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【読書感想文】『はだしのダリエ』ザハリア・スタンク

2014年8月に個人サイトで書いた感想文をサルベージしたものです

胃がなんだかぐるぐるときもちわるいです。
やだ…繊細だからストレスで…っ?!(昨晩夜更かしして本を読んでいたせいですよね?)(はい…)

というわけで、古本市的なところでもらってきた気がするけれど詳細な記憶もなく出自も不明な「現代東欧文学全集」<9>より、ルーマニアの国民的小説 『はだしのダリエ』 を読み終わりました。
すごく良かったです。
次々と馴染みない言語の名前が乱舞し、話はややとっちらかり気味です。
いきなり親戚の話になったりいきなり世間話になったりいきなり回想になったりしつつ、あまり統一感なく話が進む長編なので、翻訳系大河小説に馴染んでいる人以外には正直気軽におすすめです!とは言い辛いんですが……。

それでも、ダリエ少年からみた農村の悲惨、陽気さ、人として扱われない屈辱、地主への深い怒り、露に濡れた夜明けの畑、しんとした夜空――そんな淡々と送られる日々が現実感を持って手の上に積み重なり、しんと胸にしみる読書体験をさせてもらいました。
詩情あふれる短文を重ねて描かれる世界は、ダリエをとりまくルーマニアの貧しい農民たちのありのままの姿です。

例えば奉公先の女中のおばさんとダリエの会話です。

「マリツァおばさん、歌っているのかい?」
「そうさ、泣くよりいいだろう」

さくりと刺されたような感触があるさりげないことば。
なにか、作り物のように思えない切実さを持って記憶に残りました。

他にも

 伯母の話がつづくうちに、空が白みはじめた。まだ日は昇っていない。昨夜と同じ風が流れるように吹き渡り、アカシアや桑の木やポプラの梢をゆるがせている。雲の群れが風に追われて西へ西へと動いていく。鶏が土間で餌をつつきはじめた。
 村は目をさました。牛の鳴く声がする。井戸のつるべが、たえず上がったり下がったりしている。
 母さんは深い思いをこめてあたりを見まわした。この猫の額のような土地の上でアカシアの木々に囲まれて暮らすのだろうか。初めての夜をともにした男やこの垣根や、日の出前に、凍てついた大地をはだしでふみしめ、水汲みにやって来る女たちの間で、一生を過ごすのだろうか、一生を……。いつまで?誰も自分の生命の長さを予測することはできない。これが世の掟だ。大地に足を結びつけられたこの影を、どれだけ引きずって歩くのか、それを知ることはできない。


というくだりも深い詩情が感じられて素敵でした。
いいです。いいです……。

話の中に現れるおおきな出来事としては、1907年に起きた大規模な農民一揆とその後の激しい弾圧、第一次世界大戦に男たちが招集された後、兵士たちがやってきたことによる農民たちの生活の変化があります。

なお1907年のルーマニア農民一揆を扱った文学にはリビウ・レブリヤヌの『一揆』という作品もあるそうです。未読ですが。。(そこそこ大きな歴史的出来事だったのでしょうか?)

あまり馴染みのない物語形式で回り道しながら描かれてきた本作も、終盤にはようやく主人公・ダリエ本人の環境に変化があり、馴染みのある小説らしくなってきます。貧乏のせいだけではなく、思わぬ不幸で進学の道を断たれたダリエ少年が働きながら新天地を目指すまでが書かれ、この物語はいったん幕を閉じます。

しかし。
感想を検索しても、本の情報を検索しても、もう絶版らしくて全然見つからないのでなんというかこう、もどかしいです。
Amazonのリンクを張ろうにもあらすじすら書いてないとか…びっくりだよ!
今、日本でこの小説読んでなにやかや考えているのってもしかしたら私一人なのかもしれないなあと想像すると、満足感とと寂しさが入り混じったおかしな気持ちになりますね。この気持ち……高校生のころにハリポタ3巻原書を読んでしまった時の気持ちに似ている!!

令和に本作を読む方法

本屋での購入は絶望的ですが、『現代東欧文学全集』という形で出版されたものなので、公立図書館の書庫には今でも置いてあることがあります。
我が東北地方の図書館でも、各県、複数の館に所蔵があるようです。
お手軽に読むことのできないだけの疲労はあれども、満足な一冊でございました。朝四時まで読んで胃が気持ち悪くなるだけのことはありました。

余談*ルーマニア料理店「ダリエ」

調べたら、銀座には30年以上続いていた「ダリエ」というルーマニア料理レストランがあり、お店の名前はこの小説から取ったものだったそうです。ちなみにお店は表参道に移転したあと、2013年に閉店した模様。残念)

2014.08.30

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