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脱サラ船酔い漁師が勝ち気だった新卒社員だった頃の話

前回の記事に思いのほか反響をいただき、驚いております。読んでくださった皆さん、フォローしてくださったみなさん、ありがとうございます。

新生活の時期になりましたね。新しい環境での生活はいかがでしょうか。投稿2回目のnoteは、私が漁師になる前のお話、住宅メーカーに新卒で入った頃を振り返ろうと思います。

実は数年前にご縁があって出版のオファーがあり、書きためていた原稿があるのです。ただ、出版自体はタイミングが合わず、原稿はお蔵入りに。原稿は数万字に及び、一度に全て公開するのは読みづらいと思いますので、少しずつリライトして公開していきたいと思っています。月に1回程度は更新できればと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

今回は新入社員時代のお話を書きながら、当時のことを振り返りつつ、この春に新社会人になった皆さんと当時、一生懸命にもがいていた自分自身にも改めてエールを送りたいと思います。

「ふざけんじゃねぇ!」

声を荒げるのをグッとこらえ、ただ黙って正拳突きで壁に穴をあけた。普段、生活感の全く感じられない住宅展示場が、少しだけ生活感漂う空間になった瞬間だった。

壁に穴をあけたのは、ピカピカの真新しいス―ツがまだ馴染まない新入社員。彼は何事もなかったように自分の机に戻り、仕事を続けた。展示場の中にある事務所部屋は凍りついていた。

先輩社員たちも何が起こったか訳がわからず、見て見ないフリ。この破天荒で生意気な新入社員が、漁師になる前のサラリーマン時代の僕、弁慶丸の河西信明。(若かりし頃の回想録なので、僕という表記で書いていきます)

僕の怒りの原因は、お客様の横取りだ。この店は、新入社員を3年連続1年以内で辞めさせている悪名高い店だ。なおかつ全国一位に度々名を連ねる実力店でもあった。新入社員の配属先発表の際、営業所長より「君は体育会系で根性がありそうだから、前期の全国一位の店に配属したよッ♪、期待しているよッ♪」と肩を叩かれた。

この調子のいい、何だか軽いノリの胡散臭い所長を、僕は最初から信じていなかった。

新人の配属先としては、期待の言葉とは裏腹な劣悪な環境に3カ月辛抱した揚句の果ての行動だった。この店は、新入社員を育てる気なんてまるでなく、ただ自分たちの数字のためだけに、新入社員を「鵜飼の鵜」として利用し、契約数を伸ばしていたのだ。

展示場の壁に穴をあけた翌日から僕は住宅展示場に出社しなくなった。世間でよく言われる「出社拒否」ではない。営業活動はひとりになってもさぼる事なく続けていた。展示場に出社しないという事は顧客名簿がもらえないという事を意味する。この店に媚びへつらってまで顧客名簿を欲しいとは思わなかった。

僕はゼロから顧客を見つける覚悟で、火の付いたように飛び込み営業を繰り返していた。「鵜飼使い達」に契約書を叩きつけて辞めてやると決めていたから。ただその一瞬の自己満足の愚かな行為の為だけに燃えていた。季節は真夏の炎天下、折れそうになる心を奮い立たせて、「逃げたらアカン!」を呪文のように唱えていた。

店のメンバー全員を敵に回したような状況の中、ひとりだけ僕を陰から応援してくれる先輩が現れる。「これ、お前の分の名簿」と2週間分の分厚い顧客名簿を手渡してくれた。

「お前があけた壁の穴はカレンダーでとりあえずふさいどいた」。優しさと愛情に飢えていた僕は、泣きそうになるのを我慢して下を向いたまま何度もお礼を言った。この名簿のおかげで、お客さまを少しずつ見つけられるようになっていった。

持ち前の勢いだけでお客さまの懐に入り、競合の一社としてようやく土台に入り込めるようになったものの、肝心の間取り提案や資金提案がまるで的を得ていない。勢いだけではお客さまの信頼を得る事が出来ず、他社ハウスメーカーに契約を奪われる日々だけが過ぎていく。

挙句の果てには「普通の会社は、新入社員に上司や店長が同行するよね?」とお客様から言われる始末。まさか「ここしばらく店長の顔も見ていないです」なんて言える訳もなく、記念すべき契約第1棟目ははるか彼方だった。

脱サラ船酔い漁師の学び
捨てる神あれば、拾う神あり。文句を言わず、一生懸命に頑張っている人だけに、幸運の女神は舞い降りる。人間は頑張っている人を応援したい生き物なのだ。充分に流し切った汗や涙はあなたを裏切らない。あなたの努力は必ず報われる。王貞治氏の言葉を借りれば、仮に「報われない努力があるとすれば、それはまだ努力とは呼べない」。「あいつ滅茶苦茶、頑張ってるな~」と思われるぐらいの努力でないと人の心は動かせない。

配属わずか3か月での人事異動

この超不良新入社員のド派手な行動は、会社中に広まっていたらしい。営業所長の呼び出しにも応じないし、営業会議すら出席しない新入社員。とうとう営業所長につかまり、話し合いになった。僕はてっきり首になるだろうと覚悟を決めていた。

心残りは、「鵜飼使い達」に契約書を叩きつける事が出来なくなる事だった。僕は、静まり返った会議室で静かに目を閉じて、死刑宣告を待っていた。が、しかし突然の人事異動が発令。異動が決まった。配属わずか3か月での人事異動は異例だ。

