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悶絶

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私が師匠の元を訪ねた時…まずは好きに書いてみなさいと言われました…
私は張り切って筆を走らせましたいつもコンクールでは優勝しているし…ただいつもと同じことをやればいい…
3枚ほど書いたところで…これはもう国内では私にかなうものはいないなと思い筆をおきました。
師匠はじっと私の書を見つめ…一言…

君はまだ悶絶したことがないんだね…とおっしゃいました…
君の技術は凄いものを持っている…筆の扱いもよく知っているのだろう…ただし…まったく心が乗っていない…
君はこのまま続けていても習字の先生にはなれるかもしれないがアーティストにはなれないとおっしゃいました…

私も若かったものですからその意味がわからず激昂しました…
払い跳ねの角度どれをとっても調律のとれた美しさだと思うのですが…
先生の書を書けと言われれば完璧に書くこともできます!!

恥ずかしげもなく語ったものです…
それでは…私の書いた書を写してみるか??と師匠はおっしゃいました。
私は自信たっぷりに書き上げたのでしたが…全く同じ角度、同じ筆遣いで書いているはずなのにうまくハマりません…
100枚ほど書いたのですが…黙って見ていた師匠が口を開きました…

おそらく…あなたの筆遣いは私を超えている…しかし書けない…
それは私にも説明ができない…ただ一つ言えるのはアートとは技術だけではないんだよ…
偶然からアートが生まれることもある…
君の腕は申し分ないが…型にハマりきった君の概念を壊すには…悶絶するほどの刺激がなければいけない…
新しい高みに登るためには何かを捨てる覚悟も必要だ…まずは筆を置きなさい…
一緒に悶絶するほどの刺激を探そうじゃないか…
それから私は師匠の門下生となり刺激的な毎日が始まったのでした。

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