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持続可能なゲーム社会(Sustainable gaming)

本記事は、ベルギー在住のボードゲーマーAlexandre Santos氏のブログ(Ludi Tabularium)記事「Sustainable gaming」の翻訳である。環境問題とボードゲームというやや新規性のある話題事項であったことから訳出した。
環境をテーマにしたボードゲームが多数紹介されており、それを見ているだけでも楽しい記事となっている。

とはいえ、説教くさいと感じる人も多いかもしれない。眉をひそめて、こんなことはゲームとは関係がないと思う人も多いかもしれず、Kickstarterで"豪華な"ゲームを蹴ることに無類の喜びを感じる人には不愉快に思うかもしれない。ただ、ボードゲーム業界を取り巻く問題の1つとして、環境問題は軽視できない事柄となっているようである。どうであれ、直面している環境問題に対応せざるを得ない業界は変化を迫られ、我々も間接的にその影響を受けることになる。

原文の表現は硬く、言い回しもインテリ的である。直訳すると岩波文庫の青色並みの硬さになったり、文意が取れなくなるので、できる限り語義通りにした上で必要に応じて訳文をポップにしてはいるが、やはり文章の硬さは残ってしまった。ひとえに訳者の力不足である。誤訳等があったらご指摘いただけると幸いである。

毎回述べるのも野暮ったいが、本記事の翻訳・掲載については、Alexandre Santos氏の許諾を得ている。また、前回記事にもあるとおり、元記事ではBGGにアップロードされた画像・写真を転載している。これらは引用の範囲にとどまると思われる。本記事においてもその範囲にとどまると考えて転載し、クレジット表記をしている。画像や写真のリンクは、手間ではあるが元記事に掲載されたものを参照されたい。
また、ヘッダー画像は、宮島信太郎氏の作品を用いた(noteのみんなのフォトギャラリー機能を利用)。宮島氏のページも併せてリンクを貼っておく。

Alexandre Santos氏の元記事は以下のリンクを参照されたい。

世界は僕らの手の中
クレジット: Kristi Weyland

この20年の間に、気候変動が現実に起こっているということが、人々の意識の中で明白で喫緊の問題となりました。最高気温はほとんど毎年のように更新され、大規模な森林火災、広範囲の干魃や洪水が発生しています。生物は入れ替わるか消滅し、熱帯病は新たな地域に広まっています。変化が起こることや将来待ち受けることに圧倒されたように感じたり、否定や逃避に走ることは簡単です。しかし、愕然とした状態から抜け出し、主導権を取り戻す必要があります。このために、直面している環境問題を調べて対処法を学ぶほかありません。

最も差し迫った環境問題は、気候変動、汚染、資源の枯渇、そして生態系の多様性が失われることです。この問題全てが地球規模であるため、個人では無力で取るに足らないことしかできないと思ってしまうでしょう。しかし、私たち全員がこの世界の一部であると同時に、変化を起こした当事者でもあり、この変化の被害者でもあるのです。そうすると、未来を決定する上でどの役割を演じたいかを決めるのは私たち次第です。

最初に環境問題を意識したSFの1つである「デューン 砂の惑星」では、主人公が、"物事を破壊できる者が、物事を支配する"と言っています。しかし、物事には両面があります(it goes both ways)。もう一面とは、私たちは、生きている環境を破壊する力を手に入れてしまったことで、環境問題に取り組まなければならない義務から逃れることができなくなった、ということです。環境問題に対する主導権を取り戻すことで、当事者意識(a sense of agency)や目的意識を育むことになります。さらに、費用と制約が利点や機会に変わるにつれて、私たちは行動の新しい側面を発見したり学んだりし始めるのです。

そこで、ゲーム業界の当事者である、出版社、コンテンツクリエイター、ゲーマーが、選択や行動において直面することとなる、このような問題に対して何をすべきでしょうか。ゲームそれ自体はどうでしょうか。ゲームはそのようなテーマをどう扱ったらよいでしょうか。

