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『オラ!メヒコ』

たとえどこにでも自由に移動できる立場にあったとしても、この国から出ることはないだろうと思う一番の理由は、治安の良さだと思ってきました。
逆に言うと、日本よりも治安の悪い外国が多すぎる、と。
何よりも身の安全が第一なのだから…。

「わかるよ、
うちの親父も酒乱で七歳の僕をけりまわすんだ。
子どもの頃はおやじを殺すことだけを夢想してた」

「……本当は恐いの。
だって、子どもの頃にもどったら酒乱の父におびえているあたしがいるかもしれない」

「アミーゴ、すべての出会いが魂の家族だ」

酒乱の身内はいなかったけど酒席なんぞ大っ嫌い、違法だろうが合法だろうが至福体験ができるらしい薬物にも興味ゼロ。
の、私が何故か大麻くらいはいいじゃん、と思うのは、単に合法である煙草や飲酒と比較し合理的に考えてのことでした。
それにまあ…歳を重ねて、一般的に常識とされ説かれる道徳や倫理の理屈が胡散臭く感じることが増えるばかりなんです。
「人は物事をありのままに見ることができない」
と、言ったのは誰だっけ?
たぶん何人もの偉人たちが言ってるはずです。
むしろ、ありのままに見ないことで(都合良く解釈することで)人間社会は保たれるもの、なのでしょうか??
都合良くって、誰にとって?
支配者層?だけとは限らないのかもしれません…。

さて、この本の著者二人がメキシコを旅した動機は、もちろん魅力あふれる土地柄に引き寄せられてなのですが、メインはマジックマッシュルームによる神秘体験でした。
シャーマンの手引きによるセッションは安全が保たれているとはいえ、自力では向き合えない潜在意識との対峙です。
ある意味、リアリティを感じました。
催眠状態などではなく、逆に意識は明晰で覚醒しているのですから。
普段よりも拡張した意識状態になれることで、無意識の奥に封印していた自分と出会うのです。

この現実、日常だって、へんてこりんな夢の世界とそう変わらない…と常日頃思っています。
読んでいるうちに、私まで無意識の奥に封印していた自分の一面と出会ってしまいました。
それは、亡き母に対して、用があるときにしか連絡を取り合うことのない姉に対して、私はまだ恨みのような感情を抱いている、ということです。
消えてなかった…って、本当は薄々気が付いていたけど目を背けてたんだと思います。
最も心乱れる日々を送っていた時期から十年近い時が流れており、情けなくて自分を責める思いがそうさせていたのでしょう。

当時の私には、母に対しては甘えも含まれていた恨みがあったと思いますが、姉に対しては恐怖心があり居なくなってくれればいいのにという悪意が生まれてしまっていたのです。
さすがに罪悪感が伴い、苦しくて必死で考え、湧き上がる感情は手に負えないと諦めて「どちらかが死ぬときは許すから」と、必ず訪れる将来に託すことにしたのでした。
これって、「死ぬまで許さない!」の言い換えでもあるなあ…とか、常套句である「死んでも許さない!」だけは絶対ダメだ…とか考えたことを覚えています。

やがて、一年単位で状況が緩やかに変化していき、私の心も思った以上に楽になっていきました。
と、今だから言えるだけで、プロセスの最中では心身ともに疲弊していたのですが。
とりあえず数年前から、「あれ?どちらかが死ぬまででなくても、もう許せてるような?」とまで感じることがあるのです。
が・・・違うのかなあ?
と、しばし考えて、感じて…

たぶん、私は恨み?嫌悪感?などのネガティブな感情がすべて消えることが許しだと思い込んでたようだ!

そういう感情のエネルギーは不快なものだから消えてほしいし…
そっか、別に感情のエネルギーが残ってたって問題を起こさなければいいんじゃない?
子どもの頃からずっと、母とも姉とも気が合わないことをあまり考えないで付き合ってきたっけ。
親の介助が必要になってから、その事実と向き合わざるを得なくなって…二重のしんどさを感じてた…長かった~!

私はマジックマッシュルームで神秘体験をしたいとは思わない。
それが答えなのだと思います。
嫌悪感などの感情エネルギーは勝手に湧いてくるもの。
過去のものがあったとしても、それもまた仕方がないこと。
(そっか…。)と、自然に任せよう。
著者二人にはメキシコへの旅が必要でした。
助けを借りて号泣することによって流さなければならないほどの感情エネルギーがあったということです。

「メキシコ人て、なんで自殺しないのかなあ」

どちらも儀式ではあるけれど、
メキシコの「死者の日」は、けばけばしいほどに明るく陽気なお祭りで、
日本の「お盆」はそれなりに厳粛なもの。
ふと、閃いてしまいました。

「治安の良さ」を誇る日本の、世界一とも言われる「自殺率の高さ」。
日本人より陽気に自然体で生きることができるメキシコ社会の治安の悪さ。
実際、ランディさんたちが旅した2003年より、メキシコは治安が悪くなっているようです。
これ…どっちがいいとか言えません。
日本にいると、当然のように「日本!」と言いたくなるけれど。
ただ、私はこの国で生きていくしかない、それだけです。


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