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#18. 特許5337003号「デスク」〜カリモクの勉強机〜

 本日は街中で見つけた特許シリーズの第三弾です。この特許はカリモク家具株式会社の登録特許です。某家具店でいただいたカタログに「特許取得デスク」というキャッチフレーズとともにこの登録番号が記載されていました。私は現在、小学生の勉強机を求めて、いろんな店舗の机を調べている最中の身です。


1.製品の概要

 カリモクさんの机の中でもCoordi(コーディ)というシリーズのSU3670、Spain kidsという商品にだけ当該特許番号が記載されていました。

 両商品に共通する仕様は以下の通りです。

①天板の下の脚は、一方が普通の脚、他方が固定式のサイドチェスト
②固定式サイドチェストには補助天板がついている
③補助天板を使って2サイズに変形可能
④天板に上置き本立て(ブックエンド)がついている

 特許公報を読む前から、何となく③のあたりに特許のにおいがするなぁと思って、いつものようにJ-PlatPatを用いて特許を調べました。その調べた特許公報はこちらから見ることができます↓

 

2.発明の概要

 まずは、①発明の課題、②課題の解決手段、③発明の効果、という技術を発明に変換する3点セットから確認していきましょう。

①発明の課題

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来のデスクにおいては、脚部材の一方の側部を天板の側部より外側に突出するように配置することにより、天板の左右方向のスペースを拡げることができる。しかし、脚部材を、天板の下部に、その幅方向に移動可能なように取付けているため、脚部材の上面の高さが、天板の裏面の高さよりも低く設定されている。そのため、脚部材を左右方向に移動させてスペースを拡げた場合に、天板の上面と脚部材の上面との間に段差が生じるため、段差部においては書き物等がし難いため、拡がったスペースを有効に活用し難いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、天板の幅方向のスペースを拡げた場合に、その拡げた部分の上面と天板の上面とが略同一面にできるデスクを提供することを目的とするものである。

 やはり思った通り、天板の幅方向を広げるタイプのデスクの発明でした。発明の課題もこのタイプだから発生する課題について言及していました。

②課題の解決手段

【0007】
前記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、天板と、付属パネルと、複数の脚部材を有するデスクであって、
前記一の脚部材は、その左右方向の両側部が、天板の左右方向の側部から突出しないように、及び、一の脚部材における一方の側部が、天板の左右方向の側部から外側に突出するように天板に対して取外し可能に固定することができ、
前記付属パネルは板状部材を有し、
前記一の脚部材を、その左右方向の一方の側部が天板の側部から外側に突出するように、前記天板に取付けた状態において、前記付属パネルを、その板状部材の一方の面が、天板の上面と略同一面となるように、前記一の脚部材の上部に取付けることができることを特徴とするデスクである。
【0008】
請求項2記載の発明は、天板と、付属パネルと、複数の脚部材を有するデスクであって、
前記一の脚部材は、その左右方向の両側部が、天板の左右方向の側部から突出しないように、及び、一の脚部材における一方の側部が、天板の左右方向の側部から外側に突出するように天板に対して取外し可能に固定することができ、
前記付属パネルは板状部材を有し、
前記付属パネルは、その板状部材が起立した状態で、前記天板の後部に、及び/又は、前記天板の側部に取付けて使用することができるとともに、
前記一の脚部材を、その左右方向の一方の側部が天板の側部から外側に突出するように、前記天板に取付けた状態において、前記付属パネルを、その板状部材の一方の面が、天板の上面と略同一面となるように、前記一の脚部材の上部に取付けることもできることを特徴とするデスクである。
【0009】
請求項3記載の発明は、天板と、第1付属パネルと第2付属パネルと、第1脚部材と第2脚部材を有するデスクであって、
前記第1脚部材は、その左右方向の両側部が、天板の左右方向の側部から突出しないように、及び、第1脚部材の一方の側部が、天板の左右方向の側部から外側に突出するように天板に対して取外し可能に固定することができ、
前記第1付属パネル及び第2付属パネルは、夫々板状部材を有し、
前記第1付属パネルは、その板状部材が起立した状態で、前記デスクの後部、及び/又は、前記デスクの側部に取付けて使用することができるとともに、
前記第1脚部材を、その一方の側部が天板の側部から外側に突出するように取付けた状態において、前記第1付属パネルを、その板状部材の一方の面が、前記天板の上面と略同一面となるように、前記第1脚部材の上部に取付けることができ、
前記第2付属パネルは、その板状部材が起立した状態で、前記デスクの後部に取付け、及び/又は、前記デスクの側部に取付け、及び/又は、前記第1付属パネルの上部に載置して使用することができるとともに、
前記第2付属パネルを、その板状部材の一方の面が、前記天板の上面と略同一面となるように、前記天板の側部に取付けることができることを特徴とするデスクである。

