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立ち位置や戦術以前の話。 2023.05.13 湘南ベルマーレvs北海道コンサドーレ札幌 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ
札幌の立ち位置変更。
湘南が3枚でプレスをかけるためボランチが
降りる機会が多く見られた。
札幌のビルドアップ隊形。
90分間まったく阻害出来なかったので、
解説はこれで十分と思われる。

■選手間の意思統一とチームの狙い

 何故か雨が多いホーム平塚でキックオフ。札幌はいつもの保持時に4-1-5へ移行するスタイル。一方の湘南は2ボランチ、平岡と阿部がシャドーに入り町野を1トップに据えた3-4-2-1にシステムを変更して臨んだ。
 前半開始早々に左サイドを突破され、クロスを合わせた駒井の先制点。エリア内に人数は揃っていたが、相手ボールへのアプローチが足りないシーンだった。前半はそのまま目立った決定機も作れず、札幌のビルドアップを阻害することもなく終了。後半も様相は変わらず試合は進むが、CKの流れから相手DFのハンドでPKを獲得して同点に追いつくと、前に送ったボールの球際を制し、町野のパスから阿部の逆転弾。思いもよらない形で試合をひっくり返すが、またも左サイドの寄せの甘さから同点に追い付かれる。その後はパスミスから3点目、セットプレーのこぼれ球をコントロールショットで決められて4点目。昨年に続き大量失点で札幌に敗戦を喫した。

 この試合における湘南の狙いは以下のとおり。

・手数をかけずに早く攻める
・相手を引き込んで前に出て来たところをひっくり返して裏を狙う
・数的同数の局面を作り出してゴールに向かう

柏戦では前と後ろでバラバラだった意識がチーム内で「縦に早く攻める」で統一されたようだ。実況の桑原氏によると前節からこの試合までの期間に選手のみでミーティングが行われていたようで、選手間での意思統一を図ったと思われる。

2ゴールに関わって勝てないのは、もどかしい。良い形で逆転できた後にあれだけ失点してしまうと、どうしようもないです。僕たちは、まだ綺麗につないでゴールを目ざせるレベルではありません。前半は我慢しながら、1失点以内で抑えようというなかで、後半に相手が疲れてきたところを逆転できましたが……とにかく失点が多いです。

サッカーダイジェストより引用
https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=131485

 この意思統一については今シーズン11試合を振り返りながら見ていきたい。好調に見えた開幕戦では、相手から理想的な形でボールを奪い取ってショートカウンターを披露。だが最近は対策され、マリノスやフロンターレのように保持にこだわりを持ったチーム以外にはボールを持たされる試合が増えた。そのため自分たちが低い位置でボールを持った状態から得点できるようにチャレンジをしていたが、ビルドアップで相手のプレスを外して攻め込める程の練度には至らず。それであれば自分たちの走力を活かし、相手の準備が整う前に早く攻めようということだろう。相手を崩してゴールに向かうスタイルは変えず、方法論に変化を加えた形だ。
 その意思決定は十分理解できるし、上位進出を目指すチームとして取るべき姿勢だと思う。問題はそのやり方、ピッチ上で見せた選手たちの振る舞いそのものにある。

■”きれいごとじゃない根本的なところ”とは?

 前半終了間際、町野が裏に抜け出してボールを受けたシーン。1vs2で数的不利なのでキープを選択、味方の上がりを待った。セオリー通りの判断で誤ったプレーではない。だが、サッカーはセオリーから外れたプレーでもその選択を正解にすることが出来る。ゴールを挙げたり、相手のボールを奪えたらそのプレー選択は正解になる。
 それはセオリーだけでなく、チームの取り決め・戦術において同様である。27分のシーン、ゴールキックをボムグンから奥野へ通し、町野へロングパス。落としのボールを受けた石原がファールをもらったシーン。チームの約束事として縦に早く付ける意識があったのだろうが、奥野の近くには茨田もフリーで寄っており、札幌の中盤は間延びしてスペースが空いていた。相手の1stプレスラインを容易に越えていたことから、ショートパスを繋いで持ち上がる形も作れたはずだ(名古屋、神戸、柏戦でトライしていたような)。繰り返し湘南がロングフィードを用いていたことから生まれた配置であり、それを相手の隙として見抜いたプレーが欲しい場面だった。
 非保持においても同様で、以前であればプレスバックして複数人で襲い掛かるような状況でも撤退を選択するシーンが見られた。この試合における狙いは理解するが、そもそも相手の準備が整っていない状況で攻め込むのが目的であれば、即時奪回で二次攻撃・三次攻撃に繋げる場面も増えるはずだ。42分、舘のタックルから平岡に渡ったシーン以外にはこれといって見られなかったのは残念である。
 いくつか例を挙げたが、何れも直近のトレーニングやミーティングで強調されたポイントを試合でこなしているのみで、ピッチ上の戦局を見たうえで判断を下しているようには思えない戦いぶりだった。今節の札幌は人に付く意識が強いチームであったため、例えば2ボランチの1人がシャドーと同じ位置まで上がったり、WBが内側に入ったりすると相手はどうするのか、ズレはどこに出来るのかなど、試せることはいくつもあったはずだ。(単純な人の動きだけでは簡単に対応されるだろうが、ボールの動きやスピードの緩急、プレー強度が組み合わさるとDFの認知負荷は格段に上がる)

 トレーニングで準備したものや監督の指示に従っていても得点とボールは奪えない。相手チームの守備を乗り越え、隙を突く選択をもってして初めてゴールに近づける。それこそが選択したプレーを正解にする振る舞いであり、”きれいごとじゃない根本的なところ”であり、”プレーの責任”であると思われる。我々サポーターが試合に出ていないサブの選手に期待してしまうのも、結果を残すために得点やボール奪取に直結したプレーを積極的に選択してくれるのではないかと考えているからであろう。
 ところが各選手が個々で頑張ったところで結果には繋がらない。11人が連携してプレーすることが勝利のために必須であり、それを実現するのがコミュニケーションとチームの先頭に立つリーダーの存在だ。コイントスを担当する立場的なリーダーは決まっているが、ピッチ上で先導する役割としてのリーダーは不在の状態。歩みを止めた湘南ベルマーレを、今一度引っ張れるリーダーの登場が待たれている。


試合結果
J1リーグ第12節
湘南ベルマーレ 2-4 北海道コンサドーレ札幌

湘南:町野(59')、阿部(60')
札幌:駒井(6')、小柏(70')、浅野(75')、スパチョーク(87')


主審 御厨 貴文

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