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原点に立ちかえれ。 2023.05.03 湘南ベルマーレvs柏レイソル マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ。
中盤の形が互いに重なるような配置になっている。

■はじめに

 J1リーグ第11節、ホーム柏レイソル戦は28分に先制されるも前半のうちに杉岡のゴールで追いつく。しかし後半、細谷の単騎突破を止められずに失点。試合はそのまま1-2で終了し、神戸戦に続いて連敗となった。タイムアップの笛が鳴った直後にはゴール裏から大きなブーイングが起こるなど、観客にとって失望が大きい試合だったのは間違いない。不甲斐ない戦いを見せてしまった原因はどこにあるのか、ミスをした選手を代えれば解決するのか。今回は趣向を変えて、湘南ベルマーレのサッカーにおける土台やコンセプトと現在の姿を照らし合わせつつ、柏レイソル戦を振り返ってみたい。

■チームコンセプトと各局面の狙い

 以下は筆者が思う湘南ベルマーレのチームコンセプトと各局面における狙いである。

○チームコンセプト=走力と球際の強度で相手を上回る
○各局面での狙い
・攻撃(ボール保持、ポジティブトランジション)

早めに縦へ送って少ない手数でゴールに迫る。プレスを外して相手を押し込み、人数をかけて攻め立てる。サイドから中央経由でレイオフを使いつつポケットをとってクロスからのシュート。
・守備(ボール非保持、ネガティブトランジション)
即時奪回して二次攻撃、カウンターに繋げる。高い位置で奪ってショートカウンター。サイドに追い込んでディレイやボール奪取。あるいは長いボールを蹴らせてGKが処理、セカンドボールを拾う。ミドルサード以降は撤退。

 不足や指摘点などはあるだろうが、おおよその同意を得られる内容と思われる。最大の特長はボールを奪ってから攻撃に繋げる早さとその人数にあり、名古屋戦や神戸戦、そして柏戦ではこの良さを出させない対策(=低い位置で湘南にボールを持たせ、良い形で奪わせない)を取られていた。ボールを渡されたならばとパスを繋いで相手守備網の攻略に挑戦するが、反対に絡めとられてうまく前進できない試合が続いている。これまでの10試合で表れた課題と成功を踏まえて修正を加えた結果、ピッチ上では選手間で意識のズレが生じており、そのズレこそが停滞感を漂わせている原因ではないだろうか。

■ボール保持、とりわけビルドアップにおける問題点

・下から繋ごうとする中盤と、前に蹴りたいDFラインの間にある意識のズレ
 この試合に限らず以前もそうだったように、自陣低い位置にいるCBからボールを繋ごうとするシーンがよく見られる。しかし最近は相手のプレッシングに負けて簡単に前へ蹴り出してしまったり、マークが付いている味方にパスを出して奪われたりと効果的な振る舞いには見えない。果たして何を狙ってこのプレーを選択しているのか?
 24分、オフサイド判定で取り消された平岡のゴールはチームの狙いがよく表現されたシーンである。左サイドからボールをソン ボムグンまで下げて岡本へ。降りてきた茨田に当てて落とし、石原の左足からふわっとした浮き球を送る。岡本・茨田・石原のパス交換で柏のプレス隊を誘い出して生まれた中盤のスペースに町野が走り込み、ヘディングで逸らしたボールはフリーの阿部の足元へ。動き直してボールを受けた茨田がワンタッチでDFラインの裏にスルーパス、斜めのランニングで抜け出した平岡がゴールに流し込んだ。

24分、平岡のゴールシーン(判定はオフサイド)のきっかけになった組み立て。

 このプレーの肝は相手プレス隊を撒き餌のパスで誘い出し、ピッチ中央部にスペースを作ったところにある。そこにタイミングをあわせてボールと人を付け、相手守備陣を背走させながら攻撃する擬似的なカウンターの状況を作り出すことに成功した。相手2ライン(FWと中盤)を突破し、最終ラインのみと対峙できれば得点の可能性は大きく高まる。動きながらプレーできる選手を前線に揃えている湘南にとって、理に適った手法だろう。
 しかしながら、直近数試合を含めてもこの形が成功したのは上記シーンくらい。それ以外は前線の選手がプレーするための時間と空間を確保できていない状態でボールを送っているため(山口監督の言葉を借りれば”関係性が出来ていない”状態)、ただDFラインから前へ蹴っているだけになってしまっている。前へ蹴るプレーそれ自体には問題ないが、何のために前へ送っているのか?逃げのプレー、あるいは手段が目的になっているのではないか?
 中盤と両サイド、FWはセカンドボールを拾う意識が下がり、足元でボールを受ける動きが多くなっている。これはFC東京戦でパスワークがハマった成功体験によるものかもしれないが、あくまで奪いに出てきた相手をかわした結果であってパスを繋ぐこと自体は目的ではない。ボールを相手陣内に深くに運び、ゴールを奪うことが目的である。

