アイキャッチ審査基準実物20190911

【質問回答】審査基準の勉強のしかた

0. プロローグ

この日は「条文の憶えかた」について朝からぼんやり考えていて、考えの断片みたいなものを上記のようにツイートしていたところ、

という質問が寄せられたので回答します。

なお、現役受験生からの質問はいつでも受け付けています。
お気軽に送ってください。
はじめから遠慮してトクすることなんて何もないんで。
(すべてに回答することをお約束するものではありません。)

1. 審査基準の勉強を得点に結びつけるための基本的な考え方

さて、「弁理士試験の合格のために審査基準はどのように勉強したらよいか」という問いかけですが、これはまず短答式試験対策と論文式試験対策とで分けて考える必要がありますね。「口述対策」については、短答・論文で審査基準に親しんでいれば自然とカバーできると思ってます。また、特許・実用新案、意匠、商標で審査基準の重要度や扱い方が異なるので、この点も分けて考える必要があります。

短答にせよ、論文にせよ、あるいはどの法域にせよ、全体を貫く重要な思想は、

「審査基準は全ページ印刷and/or冊子として手元において参照したほうがよい」

です。

いま、受験生時代に使っていた特許・実用新案の審査基準を手元に置きながらこの記事を書いています(ガサガサのアイキャッチ画像が実物です)。審査基準の内容自体は受験生が普段使いしているテキストにも問題集にも、あるいはレジュメにも反映されているため、受験指導ではよく、

「勉強するテキストは絞り込んだほうがよい」

ともアドバイスされますが、以下の2つの理由から、一次情報としての審査基準は冊子として手元にあったほうがよいと考えています。

1つ目の理由は、「冊子として手元にないと、全体像が把握できない」ためです。

ご存知のように、どの法域であれ審査基準はPDFでダウンロード可能です。そしてお使いの受験教材では、審査基準の中の必要な記載についてその都度引用されています。

ただ、「関連事項」・「参考」として逐次引用されている範囲で審査基準を学んでいる限り、

「審査基準はどこまで学べばよいのか」
「引用されている以外の箇所が出題される可能性はないのか」

といった疑問を払拭することができません。これは言い換えると、いつまでたっても審査基準に対する受験上の不安が消えない、ということです。

また、上述した、

「(審査基準で)引用されている以外の箇所が出題される可能性はないのか」

という受験生の直感はある意味正しいです。というのも、これは「憶測である」と断ったうえで書きますが、出題者側は市販されているものはもちろん、メジャーな受験指導機関の教材には全て目を通していて、その上で新規の本試験問題を作成していると考えたほうがよいです。

よって、審査基準について受験指導において解説・言及されていない箇所が出題される可能性は十分にあるといえます。

加えて、2つ目の理由として、「受験用のテキストや問題集の記載が間違っている可能性がある」ことが指摘できます。

受験勉強が進めば、テキストの記載の間違いや不正確さに気がづくことがあるでしょう。残念ながらこうした誤記は撲滅することは難しく、それゆえに万全を期すためには自衛をするしかないのが実情です。テキストの記載の不正確さを責めたところで、お詫びをされるのがせいぜいで、本試験の加点をされることはありませんから。

ここで、

「1次情報として内容を確認するだけなら、PDFを参照するだけでよいのではないか」

という疑問をいだくかもしれません。

たしかにPDFでも内容は同じですし、iPadのようなタブレット端末にダウロードしておけばいつでも参照できます。なにより重たくないのが便利ですよね。

けれども、この「重くない」というメリットが知識を仕入れるうえではデメリットになります。

なぜならば、冊子じゃないと重さや厚さ、記載の位置といった物理量を通じて全体像が把握できないからです。

私たちはコンピュータのようにテキスト情報をそのまま記憶することができませんが、その代わりに、重さや厚さ、記載の位置といった物理的な情報を手がかりに記憶を定着させ、また記憶を喚起させます。

PDFではこうした物理的な情報の一切を捨ててしまうことになるので、

「だいたいこのあたりに書かれていたはず」

といった思い出しかたができないです。

冒頭のツイートでも条文の記憶について言及していたのですが、ある知識を思い出せるようにするためには、単一のリソース(条文や教材)への接触を脊髄反射的に繰り返すよりも、複数のリソースにアクセスしつつ、同一の情報にまつわる記憶を異なる角度から惹起したほうがよいです(記載内容の正確性が担保されていることが前提です)。

以上の理由から、あなたが弁理士試験の合格を確実なものとしたいのであれば、審査基準については印刷して冊子として製本したものを手元に置いておくことを強くオススメします。

次に、法域別に具体的なコメントをします。

2. 特許・実用新案審査基準

特許・実用新案の審査基準は以下からダウンロードできます。

余談ですけれど、特許庁のホームページは検索エンジンの検索結果ページのリンクが切れていることがあって、求めているリソースにたどり着くのに難儀しますね。上記のリンクも切れているかもしれませんが、その場合はトップページからディレクトリをたどってください。

