第33話:お惣菜屋さん

朝9時集合といわれ

会議室に入ると

総菜屋の店長が

パイプ椅子に座って

煙草を吸っていた

目が合うと

店長会議は

アーケード側の都合で

突然中止になったと

おしえてくれた

総菜屋の店長ではあるけれど

頭に布を巻いていない

真っ白な長靴もはいていない

ここらへんも物騒になった

店を閉めて

駅のロータリーに

降りると

地べたに座って

歌っているひと

ずいぶん増えた

そうですね

缶ビールを片手に

ロータリーをうろうろしているひとが

結構、いますよね

煙草を抜き出す前に

箱の底をパチンと

指ではじくと

総菜屋の店長は

もしかして、吸う人?

といった

吸う人のように

煙草を一本もらった

花屋さん、そうそう

大変迷惑しているでしょう

総菜の匂いに

迷惑というか、おいしそうな匂い

しているなと

時々思ってます

それに比べて

花屋さんって

どうしてあんなに無臭、なんだろう

実際に花も草木も

匂っている

店に立っていると

モリの香りだって

なくもない

でもね、花屋さん

ずいぶん前

このアーケードは

公共洗濯場だったって

知ってた?

総菜屋の店長は

たばこの吸い殻を

袋のような灰皿に

落としていた

公共の洗濯場

情景を

なんとなく

頭の中で

描こうとしてみたが

みんなが集う

洗濯場の光景なんて

見たことがなかった

昔、石鹸の匂いで

みんな一緒に

洗濯してたんだって

総菜屋も花屋も

洗濯屋には

勝てない

総菜屋の店長は

頭に巻く布を

ポケットから取り出して

ものすごく

きつく

頭に巻いた

わたしはもう

エプロンを

つけていた

スタッフのみなさん

放送の始まりで

開店準備をする人々の

足音がきこえてきた

その日

店を閉めてから

アーケードの突き当りまで

台車を押しながら

歩くついでに

総菜屋さんの前で

少し立ち止まって

総菜を覗いた

総菜の盛られていた皿は

ぜんぶ空になって

磨かれていた

ぐつぐつという

食洗器の音が

真っ暗なアーケードに

ひびいている







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