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韓国文化・社会の現場から 第2回「地下鉄 지하철」

髙木丈也(慶應義塾大学)

韓国語の初級テキストに必ず出てくる単語を手がかりに、韓国の文化や社会に対する理解を深めましょう。

 ソウルや釜山などの都市を旅行すると、必ず1度は利用するであろう地下鉄。今回は、日本と似て非なる地下鉄の話題をお届けします。

 韓国初の地下鉄は、1974年にソウル駅と清涼里駅の間で開業しました(1号線、7.8km)。日本では、1927年に開通した銀座線が最初だったので、約半世紀遅れてのスタートです。しかし、それからさらに半世紀、今ではソウルは東京とも肩を並べる、世界でも有数の地下鉄先進都市となりました。

 ソウルの地下鉄は表面的には、日本の地下鉄と大差ないようにみえます。しかし、よく観察してみると、ちょっとした違いが。今回は、私が面白いと思った部分をいくつかご紹介しましょう。

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突然、物売りがやってくる

 地下鉄の中は読書の場所?あるいは、ゲームに熱中…?いえいえ、韓国の地下鉄は日本よりもう少し賑やかです。新型コロナウィルスの流行で状況は少し変わったと思いますが、携帯電話で通話する人や、たまたま居合わせた人と談笑するお年寄りなどもいて、過ごし方は色々です。さて、そんな地下鉄の中にいきなりやって来るのが、物売りの人達。廃業になった店などからガムやタイツ、生活雑貨などを二束三文で仕入れてきては、地下鉄の中で売りさばきます。中には賑やかな音楽とともに実演販売を始めたり、座っている乗客の膝の上に商品をどんどん置いていって、興味のありそうな人がいれば駆け付け、売ろうとする人も。ただ、この行商、もちろん違法で、最近は取り締まりが厳しくなっているようです。なので、次の駅に着くまでの間に1つでも多く売ろうと、いつも必死に動き回っています。

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譲り合いの心が健在

 日本の地下鉄でも車両の端には優先席が設けられており、その席を必要とする方のために空けておくのがマナーとされています。しかし、残念ながら、あまり守られないことも多いようです。一方、韓国の優先席は多くの場合、必要な方のためにスペースが空けられており、優先席でなくても座席の譲り合いが日本より自然に行われています。また、日本にはない「妊産婦配慮席」も設けられています。この席は、下の写真のように座席か床の色がピンクになっているので、わかりやすいですね。混んでいてもこうした席が空けられているのを目にすると、儒教的な価値観が今も生きていることを感じます。

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乗り間違えたら、戻るのに一苦労?

 ソウルの地下鉄には、上り線と下り線の改札が別々になっている駅があります。そのため、うっかり電車を乗り間違えてしまい、次の駅で反対側のホームに移動するには、一度、改札を出て、入り直すことになります。このことを知らないと、最初は少しパニックになりますが、心配ご無用。改札の端にはインターホンがあるので、これで駅員と通話をすれば、ゲートを開けてくれます。もし韓国語がわからなければ、英語で話してもOKです。

その他にも…

 日韓の地下鉄の違いは、これだけにとどまりません。

・路線名が1号線 일호선 、2号線 이호선…のように数字に
 駅ごとのナンバリングも日本より前から実施されていました。

・電車到着時のホーム、乗換駅に着く前の車内で鳴る陽気な(?)音楽
 あの音楽を聞くと、ソウルに来たと実感します。
 [参考] 以下で聞くことができます。
 https://www.youtube.com/watch?v=n9kN-9HddjI
 (데이드림사운드 DayDreamSound:韓国語)

・駅に置かれた防毒マスク
 テロ、戦争など有事の際に備えて。駅がシェルターとしてやや深めにできています。

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 今回は地下鉄にまつわるお話でした。韓国の地下鉄は日本よりずっと運賃が安く、重要な観光地も多くカバーしています。T-Moneyという交通ICカードを買うと、バスとの乗り換えにも割引が適用され、お得です。皆さんも次にソウルや釜山に行かれる際には、是非、地下鉄を利用して、駅や車内を観察してみてください。

 それでは、また次回、お会いしましょう!

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※写真提供(下の2点):韓国観光公社(上から順に한국관광공사 이범수、IR 스튜디오)

記事を書いた人:髙木丈也(たかぎ・たけや)
慶應義塾大学 総合政策学部 専任講師。東京大学大学院 人文社会系研究科 博士課程修了(博士(文学))。専門は韓国語学、方言学、談話分析。著書に『そこまで知ってる!?ネイティブも驚く韓国語表現300』(単著、アルク)、『日本語と朝鮮語の談話における文末形式と機能の関係―中途終了発話文の出現を中心に―』(単著、三元社)、『中国朝鮮族の言語使用と意識』(単著、くろしお出版)、『ハングル ハングルⅠ・Ⅱ』(共著、朝日出版社)など。2019年4月より『まいにちハングル講座』(NHK出版)に「目指せ、ハングル検定!~合格への道~」を連載中。


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