ゲーマー、もしくは家庭
私たちが環境に与える影響は、主に、仕事と私生活という2つの側面を通して介在しています。今日では、気候変動に対する人間活動の与える影響は、消費により発生するカーボンフットプリント(※商品やサービスの原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの)を単位として数値化されることがよくあります。家庭のカーボンフットプリントが計測されて、炭素排出の主な原因別に分類されます。

支出額別の人口1人当たりのカーボンフットプリントの内訳(インドのデータ)
クレジット: Jemyung Lee等, 2021

上のグラフによれば、家庭でのカーボンフットプリントの値に関する主なポイントは、エネルギーと食品に関係しており、収入が高くなるにつれて交通(輸送)と商品消費が重要となっていくということがわかります。結局、家庭での主な環境への影響は、子供を産むか(もう1人産むか)どうかとか、住宅の種類や食品消費とかと関連しています。

住宅の種類と場所はエネルギー、交通、資源消費に影響を与えます。つまり、新築を建てるか、古い家を改築するかどうかは、エネルギーや資源消費に異なる影響を与えますし、田舎で孤立した生活を送れば、コンパクトな都会での生活よりも、交通による消費を必要とします。同じように、定期的に肉を食べることは、野菜中心の食生活(plant-based regime)を好むよりもはるかに多くの資源を注ぎ込むことになります。

家庭におけるカーボンフットプリントの内訳を検討すると、ボードゲームの製造はとるに足らない量にとどまり、個人が大きく力を入れるほど(deserves a big investment)の問題ではありません。このことから、消費者がボードゲームの生産の環境負荷について考える必要がないことにはなりません。むしろ、情報に基づく決断を容易にするための指標が必要になるということです。

出版社
他方、ボードゲーム業界で仕事をしている人々には、事業で生ずる環境負荷を最小限にする方策を講じる責任があります。このことは、どこでゲームを製造すべきか、どんなコンポーネントや材料にするかを決定している出版社にとって懸念事項となります。

出版社の中には、例えば、業界の活動が環境に与える影響についてより理解を深めるといったように、これらの問題に対処するための取り組みを始めたところもあります。フランスでは、ボードゲーム出版社団体(Union des Éditeurs de Jeux de Société, ※正式な和名はないと思われるが、あれば御教示いただきたい。)が、3つのボードゲームフォーマット(大型ゲーム、標準的ゲーム、小型ゲーム)の製造に係る環境負荷に関する白書の作成を委託しました。この研究は、"ル・モンド"(Le Monde, ※フランスの新聞)の記事に取り上げられ、ボードゲームニュースサイトLudiGaumeでも紹介されました。

UEJ(Union des Éditeurs de Jeux de Société)の構成員
クレジット: LudiGaume

上記の研究では、例えば、小さいサイズのカードに関して、その輸送距離に相当する値をカーボンフットプリントの値に関連づけて、ゲームの製造に係るカーボンフットプリントを試算しました。

小型車両による輸送距離に相当する値に基づいて試算された、中国で製造された3つのフォーマットのゲームに関するカーボンフットプリントの値
クレジット: LudiGaume

ゲームにおけるコンポーネントのサイズや量が、製造でのカーボンフットプリントの値に大きな影響を与えていることは明らかです。しかし、実際にゲームで遊ぶ状況(usage)に関するカーボンフットプリントも、考慮に入れなければなりません。もし、自宅で大型のゲームを4人で遊ぶ場合(※3人の友人を自宅に招くことになる)を考えてみましょう。1回のゲーム会(game night)のために3人が車で移動して、もし、3人の平均移動距離が7キロメートルや4マイル以上になれば、ゲーム製造による環境負荷を上回ることになります。

先ほど述べた白書では、製造場所から最終目的地までの距離もカーボンフットプリントの値に影響することが示されていますが、この関係は線形(linear)ではありませんし、最適化が必要な多くの問題に左右されてしまいます。輸送に係るカーボンフットプリントに多大な寄与をしている国際輸送(国から国への輸送)と最終輸送(final distribution, ※ディストリビューターから消費者への輸送や国内の輸送といった最終目的地までの輸送を意味する。)を比較対照することも、興味深いことでしょう。

