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頑固さも良し悪し。2023.8.12 アルビレックス新潟vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■ぶつかり合った狙い

 夏休み最中の新潟でキックオフ。新潟は前節名古屋戦から何枚か入れ替えたスタメン、新戦力FW長倉はベンチに控える。湘南は広島戦と同じスタメンで、石原とタリクが久しぶりのベンチ入りとなった。
 大方の予想通り、ボール保持志向の新潟と後ろで構えてから早く攻めたい湘南といった構図。互いの準備してきたことを見せあう中、開始早々に試合が動いた。アンカー脇を起点に攻め込もうとする新潟、列を降りて受けようとする鈴木を大野がマークしてボール奪取。そのボールを引き取ったレレからサイドに流れた山田へ繋ぎ、丁寧なラストパスを大橋が滑り込みながらニアサイドのネットに流し込んだ。10分に湘南が先制する。

 この得点は両チームの狙いがぶつかり合い、そこを上回った湘南が得点まで繋げたシーンと考える。新潟の狙いとは、迎撃役の左右CBを惑わせること。左サイドは2ボランチの一角、星を高い位置に置いて小見との関係性を作り、右サイド~中央では鈴木と三戸の関係性を作っていた。各ユニットで舘と大野を引き付けつつ、アンカー脇のスペースを起点にゴールへ迫ろうという形である。

開始当初の新潟の狙い。
人と位置を流動的に動かし、湘南DFの混乱を誘った。

 しかしながら湘南もアンカー脇を狙われるのは織り込み済。試合後のインタビューでも田中聡が話しているとおり、そのスペースに入り込む選手をどう迎撃するかについてはあらかじめ共通認識を持てていた。

自分の脇を狙われていたので、そこはカズくん(大野選手)と舘くんと、自分がいくのか出てもらうのかということは試合前に話していました。うまくいっている時は何ごともなかったですし、僕とセンターバック二人が食いついてしまうことでスペースが空いてピンチになることもあった。まだまだ課題がたくさんあると思います。

2023明治安田生命J1リーグ第23節 vs アルビレックス新潟
MF5田中 聡
https://www.bellmare.co.jp/2023_j1_23_nigata

 この時間帯はその”うまくいっている時”で、田中は中央で待機しつつ大野がスペースに飛び出して対応。必要に応じてWBも下がり、新潟が狙った形を作らせない。そして迎えた10分、大野のパスカットから大橋のゴールが生まれた。正直ここまで素直な形でアンカー脇へボールを入れてくるチームは最近少なく、湘南が優れていたというよりは新潟がやや軽率な方法をとってしまったという印象である。

新潟の策に対する湘南。
結果的に湘南が相手の狙いを凌駕した。

 失点直後の11分、星は高い位置を取らずセンターサークルのやや左でボールを捌いて高とワンツー。小野瀬の背中を取りつつ田中、舘も間に合わない場所で受けると、カットインしてきた長谷川へスルーパス。杉岡がうまく守り切ったが、このシーンで新潟は何らかの手がかりを掴んだのかもしれない。
 飲水タイムを挟んだ26分、大野のロングパスを追いかけた大橋がボールを拾ったデンに激しいチャージ。ボックスすぐ外でボールを奪うと、フリーで待っていたレレにラストパス。右足で流し込んで湘南が前半のうちに追加点を挙げる。これは大橋の頑張りを褒めるだけの得点シーンだろう。レレも嬉しい移籍後初ゴールである。


■掴んだ手がかり、失ったピース

 2点を追いかける格好になった新潟は保持時の配置変更に着手。20分ごろから星と三戸の配置、ボールの循環ルートに変化が見られ始める。星は小見よりも高との関係を強め、田中のすぐ近くでボールを受けるシーンが増える。またGKとCBが直接中盤に向けてパスを通すのではなく、SBを経由した斜めのルートを活用するようになった。これは湘南の2トップがマメに高をケアしているために起点としづらかったこと、また中盤も中央封鎖の意識が高かったこと、迎撃役の左右CBをピン留めすること、といった理由が考えられる。

変更後のビルドアップルート。
狙う場所は変わらず、方法に変化を加えた。

 保持の方法を変更した新潟に対し、湘南はこれまでと同じスタイルで陣形を構える。だからといって何も変わらないわけではなく、中盤とDFラインの距離は非常に狭い状態を維持しており、全体がコンパクトな陣形を意識していたことが伺える。これはリーグ前半にホーム平塚で対戦したとき、新潟にライン間を広げられて失点した試合を踏まえ、自由にプレーできる時間と空間を与えない狙いがあったのだろう。

 広島戦のレビューでも見たように、田中がボールに食いつく分、その穴埋めを小野瀬と山田が担う。とくに山田は田中を助ける意識が強く、スペースカバーでこぼれ球を拾うシーンが何度も見られた。ハーフタイムで退いたのは前半終了間際のアクシデントによるものと思われるが、後半も彼がピッチにいれば違った展開になったかもしれない。というのもビルドアップの面で田中は成長途中であり、本来いるべき場所に小野瀬と山田が入ってボール循環を助けている。より自陣に近い場所でもチームを助けられる存在がピッチに残っていたら、やたらとボールを相手に渡す時間を減らすことができたのではないか、と思う次第である。

