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宮本浩次氏エレファントカシマシ感想Ⅲ

 宮本浩次氏のひたむきな歌唱の衝撃のひとつに名曲「翳りゆく部屋」(©荒井由実)をうたったテレビ番組がある。恐らくフジテレビの『僕らの音楽』で、小説家川上未映子氏との対談も楽しかった。そして宮本浩次氏のうたがものすごく、うたう姿がわかりやすく破格のたたずまいを誇っていた。

 記憶で書く私は細部を正しく描けるだろうか。いま描写したいのは「翳りゆく~」の運命と愛の悲劇の絶唱に突入するサビの開始だ。ここで氏は目をみひらく。顔が自然とあがるほどのみひらきようなのだ。そして、顔があがるにつれて口もひらいていく。限界までひらこうとするいきおいで。

 みなさんには経験があるだろうか。大声をさけぶときに目をみひらいた経験が。わざとそういう顔で声を出したことならあるかもしれないが、私は経験がない。だから、そのときこんな風に感じたのである。宮本浩次氏はいまどういうテンションなのか。うたがすごく良いだけそれを知りたくなった。

 そして私にとって衝撃がおとずれる。ふたたびサビがおとずれた瞬間だ。氏はまったく同じ目のみひらきかた、顔のあげかた、口のあけかたをしてこのサビを歌いきる。そう。宮本浩次氏の身体はテンションで動いたのではない。その瞬間にノドと声帯をひらききるその一事に取り組んでいたのだ。

 歌唱する際のしぐさ、ステージパフォーマンス、情熱のジェスチャー、この宮本浩次氏の身体の動きはそのどれにもあてはまらない。というか、それらを逸脱してくるすごさで、わたしたちの目を驚かせながら、とびきり美しい歌声をとどけている。うたうことに専心するひたむきさを閃かせて。

追記:この番組はたぶん2008年に放送された「僕らの音楽」だと思う。
追記2:エレファントカシマシの「翳りゆく部屋」はアルバム『STARTING OVER』(08)所収。たぶんバンドがアルバムにカバーをいれた唯一の例で、女性の曲をうたう意味では宮本浩次氏の『ロマンス』の端緒にあたる大事な曲。「翳りゆく部屋」は「ひこうき雲」とならぶユーミンの荒井由実時代の神ソングです。

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