「次の店長は厳しいが、義理人情に厚い男や。もまれてこ~いッ♪」

相変わらずの軽いノリがなんだか妙に感に障る。この人ホンマに一番偉い営業所長なんだろうか?という疑問が浮かんでは消える。いきなり「良かったな」的なドヤ顔で言われても、こちらはこちらで契約1棟取って辞めてやる覚悟で、もう後には引けない。

河西「そもそも営業所長であるあなたが最初に決めた人事でしょう?」
所長「君は体育会系で根性がありそうだから、前々期の全国一位の店に配属    し直しや、期待しているからねッ♪」
河西「もうそのセリフにはひっかかりません」
所長「まぁ~、そういうなやぁ~。だから君の気持ちを酌んで、ワシも新しく引き受けてくれる店長に頭を下げたんや!」
河西「そんな配慮今さらもう必要ありません。お断りさせて頂きます」

昔から頑固一徹で通っている僕の固すぎる頭の中には、その優しい言葉や配慮が入ってこない。入社5カ月、配属わずか3か月で人事異動なんてカッコ悪い事極まりない。「鵜飼使い達」から僕が逃げ去るようで納得がいかなかった。

異例の人事異動が通達されても頑として動く事はなく、地道な飛び込み営業を続けていた。

ある日、営業所に立ち寄ったタイミングで電話が鳴った。というよりは、確実に狙い撃ちにされた。同期の事務の女の子が、申し訳なさそうに両手を合わせて、僕に合図を送っていた。

「俺がどんな思いで所長からお前を引き受けたかわかってんのか!今すぐ俺の所に顔出しに来い!」

異動先の新店長からの電話だった。電話を切った後も、耳が痛いぐらいの怒号。

「お前らが勝手に決めた人事で何言うてんねん」。そんな思いで新店長がいる展示場に向かった。

新店長のGさん、第一印象は非常に悪かった。入社後、第一回目の営業会議で初めて挨拶を交わした。

「新入社員の河西です。よろしくお願いいたします」と言うと、Gさんは「お前デカイの~、いつでもやったんぞ~」とファイティングポーズをとられた人物だ。

184センチあるガタイのいい僕を革靴の先から舐め上がるように睨みを付けられた。関西圏で言う所の「メンチをきられた」のは高校生以来、まさか社会人になって体験するとは、予想だにしていなかった。

元来、ケンカ早い気性もあり、いきなり心の中に火がつきそうになるのを大人の対応で必死に堪え、作り笑いを浮かべた。

だけど僕の目の奥に宿る静かな炎をGさんは見逃さなかった。

「お前、ええ根性しとるの~。まぁ~頑張れよ!」と、エールというか宣誓布告をされた気分だった。

住宅メーカーのキリッとした営業マンというよりは、いかつい街の不動産屋のイメージがピッタリだ。

「任侠映画に出てくるような営業マンがホンマにいるんや」「自分の配属先の店長でなくて本当に良かったなぁ」と新入社員の間でも話題になるぐらいのインパクトがあった。

Gさんの取り仕切る店は「G組」と呼ばれ、僕の配属予定の店といつも全国一位を競い合っているとのことだった。

「鵜飼使い店長」の次は「任侠店長」かよ。一体この会社はどうなってんねん!
「こうなったら次の店の壁にも大きな穴開けたる」と勢い勇んで展示場に向かった。
 
展示場につくといきなり「任侠店長」が玄関で仁王立ち。初対面の時よりはるかに鋭い眼光が突き刺さる。やるかやられるかという緊迫ムードの中、話し合いが始まった。約3時間にも及ぶ話し合いの結果、僕はすっかり「G組」の一員に染められ始めていた。「とりあえず、お前の気のすむように、記念すべき第1棟目とろうや!話はそれからや!」と言う事になった。

こんな失礼極まりないやり取りをしていたが、Gさんはその後の僕の人生に多大な影響を与える人になる。人生とはわからないものだ。

脱サラ船酔い漁師の学び 
成功者は受け取り上手、おねだり上手。下手なこだわりや頑なさは成功を遠ざける。世の中、えこひいきされる人を悪く言う風潮があるが、それはえこいひきされたい人達の妬みに過ぎない。この世の中は、甘えた者勝ちだ。ただ僕を含め日本人は甘えたり、受け取る事が苦手な人が多いように思う。まずは意地を張る事を止め、誰にも譲らずに素直にただ受け取ればいい。それは、あなただから受け取ってほしいと特別に戴いた「ご褒美(スペシャル・オファー」なのだから。

営業としてようやく頭角を現した26歳頃の写真です

いかがでしたか。今振り返ってみても、めちゃくちゃな新入社員ですよね。時代が時代だったので、時代が時代だったので、ちょっと気性の荒い人たちの方が営業として活躍したりしていて。でも、その方々との出会いは財産になりました。

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みんな目がキラキラ輝いて、初々しさが伝わってきます。

株式会社弁慶丸のスタッフとして働いてくれていた学生アルバイトさん達もこの春、巣立っていきました。それぞれの道をそれぞれの志を持って焦らずに一歩一歩、歩んでほしいと思います。

厚生労働省のデータによると、中卒は7割弱、高卒は4割強、大卒が3割強で3年以内に仕事を辞めているとの事。希望していない職種や部署に配属されたとしても、決して腐らずに、しっかりとした自分自身の根(基礎)をまずは育てるイメージで踏ん張って下さい。数年後には、それぞれの個性的な花が咲く事を願っています。逃げたらアカン!!の心意気で!

それにしても、島根県は「農業」推しで、鳥取県は、てっきり「漁業」推しかと思ったら、「自転車」推しかよ!

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