土俵に乗るか、引きずり下ろすか。2023.08.19 ガンバ大阪vs湘南ベルマーレ マッチレビュー
開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。
◽️戦略の選定
はじめに
暑い大阪の吹田でキックオフ。湘南は前節から舘に代わって岡本がスターティングメンバー入り。ガンバは三浦の負傷もあり、前節右SBとして起用されていた福岡がCB、高尾が右SBに入る。また食野に代わって宇佐美が久しぶりのスターターとなった。両チームともに浮沈を握る中盤3枚の顔ぶれは変わらず試合に臨む。
引き分けを挟んで7連勝とリーグ序盤戦とは大きく異なる様子を見せるガンバ。ボール保持に重きを置くスタイルはそのままだが、同じ志向を持つチームと異なる点として、オープンな展開を忌避している点があるだろう。例えば横浜F・マリノスはボールを握る時間を長く持ちつつも素早いカウンターも見せてくる分、相手からも同じようにカウンターを受けるシーンも珍しくない。破壊的な攻撃力を発揮するため、それ相応のリスクを背負って攻め込むスタイルだ。
一方のガンバはカウンターを受けるリスクを極力避け、ボールを確実に繋ぎながら相手を押し込んでゴールに迫ってくる。ゴールが生まれやすいと言われるボール保持が切り替わる瞬間、特にボールを奪われる瞬間であるネガティブトランジションの場面を管理下に置こうしているような印象だ。相手が構えて近場に出しどころがなければ一本でDFライン裏を狙い、ボールを失っても極力ゴールから遠い場所を選択していた(もちろんそれがただボールを捨てることにならないのは、ジェバリという強力なFWがいるからであるのだが)。仮にジェバリに収まらなかったとしても、相手の保持に対するプレッシングでよりゴールに近い位置でボール奪取を試みる。山本とジェバリの2枚で行うプレッシングはとても整理されており、また中盤の底に位置するラヴィとダワンの強度はリーグでも屈指だろう。
さて今回のレビューでは、ガンバに対してどのような戦略を湘南は選択して敗れたのか、他にどのような戦い方があったのかについて考えてみたい。ピッチ上では戦略①+②といった形で臨んだ湘南。筆者の考えとして戦略③を挙げている。
戦略①ボール保持で守備網を上回る
一つ目はある種の正攻法である。ガンバがリスクを回避してボールを渡してくるのであれば、そのボールを保持したままゴールを奪ってしまうのが一番効果的な解決法だろう。実際にそのやり方でマリノスやフロンターレはガンバから得点を挙げているわけである。もちろんポゼッションを武器にするチームが可能だったからといって、湘南が同じようにできる訳ではない。しかし湘南は果敢にも保持からゴールへ迫ろうとしていた。その形からゴールは奪えなかったが、やろうとしていたことは見てとれる。
湘南がボールを持つと、ガンバのIHである山本が田中の位置までスライド。ジェバリと協力してボールホルダーに規制をかけようとする。そして左右のCBにボールが移動すると山本もそれに応じてプレッシング。アンカーの田中が空くところはダワンやアラーノがスライドして受け渡し、ホルダーからパスコースを奪っていく。この時ラヴィは小野瀬をよく監視しており、試合を通じて中々自由にプレーが出来なかった。
どう見ても手詰まりの状況ではあるが、岡本が打開の一手を指す。ラヴィとダワンの間を通し、中盤を越えて2トップにそのまま渡し局面を変えた。
FWにパスは通るものの、その後のサポートが遅く中々チャンスにまで繋げられない。中盤とWBは自らが直接パスを受ける意識が高く、二手先・三手先のポジションを取れていないことが多かった。上記の図で言えば、大橋にボールが入ることを見越してIHが受けられる位置にいなかったり、IHが受けた後の選択肢を提供できる選手がいなかった。ゴールに向かう迫力が欠けた要因の一つであろう。
先制された後の39分、列を降りた大橋がポスト役に入る。岡本からのパスを受けた大橋は、クォンギョンウォンを背負いながら上手くキープして山田へパス。その瞬間、大橋をマークするため持ち場を離れたクォンギョンウォンがいた場所はスペースとして空いている。山田へのプレッシャーも弱く角度もあったため、レレがここを突ければ決定機になったはずだ。場所は違えど新潟戦の1点目と形は似ており、ゴールへの道筋が共有できていないのはとても残念だった。
上記のシーンに限らず、この試合では素早く裏を狙う意識に欠けていた印象がある湘南。14分のシーン、左サイドでボールを持っているところ。その局面に関わる選手全員がボールに身体を向けていて誰一人として裏に抜ける選手がいなかった。高尾が前に出ている分DFラインにはギャップが出来ていたため、このスペースを使えればチャンスになった可能性が高く、高尾も山田に狙いを定めることは難しかったはずである。
試合後の監督コメントにもある通り、湘南には“アグレッシブに前にゴールに迫る姿勢“が欠けており、ガンバ守備陣を焦らせるシーンをほとんど作り出せなかった。終了間際に大橋のゴールで1点を返すが、セットプレーの流れによるもので狙っていた形からは程遠い。やはり大橋はゴール前にいてもらう方が良いという当たり前のことを再認識させられた。
しかしながら取った戦略としては誤りではないし、練度が足らずに得点は奪えなかったが、それが即座に敗戦へと繋がるわけではない。負けたのは相手よりも多く失点したからである。ではなぜ失点に繋がる状況を作り出してしまったのか。次はそちらを見ていこう。
