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#45 返信がこなかったメール

こんにちは。id_butterです。

人生で最高に不幸な時に恋に落ちた話 の45話目です。
時期的には#39#40くらいのあたりです。

進もうとすると後ろから、登ろうとすると下から引っ張られるような感覚を覚えることってありませんか。
地震の揺り返しみたいな、マッサージの好転反応みたいな、スピ的にはお試しっていうことになるのかもしれません。

そのせいか、昨日から涙が止まらなくなった、また笑
以前のことを思い出したのだ。終わったことなのに。
つらいその瞬間って、泣けなかったりしませんか。わたしは、する。終わった後に、重さとか湿度とかをともなって押し寄せてくる。
せっかくなのでネタにしてやる〜、ということで鼻をずるずる言わせながらPCに向かうことにした。
喪の作業、ってやつです。
ちょっとお時間のある優しい方はおつきあいくださいまし。

水面下では異動自体は決定していて、人事がわたしの異動先を探してくれているときのこと。宙ぶらりん状態のわたしは、にも書いた通り、セフレ or 愛人気分で仕事をしていた。(一応ここにも書いておくと、致してない。)

異動先が決まらないまま、次の目標設定をする時期にさしかかっていたそのとき、わたしは芯から冷えていた。「無」が近い。
とにかく純粋に仕事だけをバリバリしたかった。「誰かのために」とか「みんなのために」とか「未来のために」とかそういうの一切なしに、とにかく目の前にある仕事を少しでも多くこなしたかった。
何も考えずに、何も感じずに、はやく今を通り過ぎたい。

彼にはそんな自分を知られたくなかったから、普通にしていた。
けれど、目標設定でいろいろなことが隠しきれなくなった。
彼から来たメールには、

自分が期待されている部分をちゃんと把握して、今できる範囲でこの半年何をするのかという所を自分なりに考えて目標を立てて欲しい。
設定された目標から、その「思い」が伝わってこない。
誰の目標でもなく、自分の目標。
自分がこの半年何を求められて、何をしていくのかという所を意識しながら仕事するのと、自分の状況では何も自由にできないというスタンスで仕事するのでは、成果としては変わらないけれど、満足度やクオリティーオブライフの面で変わる。
上司である自分はあなたの鏡なのだから、気を遣う必要なんてない。

というようなことが、熱めの温度をもって書かれていた。

わたしは、目標設定に「思い」なんてのせる気はさらさらなかった。
シンプルにやることだけを、だけど前期よりかなり高めのレベルで目標設定のExcelを書く。一連のゴタゴタで、彼以外の上司たちに求められていることを理解した上で、だ。わたしは彼らに期待されている部分を正確に把握し、それだけを書いた。当然、わたしらしさなんてそこにはカケラもない。わたしらしさなんて出したくなかったのだ、誰かの都合でどうとでも使われる書類に、痕跡を残したくない。
だけど、彼は「わたしらしい」目標をオプションで求めてくる。
わたしの状況をわかっていたのかいなかったのかは知らないけれど、彼は常にそういうひとだった。
彼だけが、わたしに期待している。してくれる。当のわたしよりも。
いつもだったら嬉しい、けどそのときのわたしには酷なことだった。

ほんとうにいい上司だなぁ、きみは。

めげない彼に少し呆れつつも、あらためて感動していた。
彼の仕事に、真摯な姿勢に、まっすぐな考え方に、純粋な愛情に、全部にいつもやられる。
だけど、今回は、片側で本音が噴き上がって止まらなくなった。
たぶん怒っていた。
「何も知らないくせに」
当然だ、だってわたしは何も言わなかったのだから。
彼から離れたい症候群がはじまったのは、たぶんこのときくらいからだったと思う。

怒りにまかせて長文のメッセージを送った。

「自分の状況では何も自由にできないというスタンスで仕事する」というようなつもりはない。いる間は部門に貢献しようと、この前も提案をあげた。
けれどいつ異動するかわからない、そもそも今ここにいることすら許されてない状況で、今ではない未来に向けての目標設定はできない。ここに残る人とは自分は異なる。自分は常に今しか約束ができない。
もし「思い」のようなものがあったとして、今目標設定に反映する必要性を感じない。未来に向けての思いの込めた目標を設定したとして、異動したらほうり出すことになり、Kさんに迷惑をかける。そもそもあなたはそんなにわたしとの仕事だけに時間を割けるのか?そうは見えない。(彼には愛人との仕事だけでなく、本妻※比喩ですよとの仕事がたんまりあった。)
わたしは、俯瞰で見て自分が部署にいらない人間だなと思ったから異動を決めた。そして、異動を決めた以上、わたしは現在部署にとって透明人間みたいなもので、もう過去の人間。それにあなただけが気づいていないのでは?
この話はそもそももうすでに終わった話で、わたしにとってはもう過去だ。
目標はこういった状況に即して書かれたものだ。

