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競争が激しすぎて中国の若者がやる気を失って寝そべり族になっているのは本当なのか

中国の社会現象の一つとなる「躺平」(寝そべり)については日本のメディアでも度々取り上げられてます。以前書いたnoteで、中国の流行語を紹介する回でふれたことがあります。

ちなみに、一部の中国のメディアでは日本のことをどう呼んでるかご存知ですか?ディスられてるようであまり良い気はしないんですが、中国では最近の日本のことを“低欲望社会”と表現したりします。

寝そべりについて話題になるときには、「内巻き」の反動で中国社会の若者たちもいよいよ日本社会のような低欲望になってるではないかとの議論が盛んにされています。

でもそれはボクが実感している中国社会を考えると違和感があります。なぜなら周りの中国人の若者たちは、寝そべりを言いながらもみんな地道に頑張っているから。日本の低欲望社会とはだいぶ乖離があると感じています。そしてこれを裏付けるような調査データがついに出てきました。

つい先日、復旦発展研究院コミュニケーションと国家管理研究センター、上海情報安全と社会管理イノベーションラボ、Bilibili公共政策研究院が合同で「中国青年ネット民の社会的心理状態調査報告(2009−2021)」を発表したのですが、中国の若者の状態を反映する面白い報告でした。

調査は、Weiboでの書き込みを研究対象にし、1990年から2005年までに生まれた人たちの各地域、各年齢層、各教育レベルのアクティブネット民4556サンプルを抽出。彼らの2009年から2021年までのデジタルプラットフォーム上での1000万個弱の書き込みをビッグデータ分析したものです。

その書き込み内容から彼らの奮闘、収入、就職、恋愛結婚、育児、セグメント関心、環境保護、動物保護など189個の指標をクラスタリング、分析しました。また2017年を境目にして、その前後の中国の若者の価値観の変化を分析しました。

この分析レポート全体はとんでもない超大作で、今日は調査報告の中から特に面白かった「経済生活観」と「恋愛結婚育児観」についてピックアップしたいと思います。中国に関心のある方で、ぜひデータで中国の若者の現状について理解を深めたい方に読んでいただければと思います。

■経済生活観について

寝そべり、内巻き、親のすねかじり、公務員入試、北京上海広州から逃げよう、焦り、などの中国の若者の仕事と生活に関する精神状態は、ここ数年中国のメディアと社会がよく議論する話題です。ただ調査の結果によると、若者の多くは寝そべり世代という括りは大きな誤解であり、奮闘は相変わらず中国の若者のコアな価値観です。

さらに、時間の推移に伴い奮闘主義の傾向も強くなります。親のすねをかじるよりも現状の社会分配の改善への期待が大きく、経済的な独立への憧れも強いです。逃げ出そうとネットで叫ばれている北京、上海、広州、深圳など不動産の高騰している大都市が相変わらず若者にとって魅力的。

また、勉強、仕事、外貌、健康が青年ネット民の最も大きい焦りの原因となり、青年女性、海外青年、東部青年、高学歴青年のストレスが比較的大きいということがデータから明らかになっています。

ここからは具体的なデータで解説。

1、寝そべりについて

青年ネット民は全体的に積極的な奮闘意欲があり、寝そべりについて批判的な態度も示しました。寝そべりをいうことはある種のストレス解消法なだけで実際は頑張ってます。その背景には「頑張れば報われる」という信念があると考えられます。データ上、75.0%の青年サンプルは努力家で寝そべりを反対していて、21.3%のサンプルは奮闘と寝そべりの表現が半分半分で、寝そべり支持するサンプルはわずかだそうです。そして、頑張れば報われがあると信じるサンプルは73.2%で、自分自身の努力でよりいい人生が期待できると信じている。

2、収入について

調査サンプルの中で、67.6%の人が「親のすねをかじること」に反対、69.1%の人が早めの経済独立を賛成しています。27.1%の青年ネット民が現在の自分の収入や仕事には不満足であり、非常に満足している人もとても少ない。皆が向上心を持っていることがデータから読み取れます。

また、48.7%の青年ネット民が社会全体の経済分配に不満を持っています。具体的には、一部の最下層青年の収入が低すぎる、一部の青年ネット民は、教師、医者、公務員の収入が比較的少ないと思っている、一部の青年ネット民は、芸能人のあまりにも高い収入への不満を表しています。

