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文学作品に登場している《御茶ノ水》

私の職場である「御茶ノ水」とその近辺が登場する文学作品の引用です。太宰治、村上春樹、後藤明生、樋口一葉、木内一裕、高野和明、誉田哲也、島田荘司の小説、エレファントカシマシの歌詞を引用しています<(_ _)>

☑最初の御茶ノ水が登場する小説は太宰治の「女生徒」です!

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📚太宰治の「女生徒」は、彼のベスト短編に推す声も多い名作です。そして本作はまごうことなき「御茶ノ水」文学といえます。父を失い姉も嫁いで母と2人きりで暮らす、主人公「女生徒」の電車で通う私立校が御茶ノ水にあるのです!(上の画像は作品と無関係の雑誌「少女界」の表紙です!)

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「くだらないことに平然となれる様に、早く強く、清く、なりたかった」という女生徒の凛としたたたずまいが、めまぐるしい「思案の洪水」とともに繰り出されてくるこの作品は、最高にピュアでいま読んでも嫉妬をかきたてるほどです。女性読者の日記に基づいているという伝記的事実もありますが、これが小説であると発想できる太宰治の才能がすごいと思います(現代の句読点の感覚からは「、」が多いとは思いますが些事にすぎません)。「女性の語り」というテーマで編まれた短編集『女生徒』(角川文庫)に収録。同集には「貨幣」「待つ」などの名作が目白押しです(私は「皮膚と心」が大好きです)!

☑続いて、村上春樹氏の名作青春小説のなかの御茶ノ水を探訪します!

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📚村上春樹『ノルウェイの森』は、作者自身による上下巻の装丁もあざやかに思い浮かぶ、定番青春小説です。「100%の恋愛小説」というコピーとともに、大ヒット(現在の累計発行部数は100万超)で社会現象と扱われた小説です。その名作から御茶ノ水を見てみましょう!

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高校の親友キズキくんの恋人だった直子さん。キズキくんと直子さんは僕(ワタナベくん)と3人で遊ぶことを好んでいた。しかし、この関係はキズキの行動によって断ち切られてしまう。遺された2人が東京の大学生となって再会した日の出来事がこれです。四ツ谷駅から駒込まで歩きたおす場面に私は青春をがっつり感じます。この『ノルウェイの森』の上巻の冒頭近い部分を読むだけでも、登場人物が生きているなあと感心しきりです。3人のエピソードが主に描かれた短編「蛍」(『螢・納屋を焼く・その他の短編』(新潮社)所収)もおすすめです!

☑お次は、ユーモラスな表情をたたえた、純文学界の金字塔です!

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📚後藤明生『挟み撃ち』は、ある作家が、青年の頃着ていた外套の行方を探す一日の旅に出たというあらすじです。このいくらでも素敵にまとめられそうなモチーフを、なぜか語り手は絶妙なタイミングであらぬ方向へずらしていき、そして面白いようで悲しいようで、どこか爽快なラストを迎える小説です。純文学的格闘の1つの到達点がここにあるでしょう。いま読み返すと一部を引用したくなるようなリリカルさとは違う、緊密に長編を構成する文章の明快さと魅力を感じます!

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『挟み撃ち』は冒頭にもラストにも御茶ノ水が満喫できるので、ご当地小説的にすごく楽しいんですが、私にとても思い出深い作品です。SF小説を好み、外国名作文学やベストセラー小説をぽつぽつ読んでいて、どこか純文学に「こむずかしいもの」という苦手意識があった私は、『挟み撃ち』を読んで目からウロコでした。純文学というものがそもそも面白いものだと認識させられた作品です! 講談社文芸文庫のエースとしていまも入手可能な作品で、国書刊行会の『後藤明生コレクション』シリーズにも収録されています。後藤明生リバイバルがいまきています!!

☑最後の純文学作品はあの天才作家の作品からです!

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📚樋口一葉「十三夜」は、別れの物語「たけくらべ」そして心中の物語「にごりえ」がツートップの天才作家の傑作です。硯友社の近傍にいて、文語(時にまんま古文)を用いますが、とびきりフレッシュな小説を書いた作品です。20余りの短編がどれも輝いており、夭折が本当に惜しい作家です。そこから1作を引用します!

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小川町は新御茶ノ水駅の近くです。「勧工場」は現在のショッピングモールみたいなものだとお考えください。望まぬ結婚と夫の言動に苦しむお関。家出同然で帰った実家から追い出されるように車に乗った彼女は、その人力車夫がかつて恋心を抱いていたおさななじみの録之助であることを知ります。これが別れの物語か心中の物語かは作品でご確認ください。古いものを愛し、今のこころを描き、そして抜群に新しい。私はこの一葉と宮本浩次氏の姿が重なります!

☑ここからエンターテイメントを、最初は私がもっとも愛する作家からどうぞ!

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📚木内一裕『アウト&アウト』は、『藁の楯』『水の中の犬』と胸がしめつけられるような傑作ハードロマンを書いてきた木内一裕氏が、笑いとすごみの同居したエンターテイメントの書き手でもあることを明かした最初の作品です(『ビーバップ』の作者なのでここで得意技を解禁したと言えます)。私は最近12作一気に読みましたが、どうしてこんなに木内一裕の小説が面白いのか現在も熱に浮かされたように問いつづけています!

