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僕がペーパーバックを読み始めたわけ⑥

 ペーパーバックを古書で買おうとすると日本の本よりも選択肢が少ない。だからたまに新刊で買おうとすると、よりどりみどりでとてもうれしくなる。丸善オアゾ本店4階はそんな天国のひとつだろう。

 とはいえ、ペーパーバックは輸入品として高い。例によってできるだけ安くてなおかつ読み通せそうな本を選ぼうとする。ペンギンはこういう時に助かる。ある日イーディス・ウォートンの『イーサン・フロム』を買った

 イーディス・ウォートンは読んだことがない。買ってから検索するとアメリカのハイスクールでは「読書感想文小説の鉄板」であるらしい。さわやかな青春ものを期待して読み始めたが、どうにも印象がことなるのである。

 語り手の文筆家は地方にきている。そこで馬車を出してくれるのがイーサン・フロムという男。このこの世の地獄をみたかのような寡黙な男とちょっとした縁から交流がはじまり、彼の過去の物語を知ることになる。

 イーサンの希望や夢をいだいた青年期、結婚して地元で生活する時期を経て、自分の初恋の人が身よりをなくし一緒に暮らす受難が物語られる。なぜならば、察するところがあるのか奥さんが途方もなくいじわるになるのだ。

 結局、身寄りのない初恋のひとは行く当てもないまま出ていこうとする。同じく家を出たイーサンも途方にくれている。かつて幸福だった思い出の場所に漂着するようにたたずむ。そこで共有される絶望感がとてもせつない

“The spruces swathed them in blackness and silence. They might have been in their coffins underground. He said to himself: ‘Perhaps it’ll feel like this . . .’ and then again: ‘After this I sha’n’t feel anything . . .’
"Ethan Frome" Edith Wharton, PENGUIN ENGLISH LIBRARY,p95
(拙訳)
トウヒの樹々が暗闇と沈黙のなかに2人を包んだ。地中の棺桶のなかにいるようだった。彼は独り言をいう。「こんな風かもしれないなきっと…」それからこうも。「このあとには何も感じないだろう…」

 この危険な心境からの怒涛のラストが本当にやばい。イヤミス好きの人は邦訳もあるのでぜひ探して読んでほしいところ。きっと、アメリカの学校では若者に既婚者の恋愛は自分と世界の破滅だと教えたいんだと思います!

今回学んだこと:
1.アメリカのハイスクールは本気で浮気の恐怖を教えたい気がする。
2.イーディス・ウォートンはイヤミス的切れ味の女性文学者としてすごい。


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