 なんど独立クレームが3つもある特許でした。各クレームの構成に共通していることは、以下のことです。

①一の脚部材は天板の下に固定可能であり、かつ取り外して天板の外側に配置可能。
②付属パネルを一の脚部材の上部につけると、天板と同じ高さにできること

 CL2およびCL3はCL1の従属とすることも可能だったような気もしますが、CL2では付属パネルが天板の後部や側部におけることを規定し、CL3は付属パネルが2つある形態を規定しています。

③発明の効果

【0011】
これにより、必要に応じ、作業スペースを拡げることができ、また、拡がった作業スペースの上面が、天板の上面と略同一面となるため、拡がった作業スペースと天板との間に段差が生じず、拡がった作業スペースを有効に活用できる。

 最後は発明の効果です。きちんと課題の裏返しになっています。教科書通りの明細書と言えますね。

3.審査の過程

 次は審査の過程です。これは経過情報というところをクリックすることにより閲覧することが可能です。

2009/11/10 出願
2012/9/3 審査請求
2013/7/16 特許査定

 見事に一発登録です。メーカー知財の皆さんであれば、どこまでこの特許を広げることができたのだろう?とりあえず分割出願しとくか?なんて思ってしまうと思いますが、この発明はこれでクローズしています。

 カリモクさんはJ-PlatPatで検索すると、2000年以降の特許出願は23件。外国出願している件もほとんどありません。一方、意匠登録は54件と特許よりも多いです。本特許と同じ図面が、意匠登録1400680号、1400976号にもありました。この業界は機能で勝負するのではなく、デザインで勝負するのだな、ということがよくわかりますね。

4.私ならクレームはこうする

 では次にクレームです。実は今回の明細書は図面も37個あるし、構造物の明細書としては充実した記載だなぁという印象を受けました。発明のポイントさえ決めてしまえば、身近にあるものですし、図面も充実しているし、明細書は書きやすかったんじゃないかな?と思います。ということでクレームもいちゃもんを付けるほどではないのですが、コメントしていきます。

【請求項1】
天板と、付属パネルと、複数の脚部材を有するデスクであって、
前記一の脚部材は、その左右方向の両側部が、天板の左右方向の側部から突出しないように、及び、一の脚部材における一方の側部が、天板の左右方向の側部から外側に突出するように天板に対して取外し可能に固定することができ、
前記付属パネルは板状部材を有し、
前記一の脚部材を、その左右方向の一方の側部が天板の側部から外側に突出するように、前記天板に取付けた状態において、前記付属パネルを、その板状部材の一方の面が、天板の上面と略同一面となるように、前記一の脚部材の上部に取付けることができることを特徴とするデスク。

 まず、このクレームの上手いところ。

「天板と、付属パネルと、複数の脚部材を有するデスク」という書き出しがよいです。後段で天板と脚部材の位置関係は規定していますが、付属パネルはどこにあってもよいことになってます。天板に取り付け可能であれば、どこについていても、ついていなくてもよいのです。構造物のクレームを作るときの原則は、互いの部材の位置関係を規定することなのですが、「有する」とする書き出しは良いと思いました。

 気になったのは「前記一の脚部材」ですね。これは複数の脚部材の1つなのか、少なくとも1つなのか一義的に解釈できないような気がします。むしろ1つに限定解釈され、2つなら回避と解釈できる方が妥当に思えます。私なら「前記複数の脚部材の少なくとも1つは」と書くと思います。

 また後段に出てくる「略同一面」もクレームとしては入れたくない表現です。略はあいまいですからね。ただ今回は課題のところで言ってしまっているので、入れざるを得なかったのでしょう。特許なので、同一面にそろうことを美感という効果にするのも微妙ですし、作業性をよくするという機能を効果としていますからね。。これは自分でもどう置き換えるかは結論が出ません。

5.年金不納により権利は抹消済だが

 この特許ですが、登録から6年経った2019年8月9日に年金不能により権利は抹消していました。この特許はどのくらい有効だったのでしょうか?

 ちなみに某店舗でカリモク社の他製品、他社の製品を見ると、幅を変えられるサイズのデスクは、4本脚のデスクに、キャスター付きの可動式サイドチェストが付属していて、その可動式サイドチェストを天板の外に配置して付属パネルで天板と高さを合わせるというものがほとんどでした。

 明細のサポートを度外視してクレームだけ見ると、可動式サイドチェストを脚部材に当てはめる一見、各社ともこの特許を踏んでいるように感じたんですよね。脚部材と天板は平面視したときの位置関係の規定はあるものの、接していても接していなくても良いように解釈可能だと思います。違いますかね?

 もしこの特許の出願時に、現在主流となっているタイプのデスクが発売されていなくて、「複数の脚部材にはキャスターを付けても良い」なんてサポートがあったら、各社この特許に高額のお金を払ったのではないかな?なんて思いました。

 

 家族と勉強机を見に行きながら、こんなことをずーっと考えておりました。職業病です。

 この職業病シリーズはもっと続けていきたいと思っていますので、また次回をお楽しみにしていてください。本日は最後まで読んでいただきありがとうございました。

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