トップページからディレクトリをたどってください。」

だなんて、まさか2019年になってもこんなにもインターネット1.0な記述をするとは、1996年時点は思っていもいませんでした(笑)。

話を元に元に戻して、最新の特許・実用新案基準はページ数にして510ページですか、膨大なボリュームですが、これをまずすべて印刷する必要があります。

ちなみに、2ページ・4ページ・8ページのように、空白のページが随所にありますから、これらのページを除いて印刷するのがエコですね。

印刷については、A4両面が文字サイズ的にも無難です。もちろん、B5で両面とか、A4両面で2アップとか、コンパクトサイズをお望みならばテスト印刷して文字サイズを確認した上でトライしてみてください。

印刷は、おおらかな社風であれば会社で印刷するのが理想的です。業務上必要だからとかなんとか、、、でも大量に印刷することになるから、持ち帰ったり、私物として使うのはNGかな。そのあたりは各自のコンプライアンス判断で。なお、手前どもは大学に知的財産について教えにいっている時にここぞとばかりに印刷しています。教えるために必要なんで。。。

会社や学校での印刷がかなわない場合は、自力で印刷するしかないですね。その場合は両面印刷対応のモノクロレーザプリンタを1台買いましょう。んで、必要経費とわりきれるお値段だと思います。

さて、印刷した紙の束は最寄りのキンコーズアクセアに持ち込んで「くるみ製本」をお願いしましょう。1冊あたり数百円でやってもらえます。表紙の紙の色はお好みで。表紙は厚紙じゃなくて薄いのでいいと思いますね。厚くすると背表紙のノリがはがれるおそれがあるので注意が必要です。そうじゃなくても250ページの紙の束はけっこうな厚さになりますから、注文する際にはノリを強めでリクエストすることがコツです。なお、製本の機械はアイドル状態になるまで時間が必要なみたいなんで、待ち時間を短くしたいのであればお店に訪問時間をあらかじめ電話で伝えて、機械をオンにしておくことをお願いしたほうがよいです。

そうこうして冊子として手に入れた審査基準ですが、もちろん全体を通読するようなことは非効率なので不要です。基本的には受験用のテキストや問題の解説冊子で言及された事項について、イマイチ理解できなかったり、気になる箇所があれば逐一チェックして読んでいくというスタイルでOKです。

たとえば自分が受験生時代にチェックした箇所を読み返してみると、29条1項柱書の「産業上利用することができる発明」の記載にマークがされています。この項目を読むと、「産業上利用できない発明」の類型が5ページにわたり説明されています。ここでも全部を読み込む、というよりも、見出しレベルをチェックしていくので十分です。

とりわけ「人間を手術・治療・診断する方法」については、今後の論文式試験で突っ込んだ事例問題が出題されることも予想されますから、1度は審査基準に目を通しておいたほうがよいと考えています。といっても該当する箇所は2ページ程度なんで、通読してもそんなに時間はかからないです。

「産業上利用できる発明」に限らず、概説的な説明の後には具体的な事例集が続きます。実はこの事例集を元ネタにして問題作成がされることがあるし、具体例のなかには示唆に富むものがあるのでつい時間をかけて読みふけってしまうこともあるかもしれませんが、試験で点を取ることを目的とするなら丹念に事例を読むこむことは時間対効果が小さいので注意してくださいね。仮に目を通すとしても、事例のタイトル+結論部分の「該当する/しない」をチェック、つまり各事例の冒頭と最後だけを読んで、自らの常識と反する内容であればマークしておく、といった程度で十分です。

そのほかにも、各事項について冒頭部分で制度趣旨をまとめてくれているので、答練で出題された内容について解答表現の工夫をしたい場合は審査基準の該当箇所に目を通すのがベターです。実際に平成24年の問題Iにおける「新規事項を禁止する補正の趣旨」や平成27年の問題Iにおける「パリ条約優先権の趣旨」なんかは、審査基準の該当箇所の記載が元ネタであることが一読すれば明らかにわかりますね。

全体を通じて、特許・実用新案の審査基準については短答式試験対策というよりは論文式試験対策として活用するのがメインです。

ちなみに受験生時代は、知財検定1級(特許)の受験勉強にも審査基準の読み込みが得点に貢献してくれました。知財検定1級(特許)に審査基準の内容が今でも出題されているなら、がっつり目に読み込んでおいたほうが合格しやすいです。

いずれにせよ、審査基準を手元において気になったときにパラパラとページをめくりながら該当箇所を一読することで、試験の元ネタを公式の情報源で確認するという安心を得られます。