1000個の大型ゲームをオランダ、ポーランド、中国からフランスへ輸送した場合のカーボンフットプリントの値と、配送センターから懇意にしている近くのゲームショップ(FLGS, Friendly Local Game Store)までの距離が100キロメートル、300キロメートル、500キロメートルと遠くなった場合の影響
クレジット: LudiGaume

先ほどの研究では、素材の選択が、カーボンフットプリントだけでなく、その他の面に大きな環境負荷を与えることを示唆しています。

オゾン層、発がん性、エネルギー消費、資源枯渇に与える影響について、ボール紙を使用する場合と金属を使用する場合とでカーボンフットプリントの値を相対的に比較したもの
クレジット: LudiGaume

レポートでは、直ちに捨てられてしまうようなプラスチックの量を減らしていくために、消費者が想定している梱包の方法を変える必要があるとの指摘が論理的にされています。このことは、シュリンクを施す(shrink-wrap)か否かという話にとどまりません。例えば、Fantasy Flightのボール紙のインサートは、ゲーマーからよく非難されていますが、すぐに捨て去られてしまうようなプラスチック製のインサートよりも環境負荷は小さいのです。

ほかの出版社は、ゲーム製造の環境負荷を減らすための努力を発信してきています。例えば、Stonemeier Gamesは、月々の環境報告書を作成し始めており、この出版社の(環境問題に対する)意欲を暗に示すものとなっています。

2021年8月のStonemeier Gamesの製造報告
クレジット: Stonemeier Games

クラウドファンディングのプラットフォームを活用しながら、より環境を意識した新しいゲーム製造のモデルを開拓するための特筆すべき取組み(initiative)として、Earthborne Rangersがあります。このゲームは、現在の文明崩壊後の世界を舞台に、プレイヤーたちのコミュニティが住む谷の防衛を行うというアドベンチャーカードゲームです。

そのクラウドファンディングのキャンペーンは、ゲームの現地製造を実現できるように、大陸ごとに支援者を分けました。そして、現地製造を円滑に進めるために、特注ダイスのようなコンポーネントを使わないようにしていました。

Earthborne RangersのTTSモジュール
クレジット: Destructoid

このキャンペーンのアプローチがどのように課題を解決していくかを見守るのは面白いことになるでしょうし、なによりも、ほかの出版社にとって、このコンセプトの証明(a proof of concept, ※概念実証、新たな概念やアイデアの実現可能性を示すために、簡単かつ不完全な実現化を行うこと)や市場による妥当性の検証になることを願っています。

コンテンツクリエイター
ボードゲーム業界に大きな影響を与える、もう1人のボードゲーム業界人(もしくは、熱心なホビイスト)は、コンテンツクリエイター(※ブロガー、YouTuberなど)です。コンテンツクリエイターは、一般の人々に対してゲーム製造の持続可能性を向上させるように伝えたり、情報を提供したりする重要な役割を担っています。

Gus & Coというゲームブログで提案されているアイディアは、使用素材と輸送という点でゲームの持続可能性の度合い(the game sustainability performance)を示す、"エコスコア"に従ってゲームを評価しようというものです。そこでさ、考える出発点となるような簡単な尺度を提案しています。

"現地"で製造されたゲーム。例えば、同じ大陸で再生可能な素材(紙、ボール紙、木)で製造されている。

"現地"で製造されたゲームで、一部再生可能ではない資源や汚染物質(プラスチック、金属)を使っている。

世界中に輸送されたゲームだが、ほとんど再生可能な素材を用いている。

世界中に輸送されたゲームで、一部再生可能でない資源や汚染物質(プラスチック、金属)を使っている。

ほとんど再生可能でない資源や汚染物質で作られたゲーム。

エコスコアのような取り組みが一般の人々やコンテンツクリエイターの間で広まっていけば(gain traction)、出版社はこのようなコミュニケーションツールを採用して、ゲームの宣伝をするようになるでしょう。幸いにも、このような問題に積極的なコンテンツクリエイターがどんどん増えています。例えば、One Pip Wonderの環境に優しいゲームの評価に関するビデオを見てみるといいでしょう。

