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先ちゃんとユキちゃん①~君は己のために練れるか

「よし、今日の練習終わり! お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした!!」」」

......

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「ユキちゃん、今日はどうした? いつになく動きのキレが悪かったように見えたが」

「はあ……昨日な、遅くまで『ももクロ』のライヴDVDを観よってさあ、あまり寝ちょらんのよね~」

「ほほう、なかなかハイカラなものが好きなんだな。しかし大会も近いことだし、練習に支障が出てくるようでは困るぞ。自己管理はきちんとしなきゃな」

「今どきハイカラが形容動詞として通用するんか知らんけど、気をつけるわ~」

「うむ。しかしながら、まあ君の気持ちもわからんでもない。実は私も昨晩は『えどクロ』に夢中になっていて、気付けば夜明け近くまで起きていたのだよ」

「目の下のクマはそういう理由やったんな......デーゲームに出場しよるプロ野球選手みたいになっちょるよ……でもなんなん、『えどクロ』って?」

「君は若いくせに、えどクロも知らんのか……ああ嘆かわしや。これも昨今のゆとり教育がそうさせたのかもしれんが、何にせよ残念であることだなあ」

「古典的詠嘆が地味にムカつくんやけど」

「えどクロといえば、これ(↓)に決まっているではないか!」

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「……新五捕物帳のオープニングテーマをそう呼ぶんはやめんかえ?」

「何回聴いても名曲なんだよなあ」

「これに昨晩夢中になっちょったっちな……先ちゃんの場合、練習どころか人生に支障が出ちょる気がするがえ~」

「ああ、えどクロの握手会にも行きたいなあ。きっとだが、炎のように燃える目をした杉良太郎さんが男の怒りを込めた握手をしてくれるに違いない」

「そうやな、そのまま手を握り潰されてしまえばいいんやわ」

「あ、でもあまり長い時間握手してると『剥がし役』に杉様から剥がされてしまうな。剥がし役は悪役の皆様だと思う」

(「だと思う」やねえわ……)

「ああ、話しているうちに江戸へ行きたくなったぞ。ユキちゃん、いくらか都合してくれないかね」

「この話まだ続けるんな?」

「お、そうそう。明日の練習は休みだから間違って来ないように」

「だからっちゅーて話変わりすぎやわ。練習休みなんや、どーしょーかな」

「どうしようかなって……練習すればいいじゃまいか」

「でも教室ないし」

「わかってないね……教室でしか練習しない奴が上手くなるわけないだろうが。教室はあくまで確認、そして新しいものを学ぶ場。それ以外の反復練習だとか訓練といったものは、本来は教室自体によほどの時間的余裕がない限り自分でやっておくものだ」

「そんなもんなん?」

「そんなもんだ。指導者が生徒を上達させていくものと思ったら大間違い。指導者はあくまで要領なり方法論なりを言葉あるいは身体で『伝える』だけ……それをモノにするために時間をかけなきゃいけないのは、結局は本人なんだよ。そこを勘違いしてはいかんぞ」

「(ホントごくたまに真面目なこと言うちくるけん困るんよな)わかった、心に留めちょくわ」

「むろん、指導者も指導者で間違ったことを生徒に教えてしまわないよう、常に研鑽を怠ることなく前に進んでいかなければならんがな」

「えどクロがどうやとか、そういうのは間違っちょらんの」

「多分」

「もーいーわ。ところで明日はなんで休みなん?」

「それは言えない。ちょっと遠くの街へ、かわいいお姉ちゃんをナンパしに行こうと思いついたからとか、口が裂けても言えない」

「裂けて駄目なら、いっそ縫っちゃろうか?」

「じゃあ明日も早いし、これで失礼する……おっと、大事なことを伝え忘れていた」

「?」

「えどクロの推しメンは駒形の新五で、ひとつよろしく!」

「しゃーしいわ」



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