戦略②プレッシングでペースを握る
山口監督、大橋の試合後コメントによれば、試合開始直後より前から積極的にボールを奪いに出る方針を取っていたようである。
おそらく狙いはこうだろう。相手の保持に規制をかけて高い位置でボールを奪い、ショートカウンターから得点を挙げる。仮にボールを奪えなかったとしても、前進を阻んで相手を自陣内に閉じ込める、といったところだ。湘南が得意とする奪ってから速い攻撃を繰り出し、相手にゆっくりとボールを持たせない展開に持ち込もうという戦略である。前節新潟戦の成功(前半45分)をこの試合でも実現したいのが伺える。
しかしながらこの試合の対戦相手であるガンバは前節の新潟とは違い、リスクを負ったパスは回避してくるチームである。プレスを掛けられれば、ジェバリを活かしてロングボールで逃げることも厭わない。その点に関しては小野瀬もコメントを残している。
つまり現在のガンバを相手にプレッシングを掛けても簡単に逃げられるだけで、むしろ暑さと伴わない結果によって徒に疲弊してしまうように思われる。またプレッシングを発動すると局所的に人数をかけて自らの配置バランスを崩すことにも繋がり、ピッチのどこかしらに穴が空くのを受け入れる必要がある(先程見たガンバのプレッシングでも、杉岡と大野はフリーになっている)。
その結果、37分に失点。原因はGKまでプレッシングに行ったレレから人が順々にズレていき、ボールサイドに人が集まり過ぎて小野瀬のスライドが間に合わなかったこと。小野瀬個人の守備意識に問題がなかったとまでは言わないが、失点の原因全てを彼一人に被せるのは酷である。元々前から奪うために人数を掛けているのであり、奪えなかった時のリスクを負った戦い方であるのを忘れてはならない。
筆者は何よりも前から積極的にプレッシングを行う戦略を取ったことが敗戦の原因であると考える。相手を思い通りに戦わせない点には同意できるが、その状況を引き起こすためのリスクとリターンの収支があまりにも悪すぎる。ガンバは試合のテンポを早めようとする湘南の誘いに乗るメリットがまるで無く、自陣深い位置で待っていれば勝手に前がかりになる湘南の裏をノーリスクで突くことが出来た。相手の穴を探すことが得意なチームに対して自ら穴を見せつけているようなものである。先に湘南が2・3点取れればガンバもリスクを負って攻め込んでくるだろうが、そこに至るまでの道筋があまりにも細い上に未整備であった。
元々ボールをもつチームが主導権を握るゲームにおいて、非保持側がペースを握るのは相当なスピードと強度、そして相手のミスがないと難しい。リスクを忌避する相手と対戦する上で攻撃の形やゴールに迫る姿勢を見せられなかったことよりも、自チームが取る戦い方を見誤ったことの方が責任は重いと考える。
戦略③相手を土俵から引きずり下ろす
現状のチーム成熟度、勝ち点差、タレントの質から考えればガンバが圧倒的に優勢なのは言うまではもない。しかしながらある程度守備がセットされた状況であれば、リスク回避したガンバの長いボールには対処できていた。ミンテとボムグンが個人能力で弾き返したり、収められたボールにも人数をかけてゴール前を固める。下手に前がかりになるよりも、後ろで構えられた方がガンバにとっても嫌だったのではないか。スペクタクルなサッカーは影をひそめ、ひたすらガンバ陣内で動くボールと時折送られるロングボールを目で追うだけの退屈な時間を生み出すのだ(奪ったボールを繋いでゴールに迫れれば一番良いのは言うまでもないが)。
仮に0-0の状況が続いて残り15分となった場合、より積極的にゴールへ迫ろうとするのはどちらだろうか。8月唯一のホームゲーム、イベント開催をして3万人を超える観客、ましてや対戦相手はリーグ最下位とあれば、ガンバがリスクを負って攻めに出る可能性は高い。その状況まで耐えることが湘南の数少ない勝ち筋であったと考える。すなわちリスクを忌避するガンバを、多少なりリスクを負ったパスを出さざるを得ない状況に追い込んで、彼らの土俵から下ろそうというものだ。万が一ガンバの様子が変わらなかったとしてもアウェイの地で勝ち点1を拾えるならばそこまで悪くない結果であり、湘南が背負うリスクとリターンも見合ったものに思われる。
ガンバが1点を取りに来てくれたらしめたもの。湘南も一気呵成にペースを上げ、トランジション合戦に持ち込めればこちらに分がある展開になる。これこそが相手を土俵から引きずり下ろす戦略であり、力のある相手に対する戦い方だろう。中断前の福岡戦で長谷部監督が終盤に長身選手を続けて送り込んだ様に、試合中のどの時間帯に部分的であっても相手を上回るポイント、いわば勝負どころを作れるか。前節終了時からキックオフまで、一週間の準備の差が出る部分ではないだろうか。
筆者にとってはある程度狙ったサッカーの形が見えたのでそのような失望はないのだが、指揮官をはじめとするスタッフ陣が戦略を見誤ったことに対する落胆が大きい。次節の浦和もボール保持のリスクに対する考え方はガンバと近いところがある。せめて、同じ誤ちを繰り返さないことを祈りたい。
試合結果
J1リーグ第24節
ガンバ大阪 2-1 湘南ベルマーレ
G大阪:ファン アラーノ(37'),宇佐美(61')
湘南 :大橋(90'+6’)
主審 岡部 拓人
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