どのような形式であれ、この趣味への情熱を共有している人たち全員が、ボードゲームの会話の中に、ゲームの持続可能性に関する話題を入れ込んでいって、意識を高めていき、良い取り組みに対して有利となる市場を作るべきでしょう。

ゲーマー
ゲーマーは、金を使った投票(voting with their wallet)にとどまらないボードゲーム業界のカーボンフットプリントに対する責任を負っています。線形/採取型経済(linear/extractive economy, ※普通の経済活動のことで、資源を搾取して消費していく社会を循環型社会の目から見た言葉のようである。)から循環型経済への移行は、消費者が単なるゴミの生産者ではなく、製品の価値を維持しようとする循環の鎖の中で鍵となる媒介者であることを意味します。

ボードゲームには、二次流通市場(※ここでは、CtoCの市場・個人間の取引を指す。)が高度に発達しており、循環型経済に向けたとても強力な基盤があります。そして、ボードゲームは、壊れやすい素材で作られている割には、驚くほどその価値と状態(use)を維持しています。

それでもなお、現地での取引、手渡しの取引(non-shipping exchange)、大量の取引(※原文ではmath-tradeだが、mass-tradeの誤記と思われる。)を推奨するなど、このような取引における輸送のカーボンフットプリントを考えるのは面白くなりそうです。輸送コストの増加のせいで、しばしば、このような取引はほぼ必須となっています。

ボードゲームの線形モデルから循環型モデルへの移行
クレジット: researchgate

持続可能なゲーム製造の利点
よくあることですが、より持続可能性の高いゲーム製造のモデルであれば、想定できた利点と想定外の利点が生じそうです。クラウドファンディングは、ボードゲーム業界であまり実績のない者や新規参入者に対する資金調達を促進したので、製造手段がより一層中国に集中することになりました。

現地製造の環境(infrastructure)を整えることにより、地域経済を発展させ、多様化させることができますし、ゲームの創作やデザインをより親しみやすく、現地の需要に合わせたものとなります。このことは、例えば、大量印刷するには主要言語に依存されるといった、よくあるゲームの翻訳の問題も含みます。より地域に根ざした製造拠点があれば、ゲームデザイナーの層の多様化に貢献することになりますし、今ところ無視されたり認知されていなかったりする市場に合わせることもできます。

製造や輸送のサイクルが短くなれば、大量でリスクの高い印刷に左右されず、出版社のリスクも減り、ゲームの修正や改善にも貢献することでしょう。

もちろん、この影響は予測困難で、認識されてない要因によって、目減りしたり悪化したりするかもしれません。しかし、直感的にいうと、現地製造に対して有益な影響があると考えるのが合理的であるように思えます。

持続可能性の問題におけるゲームの役割
ゲーム製造の環境負荷の話に加えて、他の文化的な製品のようにゲームは、気候変動やその他の環境問題に関する議論に参加するためのメディアになる可能性を秘めています。そこで、ゲームがどのレベルでそのようなことをしてきたかについてみるのは興味深いことと思います。

意識の向上
ゲームは、ゲーマーが環境問題に関する意識を高めて共有する手助けを行うことができます。このことは、ゲーム中に起こるイベント等に基づく物語要素によって、しばしばゲームの内容とは無関係に(tangentially)行われます。

ゲームは、単に、環境や生態系のような要素をテーマとして中心に据えることで、それらに対する意識を向上させることができます。

プラネット・メーカーは、高い生物多様性をもつ世界を創るために、個々の3D惑星の中でバイオーム(生物群系, ※"各種が住みやすい地域"、"棲息地域"という程度の意味で使ってるかのように思われる。)をプレイヤーに作り上げてもらうゲームです。

