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そうだラテン語をやろう! 第3回

ラテン語愛好家 山下太郎 
ラテン語は教科書、辞書、参考書があれば独学できます。教科書の通読は欠かせませんが、すでに学校で英語を勉強した経験がある人は、英文法の知識があればこそ、説明文を読んでも理解できます。教科書を読みながら辞書の使い方が会得できます。あとは対訳を使えば原典講読ができます。コツは挫折しないこと。単語も語形の変化も「調べてわかればよし」と割り切れば、ラテン語は生涯の友となるでしょう。このコラムではラテン語独習のヒントをお伝えします。

ラテン語で人気のある校訓とは


 海外の大学に目を向けるとラテン語の校訓を持つところが多いです。人気のある校訓にはどのような言葉が使われているでしょうか。第一位は Veritas (真理)でしょう。ハーバード大学の標語はこの一語です。veritas を用いた大学のモットーとして「真理は汝らを自由にする」(Veritas liberabit vos. )や「真理は勝つ」(Veritas vincit. )なども知られます。
veritas を別のキーワードと並列させるパターンもあります。たとえば、Veritas et Justitia (真理と正義)など。イェール大学の校訓は Lux et Veritas (光と真理)となっていて、ハーバード大学より Lux (光)が一つ多いわけですが、「真理」とならび「光」という言葉も宗教的な意味もこめて校訓によく使われます。
 実例を挙げると、 Fiat lux. (光あれ)──カリフォルニア大学、In lumine tuo videbimus lumen. (汝の光のなかに我らは光を見出すであろう)──コロンビア大学、などです。ケンブリッジ大学は、Hinc lucem et pocula sacra.(ここから光と神聖な盃を)、オックスフォード大学は Dominus illuminatio mea. (主はわが光)となっていて、lux が用いられているわけではありませんが、いずれも「光」がモチーフとなっています。
 ということで、これら「光」を用いた校訓を第二位と認定しましょう。いずれにしても、「真理」や「光」が大学の校訓に最もよく使われていることはほぼ間違いありません。三番手以下は、古典の格言をそのまま使ったものや、その大学自身が考案したラテン語であったりします。

マサチューセッツ工科大学のモットーも Mens et Manus (心と手)


 前者の例をあげるとアデルフィ大学の Vita Sine Litteris Mors Est. (学問のない人生は死である)があげられます。元はセネカの言葉です。後者の例としては、ロンドン大学の校訓があげられます。この大学の場合、 Cuncti adsint meritaeque expectent praemia palmae.(誰もが集い、価値ある栄誉の報酬を期待せよ)となっていて、オックスブリッジとはひと味違う自由な学風を言葉に反映しています(ちょっと長いですが)。ひと味違うといえば、MITのモットーも Mens et Manus (心と手)となっている点がユニークです。工科大学にふさわしい言葉です。Mind and Hand という英語でもよさそうなものですが、やはり校訓ということでラテン語で表記されています。Veritas や Fiat lux. など、よくあるラテン語をそのまま用いた場合は、複数の大学で共用されるわけですが、今見たような Mens と Manus の組み合わせは、ありそうに見えて実際には先例はなく、まさにMITの独創とも言える表現です。他大学はおいそれと真似できません。以上は厳密な調査結果ではなく、ざっと見渡した結果をもとに主観で選んでいます。実際に調べたら veritas より lux 系が多いかも知れませんし、もっと別の言葉に人気があるなんてことかもしれません。

私塾「山の学校」のラテン語名は ludus collinus で、校訓は、Disce libens. (楽しく学べ)

 ところで、日本の大学はミッション系の大学を除き、「校訓」そのものを掲げているところがあまり見当たらず、ちょっと寂しい気がします。ちなみに私の主催している私塾「山の学校」のラテン語名は ludus collinus で、校訓は、Disce libens. (楽しく学べ)です。小学生から大人まで、学びの本当の楽しさを分かち合う場を願って創設したものです。なにもラテン語でなくてもよいので、日本の教育機関もそれぞれの学校に「校訓」をつけ、それを尊重する習慣ができてもよいかな、と思うこの頃です。
 蛇足ながら、欧米にはラテン語のモットーを掲げる都市も少なくありません。ロンドンはDomine, dirige nos.(主よ、われらを導きたまえ)で、パリは Fluctuat nec mergitur.(たゆたえども沈まず)です。また、アメリカ合衆国に目を向けると、Dum spiro spero.(私は生きる限り希望を持つ)などラテン語のモットーを持つ州が大半です。その一つ一つをここで紹介する余裕はありませんが、ネットで検索するとすぐに見つかるでしょう。そんなところから、少しずつラテン語に関心を深めていただけたらと願います。

著者プロフィール
ラテン語愛好家。1961年京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程学修退学。専攻は西洋古典文学。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。問い合わせ先 https://aeneis.jp

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