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カオスと指揮者。 2023.05.20 湘南ベルマーレvsセレッソ大阪 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ。
湘南はアンカー、セレッソは両サイドバックが浮く格好になる。

■どちらが武器を上手く使えるか?

 晴天に恵まれた平塚でキックオフ。セレッソは前節京都戦からシステムを4-4-2に変更、バランスの良い守備と両サイドからの攻撃に特長を持つチームとの対戦になった。湘南は札幌戦からメンバー変更あり。大きなトピックスは3バックの中央に大野の配置、そして小野瀬の復帰だ。町野にならぶ高いクオリティを発揮できる選手が戦線に帰ってきてくれた。
 試合序盤は互いにリスクを避けてDFライン裏に長いボールを蹴り合う。湘南のボールは容易にセレッソが処理するものの、キムジンヒョンや山中の蹴ったボールは湘南DFを慌てさせる。跳ね返しの距離が不十分でセカンドボールを前向きに拾われ、シュートまで持ち込まれてしまう。同じプレーでも質の高さによって差が出る辛い場面であった。湘南のロングボールは裏狙いでも局面移行(非保持からの高い位置で奪取)でもなく、ただボールを捨てている状態だったため、セレッソが保持から湘南を崩しにかかるきっかけを与えていた。
 キムジンヒョン+2CBのビルドアップに対し、湘南は2トップで牽制。両IHはSBへのアプローチを準備するが、セレッソの2ボランチが立ち位置で邪魔をする。ともすれば中央を破られかねないようなポジションに立ち、SBへのプレッシングが間に合わないような状況を作り出した。その結果、開始早々に山中のアーリークロスからレオセアラがネットを揺らす。判定はオフサイドだったが、準備してきた形をしっかりと披露されてしまうことになった。
 対する湘南はWBの縦スライドやプレス要員5人の横スライドで対応。セレッソの攻撃スピードが落ち着くと、徐々に湘南も保持からチャンスを作ろうとする動きが見えてくる。互いの武器が同じサイド(湘南の右サイド=小野瀬&石原、セレッソの左サイド=山中)に位置していたため、どちらが武器をうまく使う場面を作れるか?という様相になっていた。

☆湘南の狙い
右サイドのクロスからゴールに迫る(山中の裏のスペースを活用する)
方法1:左サイドで相手のビルドアップを引っ掛けて奪い、中央経由でフリーになった右サイドからクロス。
方法2:同サイド圧縮を図る相手の網を潜り抜け、右サイドに展開してクロス。
C大阪の狙い
山中の質の高いクロスでゴールに迫る
方法1:ビルドアップから山中をフリーにし、アーリークロスでDFラインの裏に落とす。
方法2:右サイドの攻撃やロングボールで湘南DFをボックス内に押し込み、フリーでクロスを上げさせる。

方法1の図。
香川が立ち位置と指示でボール循環の指揮をとっていた。

■カオスと指揮者

 湘南がボールを保持する場合、セレッソにとって問題になるのはアンカーの茨田とWBのケア。これに関しては圧力を持った縦スライドで対応し、湘南のビルドアップを阻害。CB→WBのパスルートではその後の選択肢を持てず、前に蹴るか下げてやり直すかしかなかった。
 光明を見出したのはカオスからの脱出。左サイドで作り出した密集を潜り抜け、中央経由で右サイドの石原へ。右足、左足どちらの足からも鋭いクロスを上げ、前半のうちに何度も得点機会を演出した。

右サイドからのクロスのシーン。
小野瀬も同様に切り返してからファーへ逆足クロスを見せていた。

 ビルドアップの方法に対応されたセレッソは、異なる方法を模索。香川がCB間やSBの位置に降りて山中や毎熊を押し上げ、空いた中央のスペースに2トップが降りて起点になろうとしたり、SHが高い位置をとってにDFラインをピン留めしたりと工夫を凝らしていた。湘南も大野を中心に列を降りる選手への迎撃を行うも、前向きに侵入する香川を止めきれず逆サイドへの展開を許してしまう。そして時折蹴り込まれるロングボールに悪戦苦闘し、幾度も押し込まれるシーンを作られる。ゴール前の決定的シーンまではやらせていないが、セレッソのビルドアップとロングボールを抑え込むまでには至らなかった。
 前半はスコアレスで終了。意図的に相手の弱点と自らの長所を活かしながら崩したセレッソと、偶発的な形もありつつ狙いとする攻撃を実行した湘南。点差こそないが、そこに至るまでの過程の質に差を感じざるを得ない内容だった(とはいえ、前節に比べればサッカーになっているのでマシではあるが)。