というようなことをもうちょっと優しめに書いた。
優しめに書いたところで、という内容ではある。
もう一つ、

「上司である自分はあなたの鏡なのだから、気を遣う必要なんてない。」
とあるけれど、あなたが傷つかないひとだと思ってない。
あなたが思っているより、わたしは気づく。あなたが、わたしの状態に気づいてしまうのと同じように。
何に怒るのか何に傷つくのか、言ってくれたらそれに気をつけるけれど、自分からは何も言わない。だから、こっちは何も言えなくなる。

これは、わざと男性のプライドが傷つくように意識して書いたなと後から思う。こういうときのわたしは性格がほんとうにわるい。的確に人にダメージを与える能力を持っていると自負している。
だけど、この行動は甘えているとも言える、そしてそれが甘えだと理解できる人はほぼいないだろう。
こうして、黒歴史を日々更新している。後からしかわからないから、不本意にも更新を余儀無くされる。

とまぁこんな風に、わたしは彼を容赦なしに拒絶した。
ほっておいて、というわたしのメッセージは伝わったのだろう、このメールに返信はなかった。
彼は自分が傷ついたから返信しなかったのではないと思う。わたしにかける言葉がなかったのだ、たぶん。何をいってもわたしが傷つくから。
目標設定を少し直して提出すると、「見ます」というシンプルな返信がきて、本妻との仕事に徐々にシフトしていった。

あのとき彼はどういう気持ちだったんだろう。
今になって、申し訳ないことをしたなと思う。

彼を傷つけた実感があった。
異動すると伝えてから、ずっと彼はいっていた。
MTGでこういうのももう終わりだね、と言えば、まだ異動も決まってないんだから仲良くやろうよ、とか、ちゃんと仕事してもらうからね、とか。
異動したら接点もないしね、と言えば、異動したって同じ会社なんだし、とか。
でもその度に、わたしは気持ちを引き離して、彼の好意を拒絶してきた。

わたしが何も彼に言わなかったのは、彼にもうこれ以上わたしの跡を残したくなかったからだ。
その職場に残る彼に、わたしの考える何かや誰かについて話したとして、それはもうただの重荷になる。わたしのフィルターなんて、これからの彼に必要ないのだから、それを話すことはわたしがすっきりするという意味しかもたない。
今まで話した時間ですら、彼を「消費」してしまってなかったかという罪悪感みたいな後味でモヤモヤする。
言うこと話すことで、彼を自分の気持ちのゴミ箱みたいに「使って」なかったか。

いたたまれなかった。
彼の前から逃げたい。
早く立ち去りたい。
恥ずかしい。
黒歴史を更新していたことに、気づいたとき。

わたしは、いつも彼を頼ってしまう。
なんでも話してしまう。思ったこととか、全部。
でもそれで彼が傷ついたら、そのとき彼は誰を頼るのかな。
その場にいあわせるには、わたしは役者不足なのだ。

そう思うと、悲しくてたまらなくなる、いつも。
なんでひとを傷つけるような状態でしか本音が出せないの。
わたしの本音はいつも奥の方にあって、通常モードでは出せないのだった。

彼はいつもそれを出してしまう?出してくれる?ひとなのだった。
彼としかこんな話をしないから、彼はいつも貧乏くじを引く。
噴火の瞬間に立ち会う。
ほんとうにいやだ。
そういったことに気づいて、気づいたら逃げたくなったのだ。

わたしが彼に返せるものは少ない。
せめて、どこまでもきれいになりたい。
日々、自分の中を濁らせないように生きている。
もらったものをわたしの中でコトコト煮込んで、フィルターで濾して、一番きれいな気持ちを彼に返したい。
それが今のねがい。

そんなことを思う今日この頃。
本音を言えばもうちょっと、彼と仕事したかった。
もっと、彼の尊い仕事をそばで見ていたかった。
彼のそばのきれいな空気を吸って、時間を過ごしたかった。


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