3. 意匠審査基準

続いて意匠の審査基準です。ご存知の通り意匠法は令和元年の改正に伴って意匠審査基準は大幅な改訂が進められているので、学習の進め方には注意が必要です。ここで1つの考え方としては、今年(令和元年)の受験勉強については意匠の勉強を全体的に後ろ倒しにして(ということは特許・商標はじめその他の法域を年内の勉強では優先させて)、意匠については年明け(2020年)以降に情報が出そろった後に集中的に勉強する戦略が考えられます。

もしあなたが短答式試験に合格しており、論文式試験の受験勉強に特化できるのであれば、上記の考え方を採用するのもアリだと考えています。一方で、短答式試験の対策も必要なのであれば、意匠の学習を後回しにするのはリスクを伴う選択になるでしょう。とはいえ、改訂前の意匠審査基準に基づいて勉強を進めた後に、改訂後の審査基準に基づいて知識を上塗りするのは2度手間ですし、混乱も想定されるのが悩ましいところです。

そこで短答式試験の勉強が必要な場合の考え方としては、ひとまず最新の過去問集が手に入る秋口までは意匠の勉強は後回しにしつつ、過去問集が手に入った時点で、改訂前の意匠審査基準を用いて学習をしたほうがよいか改めて判断したほうがよさそうです。

ということで意匠の審査基準の勉強法については、過去問集の解説の改訂状況も見定めながら改めて解説したいと考えています。

今の段階でも1つだけ言えることは、意匠の審査基準の勉強は短答対策としても論文対策としてもマストだということです。むしろ短答式試験についても意匠審査基準は出題テーマのオンパレードですから、目を通さないのはもったいない。このことだけは覚えておいてほしいです。

短答対策にしろ論文対策にしろ、今の段階(2019年9月現在)では、特許・実用新案・商標・条約の勉強を集中的に固めておきましょう。

なお、言うまでもないことですが、このあたりの事情を加味することをすっとばして受動的に勉強したい場合は、受験指導機関の講座に申し込むのがもっとも簡便ではあります。リンク先の講座(*リンク切れました)はすでに申し込めないようですが、同様の講座は再び開催されるでしょうから、最新の情報はチェックしておくにこしたことはないですね。

4. 商標審査基準

最後に商標の審査基準についてですが、商標でも短答・論文を問わず審査基準の学習はマストです。短答式試験対策としては3条・4条の登録要件について、審査基準の記載がそのまま出題されますし、ボリュームも4条1項11号の記載を除いてはそんなに多くないので、まずは全体に目を通しておいたほうがよいです。一方で、論文式試験対策としては、今後も出題が予想される立体商標の類否判断なんかは、審査基準の記載を正確に再現できるように、"じっくりとマーク"しておくのが得策です。

商標の審査基準について特実や意匠と勝手が違うのは、商標審査基準は冊子版が市販されているので、印刷して製本する必要がないということです。ただし、ので、在庫が切れているときは他の書店で買ったほうがよいです。

商標審査基準についてはもう1冊、工藤莞司先生の『実例で見る商標審査基準の解説』です。通常の審査基準だけだと文字ばかりがならんでいるので正直読んで理解する気になりません。その点、はイラストで具体例が適宜説明されているので理解がしやすいです。こちらもアマゾンではプレっていますが、定価は4,320円の本です。残念なのは、が最新の商標審査基準(第14版)に対応していないことですね。以前はこまめに改訂されていたので、ひょっとしたらそろそろ最新版が出るかもしれません。*

*追記:最新版(第9版)の刊行予定は「今のところない」と聞きました。

5. まとめ

以上の通り、弁理士試験の受験勉強における審査基準の勉強のしかたについて概説しました。ポイントは「紙バージョンで全体に目を通せる冊子を準備してね」ということで、さらに個別具体的に突っ込んだ内容は問題の解説をするときにでも再度言及したいと考えています。

なにかお気づきの点やご不明な点があれば、下記までお寄せください。

ツイッターのDMも開放しています。

追伸:答案の書き方をゼロから教える、「論文過去問演習講座」を開講しました。

追伸2:特実にしろ意匠にしろ、審査基準の冊子の準備は結構めんどうだし、地方の受験生はそもそもキンコーズやアクセアが近くにない人もいるだろうから、リクエストが複数あるようならば、手前どもで冊子を準備・発送してあげて、さらにシンプルな解説講座もつける、ということをやってみたいとも思います。ただ、そうなると、「神社」という手前どものコンセプトからは大きくずれてしまうので、実現には工夫が必要だと感じます(笑)

それでは、この記事を読んだあなたが弁理士試験に最終合格することを願っています。ありがとうございました。

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宗教法人としての法人格は有していませんが、お布施・お賽銭・玉串料・初穂料、いかなる名義や名目をもってするかを問わず、すべての浄財は24時間受け付けています(笑)