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御茶ノ水のご近所の神田の書店街が登場しています。本作は本当にアウトでアウトだなと読者を瞠目させる傑作ハードボイルドです! 不良漫画の金字塔『BE-BOP-HIGHSCHOOL』の作者は、映画監督としても小説家としても抜群のエンターテイナーです。『キッド』『神様の贈り物』と本作『アウト&アウト』(すべて講談社文庫)をとくにおすすめするものの、12作すべて買い集めてから休暇をとって全作読破することがベストな読み方かもしれないと思うほどです!

☑続けて文庫レーベル自体を愛する力を私に与えた傑作を!

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📚高野和明『幽霊人命救助隊』はずばりなタイトルをもつエンターテイメント小説です。作中のテーマに対して展開がポジティヴすぎると感じる方もおられると思いますが、私にとっては読むと涙がとまらないくらいグレートな小説です!

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御茶ノ水駅と、明治大学をモデルにしたとおぼしき大学も登場しています。ちなみに、ここ最近の文春文庫はアタリが多く、手話通訳士が主人公のハードボイルド小説『デフ・ヴォイス』やいま映画化されたばかりの『羊と鋼の森』も文春文庫です(そして『幽霊人命救助隊』はド定番のロングセラーなんです)!

☑続けて、ゴッド・オブ・ミステリーの手になる御茶ノ水小説を!

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📚島田荘司『写楽 閉じた国の幻』は、写楽とは何者であったか、いかにしてあの天才を発揮できたのかをめぐる歴史ミステリーです。この2つの謎を奇想によって解決される読み応えは、まさしく講談社文庫で読める『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の犯罪』の島田荘司氏の手になるものでしょう、私は彼の小説が昔から大好きで、その思い入れでツイートの下に新潮文庫で手に入る本作の解釈を追加します(画像は「奴江戸兵衛」です)!

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(以下は曖昧なネタバレを含む記述です)西洋文明と日本文化の結集である回転ドアの機構の怖さと対比するように写楽という存在が物語られているのが本作です。写楽の謎はクリアに解決しても、回転ドアの決着(と息子の死)はまだ受けいれる途上にある構成です。島田荘司は一体なぜこのような構成で小説を描こうとしたのか。私は「その2つをあわせて日本そのものなのだ」という把握に立っていたから片方が省けなかったと考えています。さらに「日本そのもの」を描いている手ごたえが「好きなお茶の水の街をもう少し描いてみたい気がする」と好きな日本の具体的な描写を生み出している、そんな風に解釈しています。それにしても、引用の漢陽楼までの描写といい、新御茶のエクセシオールの描写といい、すごく楽しそうに言葉で写生していきますね!

☑さらに続けて、エンタメ界の台風の眼にも登場していただきます!

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📚誉田哲也『増山超能力氏事務所』は、『ストロベリー・ナイト』の刑事シリーズで知られる作家の傑作です。私は(暴力描写がきつくもあるのですが)誉田エンターテイメントが大好きです。かつては「日本のクーンツ」と思っていて、ディーン・R・クーンツのように読者を面白がらせるためには手段を選ばない最高のエンタメ作家だと思ってきましたが、いまは「日本の○○」以上のもっとすごい存在だと思っています。ヒット作『あなたが愛した記憶』を読むと、新しいエンターテイメントのスタイルを彼が発明するのではないかという迫力すら感じます(でもそれよりはるかに暴力描写が薄い『春を嫌いになった理由』がマイベストです)!

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誉田作品のもうひとつの魅力は東京都のいろいろな土地の描写を楽しく読ませてくれるところ。本作では千代田区がその栄誉をたまわっています! そして相変わらず文春文庫がいいです(と書きつつ、『春を嫌いになった理由』は光文社文庫です)!

☑最後は大好きなエレファントカシマシの作品で〆ます!

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📻エレファントカシマシ「七色の虹の橋」は、傑作目白押しのアルバム『MASTER PIECE』に収録されています。宮本さんが趣向のちがう名作が凝縮したアルバムタイトルを悩んでいるとき、「七色の虹の橋」を作って、そこにある「マスターピース(傑作)」という歌詞を埋めたとき、タイトルがすんなりと決まったという逸話があります!

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「これは元々中央線沿線のイメージだったんだけど、神保町に行ったら全部がぴったり合ったね。喫茶店行って、コーヒー飲んで。それはわずか1時間半の出来事だったんだけど、昔の思い出を同じ人がそのまま追体験して、今それをやってる――セピア色の思い出どころじゃなくて、今もクリアに真直ぐにそこにいて、同じ人がそれをやってて。」(雑誌『Musica』2012年6月号のインタビュー)。人は思い出と同時にいまこの世界に生きている。そこに「七色」をみた詩情がグレートで、アルバムの中でタイトルが歌われる瞬間にぐっときます! いい作品なので宮本浩次氏のソロ作『P.S. I love you』とともにおすすめです!

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