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『虐げられた人びと』(ドストエフスキー、新潮文庫)の感想

 19世紀ロシアの文豪ドストエフスキーの作品。語り手の「私」が町でみかけた老人の死後アパートに行くと一人の少女があらわれた。かれら貧困と権力者にしいたげられる人々を描いた長編小説。
 他の大長編に比べると哲学性は薄いが、名場面も多く、ドストエフスキーの力感ある語りは変わらない。あとたぶん黒澤明の『赤ひげ』にインスピレーションを与えている作品で、ストーリーの展開がすごく熱い。
 最後に冒頭の老人の愛犬アゾルカの死を描いた場面。この描き方にぐっと来るかでドストエフスキー作品をノリよく読めるか分かれる気がする。

「老人はぎくりとして、アゾルカがすでに死んでしまったことを理解できないように、少しのあいだ犬を見つめた。それからかつて忠僕であり友人であったものに静かに体をかがめ、その死んだ鼻面に自分の蒼ざめた顔を押しあてた。一瞬の沈黙が流れた。私たちはみんな感動していた……。やがて哀れな老人は体を起した。顔はひどく蒼白く、全身は熱病の発作のように震えていた。
「あくせえ作ればいい」と、思いやりの深いミュラーがなんとかして老人を慰めようと口を開いた。(あくせえとは剥製(はくせい)のことだった)」(p17-18)


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