■仕込まれていた罠

 後半の立ち上がりも互いにチャンスを作りあう。湘南は左サイドで奪ったボールをワンツーで繋いでサイド深くまで突破、落としを受けた茨田からエリア内で待つ中野に鋭い縦パス。中野は後ろ向きで受けて下げてしまったが、中では町野と鈴木で三角形のパスコースを作っていたため、ワンタッチで叩くといったアイディアを見せて欲しいシーンだった。
 対するセレッソもボランチとSBのワンツーで平岡のプレッシングを回避、ライン間のスペースをケアするはずの杉岡の出足が遅れていたことからスピードアップ。平岡の出足の良さを逆手にとりプレスの根っこを目指したパスワークは、湘南のシステム上開きがちな穴を突く良い攻撃の形だった。
 湘南DFの意識を前向きに傾けていたところ、キムジンヒョンからのロングボール。その時、大野は前半繰り返し迎撃していた中盤に降りるFWの動きにつられてDFラインが乱れる。杉岡は大野のカバーとクルークスのマークのどちらを行うか判断に迷い、結果クルークスに裏を取られてしまった。一度は防いだものの、セカンドボールを拾われてフリーの山中から質の高いクロス。そしてエリア内に2トップと香川、毎熊、為田が入り込んでおり、数的優位によるマーク外れからレオセアラが得点。仕込んでいた罠に食いついた湘南DFの乱れを逃さず、自分たちの武器を使って狙っていた形でゴールを挙げた。

 1点をリードしたセレッソは、無理して同サイド圧縮を行わずバランスを保ったスライドで守備を行う。0-0の状況では互いの利害が一致していた(奪ったら武器がいるサイドに展開できる)が、リードした状況ではわざわざ付き合う必要もなくなったため、湘南は左サイドのカオスからの脱出を再現できなくなってしまった。湘南の良い形は相手との利害一致による偶発的な産物だったと言える。
 相手の様子が変わってしまったので、自分たちを変えなければならない状況に追い込まれた湘南。失点から7分後の60分に選手交代とシステム変更。茨田と奥野の2ボランチの4-4-2に移行した。システム移行の狙いとしては、⑴平岡の裏のスペースケア、⑵小野瀬のプレーエリアを相手ゴールに近い位置にする、⑶対面の相手をはっきりさせる の3点だろうか。特に目の前の相手に勝て!はシンプルで伝わりやすいメッセージではある。

4-4-2移行した噛み合わせ。
各ポジションが満遍なく噛み合うような配置になっている。

 交代後すぐにチャンスが続けて訪れる。ゴールキックのこぼれ球をつないで右サイドからファーへクロス。タリクに合っていれば決定機だった。その後もセットプレーの流れから幾度もシュートチャンスを迎えるが、キムジンヒョンのセーブでゴールならず。この一連の時間帯で得点を奪えていれば逆転の芽もあったかもしれない。
 前がかりになった湘南に対してセレッソも手を打ってくる。攻勢を強める湘南の右サイドに、アタッカーのカピシャーバを投入。この後の時間帯、石原はスピードとフィジカルに優れたアタッカーの対応に追われることになり右サイドの攻撃は沈静化。また湘南の4-4ブロックの前、本来であればFWがプレスバックするスペースがガラ空きのため、ここから香川がサイドにボールを配給。ロングボールとセカンドボール回収により前進し、セレッソが試合の流れを取り戻す。
 75分には永木と阿部を投入して再度主導権を掴もうと動くが思ったような成果は上げられず。反対にビルドアップをかっさらわれて89分には追加点を献上してしまう。アディショナルタイムに2種登録の石井を投入するが試合はそのまま0-2で終了。ホーム3連戦を全て敗戦で終え、リーグ戦4連敗となった。

■雑感

 この試合を見てポジティブに捉えるか嘆き悲しみ怒りに向かうかは人それぞれだろうが、サッカー的には前節よりも十分に語ることがある試合だったと言える。とはいえ強みを出せたシーンは偶発的な側面も大きいため一概には評価できないが、やろうとしていることは伝わってくる試合だった。相手の香川はやはり上手く、かつての輝きとは異なる形でチームを指揮していたのが印象的。湘南は指揮者を呼ぶことは出来ないため、11人の意思を揃えて戦う必要がある。



試合結果
J1リーグ第14節
湘南ベルマーレ 0-2 セレッソ大阪

湘南:なし
札幌:レオセアラ(53')、上門(89')


主審 今村 義朗

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