3、就職について

調査サンプルの中で、就職の好き嫌いについての表現では、公務員などのいわゆる体制内の仕事に対して8.1%の人がプラスの態度で、14.5%の人がマイナスの態度をとっていました。体制外の仕事に対して4.2%の人がプラスの態度で、1.1%の人がマイナスの態度を持っています。ただ、青年ネット民は体制外の仕事に対してより良い評価をしているにも関わらず、就職するなら体制内がいいという人が多いというデータでした。

就職意欲の表現については、12.2%の人が体制内で働きたく、11.5%の人が体制外がいい。また10.2%の人がどっちでも良いとの態度で、66.1%のサンプルはこれらに関して好き嫌いを表現したことがない。

また、90年代生まれの体制内で働きたい青年ネット民が36%に対し、2000年代生まれが44.5%でした。

他にも、22.9%の青年ネット民が大都市で生活したいと表現し、3.4%の人が比較的発展してないところで暮らしたい、3.5%の人が特に希望はなく、70.2%の人が関連の表述はなしでした。

4、焦りについて

データによると、約7割の青年ネット民にはネットでの投稿に焦りに関する表現があったとのことです。4556のサンプルの中で、焦ってないとの表現があったのはわずか0.3%。一方で69.8%の青年ネット民がはっきりと自分の焦りを表現しています。また、書き込みの内容からみるに、焦りの普遍化は社会全体が焦りモードになっただけでなく、焦りを表現することや議論することも普遍化されています。若者は自分の焦りをネットで言い出すことにも特に抵抗がないのです。

また、焦りの具体的な原因を見ると49.4%の人が現在の勉強や仕事に対する焦りを表現していました。その他の原因では、外貌が8.6%で、健康が8.4%。一方、社会的世論によく取り上げられた「家を買う」や「結婚」に関する焦りは、青年ネット民の間ではそんなに強くなかったのも興味深い。

■恋愛結婚育児観について

中国の若者は素敵な恋愛や婚姻に憧れを持っています。しかし今は結婚意欲と恋愛意欲には大きな差が表れており、不婚や晩婚を主張する人が増えてます。また、恋愛は大胆に、結婚は慎重に、愛のために結婚し、結婚と経済、育児などいわゆる中国伝統的な家庭職能と異なり、若者たち自分自身の感情的な訴求によるものが増えています。子供が欲しくない若者が子供が欲しい若者より増えていて、中国の伝統的な「血統を継ぐ」価値観が弱まっています。また、生育回避に関しては、世論でよく話す経済的不安や教育の焦りなどの原因と異なり、個人の権利や個人の価値意識の向上による影響が大きいことを反映しています。

具体的なデータはこんな感じです。

1、結婚と恋愛について

近年、一部のネット世論では、中国の若者の結婚意欲が低迷していると主張する人が多いです。結婚しない、結婚遅い、離婚多い、独身主義など、ネットではよく議論されます。しかし今回のデータでは、29.32%の青年が恋愛への憧れを表しました。

恋愛したくない人はわずか1.56%。12.6%の青年ネット民が結婚に対して積極的な表現があり、わずか2.7%の人が結婚したくないとはっきり表現しました。また、82.5%の青年ネット民が関連の意見を言わなかった。この割合は随分高いですね。

2、生育について

中国青年ネット民は全体的に生育の意欲が消極的でした。消極的な人は積極的な人の4倍で、わずか7.6%の人が生育の話題に積極的な意欲を表し、子供が欲しいと主張しました。一方で29.4%の人が、生育について回避と抵抗な態度をはっきりと表明していて、将来も子供が欲しくないと表現しています。また、2人目についてはより消極的な態度をとる若者が多かったです。わずか0.4%の青年ネット民が2人目に対して積極的な態度をとりました。40.4%の人が、2人目の子供に対して回避と抵抗をはっきりと示しています。

そして、意外的にも、男性の生育意欲が女性より低いです。生育意欲のある女性が女性サンプルの11.7%を占めるに対して、男性が男性サンプルの8.9%を占めます。また、生育意欲のない女性が女性サンプルの37.4%を占めるに対して、男性が男性サンプルの57.3%を占めます。

ひとまず今回はここまで。このレポートは現代の中国のZ世代の価値観を知ることに非常に有効なものだと思います。需要があればまた後日続きを書きたいなと思います。

(参考資料)


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