 DFライン3人+GKと前5人+両サイド2人の意識のズレにより、関係性が出来ていない状態でロングボールを蹴られてもFWは相手DFに競り勝てず、遅れて上がった中盤では跳ね返されたセカンドボールにも間に合わず。マークに付かれたサイドへのショートパスはプレッシングの餌食となり、結果として無防備なDFラインとGKが相手攻撃陣と対峙するシーンが増えてしまっている。
 相手を引きつけずに前へ蹴るだけなら、下から繋がずにGKから長いボールを蹴ってセカンドボールを拾うことに注力する方がコンセプトに沿った戦い方のはず。パスを何本も綺麗に繋いでゴールを奪うのも結構だが、それは他所のスタイル(例えば川向こうの2チーム)。走力と強度を売りにしてきて、その結果として相手のプレスをかわせるようになったチームが立ち返る場所は球際勝負にあるはずだ。
 ボールを保持しながら相手を動かして穴を見つけるスタイルを目指すのであれば、まずはウイングバックを下げずに配置。ボール扱いに長けたCB・アンカーが中央レーンに移動しつつ、IHが頂点に入って助ける形のビルドアップを身に着けるべきだ(仕組みがよく似ているウディネーゼのように)。立ち位置も動かさず個人のスキルに任せる現在の形では、選手を入れ替えたところで限界があるだろう。

■ボール非保持における問題点

・昨年ほど強度が高くないプレス隊と、昨年と同じライン設定の守備陣
 湘南スタイルといえば前線からの強いプレッシングと言われて久しいが、最近はハイプレスと呼べるシーンはめっきり少なくなった。今シーズンで見られたのは横浜F・マリノス戦の前半くらいだろうか(あの試合も相手ゴールキックに対するセットの仕方なので、オープンな状況ではそこまでの強度はなかった)。
 今シーズンのプレッシングに関しては、ゴール前のクオリティ維持のためか町野のプレス強度が抑えめで、阿部がスイッチ役となる場面が多い。その結果昨年よりもプレッシングの圧が落ちているため、現在のライン設定は些か高すぎるように思われる。プレッシングをより効果的にするための高いライン設定なのであって、ラインを高くするためのライン設定ではない。圧が下がったならばDFラインも下げるべきで、ラインを上げるならばプレスの圧も高める必要がある(そもそもDFラインの高さに対してボールホルダーへのプレッシャーが弱いのは今に始まった話ではなく、浮嶋監督時代からその印象があるが)。

・誤ったチームコンセプトへの意識
 55分の細谷に大岩が千切られた失点シーン、早いタイミングで大岩がボールにアタックしたのはなぜか。細谷に並走してGKと協力し2vs1の状況を作るか、遅らせて味方の戻りを待つことも出来たはずである。この判断に関して筆者は神戸戦の2失点目(石原がこぼれ球の処理を誤り、山口のゴールに繋がる神戸のスローインになったシーン)と同じ原因があるように見ている。どちらも1点が欲しい状況で、マイボールにして早く攻撃に移りたいという意識からボールを奪われるリスクの高い判断を取ったと思われる。早く攻めるのはコンセプト通りであるが、失点のリスクと天秤にかけると軽率な判断だったと言わざるを得ない。
 守備のリスクを取って多くの人数をかけて攻め込むスタイルを取る以上、数的同数に近い危険な状況が発生するのは避けられない。チームコンセプトよりもサッカーというゲームの勝利原則=相手に得点を与えないが優先されるべきシーンだった。

■終わりに ”戦っていない”とは何か?

 ここ数試合の湘南は、良さを封じられた状況下で不得意な分野に挑戦して散っていく戦いを繰り返している。昨年のリーグチャンピオンや現在の上位チームを相手にチャレンジするのは理解できるとしても、順位が下のチームにお株を奪われるような戦いぶりではサポーターからブーイングが上がるのも必然と言える。
 筆者が観測する範囲で柏レイソル戦に関するサポーターからのコメントとして、”戦っていない”や”気持ちが見えない”がよく見られた。個人的に言い換えるならば、"ピッチに立つ選手間にある意識のズレによって各局面の準備が整っておらず、強みを出せないまま後手に回っている"状態のことだろう。サポーターは相手ゴールに向かって湧き上がるように駆ける姿や、最後までボールをひたむきに追う姿を期待しているのであり、それを表現できないチームに不満が溜まるのは当然だ。
 プロとして出場する以上戦う気持ちがない選手などいないはずで、それを上手くピッチ上で表現できない、力を発揮できないチーム状態に問題がある。意識のズレを解消するべく湘南ベルマーレの原点に立ち返り、今一度その強みを私たちに見せて欲しい。


試合結果
J1リーグ第11節
湘南ベルマーレ 1-2 柏レイソル

湘南:杉岡(45'+5')
柏 :マテウス サヴィオ(28')、細谷(55')


主審
福島 孝一郎

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