湘南の守備陣形。
新潟の配置変更に田中の個人能力で立ち向かう。

 徐々にボールを握る時間を増やす新潟。湘南を自陣に押し込んでいく。前半のうちには決定機をさほど作られなかったものの、長い時間負荷をかけられた湘南DF陣は強度とスタミナを削られてしまう。前半の終わりごろは自陣から出ることも難しくなっており、ただただボールを前に送るだけ。中盤3枚の体力がキツい時間帯、田中のところでボールが奪えず横のスライドも間に合わないため、重心がどんどん下げられてしまったことが原因と思われる。かなり際どいミドルシュートも打たれるが、ボムグンのセーブで前半は無失点で切り抜けた。

■自ら手放した勝ち筋

 ハーフタイムを挟んだ後半、スタミナを回復した湘南はやや持ち直すことに成功。基本的な構図は前半と同じ。保持から穴を探す新潟からボールを奪った後、カウンターに繋げるシーンもしばしば。しかし個人に頼ったロングカウンターのため、相手ゴール前に到達するころにはガス欠状態。畑も繰り返し良いスプリントを見せたが、さすがにこの気候では厳しいか。試合後インタビューで監督・選手共に話しているとおり、奪った後のボールをすべてカウンターに繋げようとしてしまったところに反省点がありそうだ。

結果論でもっと攻撃しておけばよかったとかそういうことではなくて、やはりボールをいつ大事にして、いつチャレンジして、いつスイッチを入れてカウンターをしていくのかというところは本当に辛抱強くやらないといけないと思います。

2023明治安田生命J1リーグ第23節 vs アルビレックス新潟
山口監督 質疑応答
https://www.bellmare.co.jp/2023_j1_23_nigata

 おそらくピッチ上では3点目を取って試合を終わらせてしまおうという意識があったのだろう(非常に湘南らしいといえば湘南らしい)。しかし次の1点を取ったのは新潟。湘南をゴール前に押し込んだ状況、ボックスのすぐ外から放たれたミドルシュートは綺麗な弧を描いてネットに吸い込まれた。前半も似たような形をボムグンがセーブしていたが、後半から入った高木の一振りで新潟が1点差に追い上げる。この直後に小野瀬に代わって奥野。小野瀬は失点シーンで数メートル戻り切れていないように見え、それを高木に咎められた結果となってしまった。


 未だリードしている状況の湘南ではあるが、もはや耐え忍ぶ以外の選択肢は残されていなかった。後半の頭から再びトランジションの多い展開を自ら作り出した選手たちは疲弊しており、ボールを保持して時間を使うこともままならない。ベンチワークで流れを取り戻したいところだが、畑を下げた終盤には単騎で陣地回復が出来るようなスピード・フィジカルに優れた選手は不在(とはいえアウェイ新潟でリードしている状況をどれだけ想定して選手選考を行うか?と考えると仕方ない面もある)。中央に君臨した田中もさすがに疲れ切っており、試合開始当初は潰していたシーンでも間に合わない場面が続く。前半終わり際と同じ形を繰り返しており、より後半の方が状況はシビアである。
 そして迎えたアディショナルタイム、平岡が軽率にSBへ食いついたところ、アンカー脇のスペースをおとりにしてDFライン裏に鈴木が走り込む。皮肉にもこの試合繰り返し前に飛び出てボール奪取していた大野が空けたスペースを使われ、最後は再び高木がフィニッシュ。2点差を追いついた新潟が引き分けに持ち込んで試合終了となった。


 試合運びの点で拙さが露呈した湘南。前節の広島は崩しがさほど得意ではなかったから守りきれたところ、ボール保持を志向する新潟相手には些か厳しかった。リードした状況でいかに時間を使うか、試合をクローズさせるかに関しては急ぎの改善が必要だろう。アンカー脇を使われるなら2ボランチにしてそもそも相手が使いたいスペースを消す、といった形も見てみたかった。
 しかし湘南が目指すサッカーの形から2点を挙げられたのも事実である。前節は大橋のスーパーゴールだったが、今節の1点目は再現性が高くほかの選手でも実行可能なプレーだったといえる。確かに悔しい結果ではあるが、出来ていたポイントにも目を向けてあげたいところだ。

 往々にして勘違いしがちであるがこの試合、湘南は負けていない。拾った勝ち点1の価値の大きさを私たちはよくよく知っているはずである。下位チームが仲良く勝ち点を落としているこの状況、まだまだこれからだ。


試合結果
J1リーグ第23節
アルビレックス新潟 2-2 湘南ベルマーレ

新潟:高木(75',90'+3')
湘南:大橋(10'),ディサロ 燦シルヴァーノ(26')


主審 川俣 秀

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