野良猫のあの子みたいに②
こんばんは。id_butterです。
猫の話の続きです。
クロは頭の回転が早く野性的で、きちんと野良猫として生きていた。
ケンカをしているところに何度か居合わせたことがある。
有利な場所を位置どり、油断もなく、隙を見て容赦無く相手を追い込んだ。鮮やかで見惚れた。
もう、最高にかっこよかった。
わたしが今まで出会った男の中で間違いなく一番かっこいいのはクロだ。
そして、平穏な生活に転機が訪れた。
チビに子どもができたのだ。
お腹が大きくなったことには気づいていたけれど、チビの気はたっていてつかまえられない。
つかまえて引っ越そうと計画していた。
それにはクロもつかまえないといけなかったけど、クロにいたってはそんな隙を見せてくれるはずもなかった。
それに、わたしの覚悟が決めきれていなかった。
彼らは野良猫としてとても幸せそうで、その自由を奪ってよいのかがわからなかった。人間の都合を押し付けるのは憚られた。
そうこうしているうちに、産まれてしまった。
産んだのはマンションの軒下だった。
「なんかちょうだい。」
チビがそんな顔でわたしを見上げる。
よくわからず牛乳でびしょびしょのパンを渡すと、軒下に運んでいくので目で追った。
近づける範囲では全然子猫が見えない。
だけど、子猫たちはすぐに大きくなった。
3匹の子猫が元気そうに遊んでいる姿が見えるようになっていた。
つかまえられるのでは?
今からでも保護して、引っ越せるかもしれない。
ペット可の物件と、赤ちゃんの貰い先を探しながら、少しずつチビの住処に近づいていった。
軒下にはフェンスのようなものがあって、人間は入れない。
赤ちゃんたちが遊んでいるときにつかまえられないかな、と考えていた。
そんなある日。
半狂乱になったチビがわたしのところに走ってきた。
見たこともないような全速力で、部屋に駆け込んでくる。
「ウニャア、ウニャア、ウギュ、ウ、ウ」
よくわからないけど、必死だった。
どうしたんだろう。
「どうしたの」撫でようとして、気づいた。
お腹というか胸がパンパンだった。
少し手が触れただけでも痛いみたいで、「ギャ」とうめく。
子猫がおっぱいを飲まないから、張っているのだ。
わたしの赤ちゃん知らない?
そう言っているのだとわかった。
チビはいなくなった子猫たちを必死で探しているらしい。
部屋の中を見せてあげた。
お風呂も、トイレも、押し入れも、戸棚も。
「チビ、ごめんね。ここにはいないんだ。」
泣きそうになりながら、チビに部屋を案内する。
チビがまた話しかけてくる。
「いないの、いないの」って言っているのが今度ははっきりわかった。
その日から、チビの子猫たちを見なくなった。
そして、クロも晩酌に姿を見せなくなった。
縄張りの問題だったのかもしれない、クロが連れていったのだと思った。
それからの一週間、チビは気が狂ったようにずっと子猫たちを探していて、見るたびにつらかった。
なんども部屋を見せた。
そして、ようやくおっぱいの張りがなくなった頃、チビはあきらめた。
部屋に来るチビに栄養のあるものを用意して待つ。
あとは少しでも早く元気になりますように、と祈るくらいしかできなかった。
その間も、彼女は日課であるわたしたちとの晩酌を続けていた。
回復した彼女に、声をかけた。
「うちの子になる?」
その1ヶ月後くらいだろうか。
遠くからものすごい勢いで走ってくる猫がいた。
「ミャ〜ウ〜」
その子はうれし泣きするみたいに鳴いて、チビの周りをくるくる回る。
そして、チビに甘えているようだった。
チビにスリスリして、チビがビクッとする。
チビはびっくりしながら、なんかおかしい、みたいな感じで戸惑っていた。
猫も首をかしげるんだよな。
たぶん、チビの子だった。
すっかり大きくなっていたけど、見覚えがある柄だった。
クロのところから戻ってきたのかもしれない。
もうチビの三分の二くらいの大きさになっていたから、じゃれつかれてチビが困るのもよくわかる。
なんだか、おかしかった。
それから、また夜の晩酌は2匹であらわれるようになった。
一旦いなくなって現れた子猫は「ギー」になった。
チビに甘えるとき「ギーギー」と変な声で鳴く。
ギーは男の子だったので、すぐに小柄なチビより大きくなった。
でも、いつまでも甘えん坊でチビにぐりぐりして、チビはよろよろしていつも倒れそうになっていた。
大きくなっても、ギーは甘えるのをやめなかった。
チビも子離れできなかった。
たぶん、突き離せなかったのだろう。
そして、そのあともう一度チビは子供を産んだ。
今度こそ、その子達を連れて出ることにした。
というか、出るしかなくなった。
ということで続きはまた今度。
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