け物屋敷。さまざまな怪異が起こる屋敷に「唄」を求めて居座り続ける。ここには他の化け物たちがいるばかりだ。
 この唄を「この方の母さんから、口移しに教わって、私は今も、覚えている」(p175)という女は、異類の存在である。「爛々たる銀の眼一双(ひとなら)び、眦(まなじり)に紫の隈暗く、頬骨のこけた頤(おとがい)蒼味がかり、浅葱に窩(くぼ)んだ唇裂けて、鉄漿(かね)着けた口、柘榴(ざくろ)の舌、耳の根には針の如き鋭き牙を噛んでい」(p173)るこの「美女(たおやめ)」は、葉越に恋している。
 だが、「虹の欄干を乗出して、叱りも睨みも遊ばさず、児の可愛さに、鬼とも言わず、私を拝んでいなさいます」(p176)葉越の母の「我が児(を)最惜(いとし)む心さえ、天上では恋となる、その忌憚(はばかり)で、御遠慮遊ばす」(p177)
 この三角関係で「美女」が坊さんに語る恋の計画がすごいのである。多すぎる「魔」と強い情愛と異様な論理のドトウである。それが計画にとどまり物語は中断し、そこに「唄」だけが響くことが結末だ。繰り返すが、鏡花ファンはこのつかみきれない「魔」の感触にひたすら溺れるのである。

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?