このような傾向を持つもう一つの例は、様々なバイオームに住んでいる鳥をテーマの中心に据えたウイングスパンでしょう。プレイヤーは、鳥類愛好家となって、自分たちの管轄下にある保護地の多様性を最大化するために、あらゆる鳥類の間の相互作用のネットワーク(interaction networks)を発展させて、鳥を惹きつけようとします。

3つのバイオーム/列におけるタブロービルディング
クレジット: Mark O'Reilly

このゲームでは、環境問題について一切触れられていませんが、生物多様性の高い環境を達成するという理想と現在進行形の現実(the reality of the current situation)が示されることで、何が望ましい結果なのかを暗に説明しています。

時として、設定を説明するに当たり、環境問題が想起されることがあります。アンダーウォーターシティーズでは、人類は地上での人口過剰から逃れるために海洋に移住しています。ブラックエンジェルでは、プレイヤーは、無責任な振る舞いから天然資源が枯渇して地球が居住不能となった後、人類が新しい居住地に到達するために恒星間航行船を管理しなければなりません。こういったゲームでは設定を説明するだけのために環境問題に触れていますが、競争の文脈の中での協力の問題は、ゲームプレイのメカニズムの一部となっていることは間違いありませんし、我々の窮状の起源に関する社会的な解説となっています。

Living Planetでは、プレイヤーは、新しく発見された惑星の資源を皮肉にも搾取し、プレイヤーのアクションが単なる利益競争のスピードバンプ(減速帯, ※これ)にしかならない激変(cataclysms)を引き起こし、私たちには第2の地球がない(we have no planet B)のに対して、架空の悪徳資本家には住むべきほかの惑星があるといったニュアンスを含んだ、警句的な物語としての機能を果たしています。

太陽系外惑星での搾取型経済
クレジット: Daniel Thurot

ロールプレイングゲームでは、しばしば環境問題が設定の説明に用いられています。特に、Cyberpunk 2013ShadowrunBlue PlanetのようなSFの世界観においては、プレイヤーがアクションを行う世界が、環境変化や社会的変化が大きく、旧来の勢力が崩壊して新しい体制が台頭する場所であるとの説明のために用いられます。

理解を深める
環境問題を意識するにとどまらず、ゲームはこれらの問題の本質をより深く理解させることもできます。

マリポーサのようなゲームにおいては、渡りチョウの生存が脅かされていることは、人間が広大な土地を占領していることとメカニズム的にリンクしており、人間の活動と種の生存の相互作用を示しています。テラフォーミング・マーズでは、プレイヤーに、気候変動に対する人類が与える影響の究極型ともいえる、テラフォーミングに参加するようにします。

温暖化現象が望まれる結論となる時
クレジット: Maeddes

Oceansでは、プレイヤーは、お互いに豊かで進化していく関係を進展させる生物種を創り、プレイ中に切り替わる環境ルールにより作られた(modeled)進化していく環境条件の影響を常に受けることになります。

気候の(生物に対する)影響は、姉妹作のEvolution: Climateでより深く探究されています。このゲームでは、プレイヤーが、特定の生物種を優遇したり冷遇するための戦略として盛んに気候を修正することができます。 

勝つために気候をうまく調整する
クレジット: Mark Chaplin

進化をもたらす気候という観点から、種と環境との間の関係について探求した別のゲームとして、Dominant Speciesがあります。プレイヤーは、氷河期にまもなく入る地球上の縮小していく生息地をめぐって競争します。

ビデオゲームは、ほとんど初期の段階から、進化をもたらす統合化されたシステムとして気候を広く取り上げてきていたことがわかります(exemplification)。"惑星シミュレーター"であるSimEarthが好例でしょう。そのゲームでは、プレイヤーが、シミュレーション上の惑星の地質や気候に介入することで、感覚を持つ生命体(sentient life forms)を進化させようとします。このゲームが特に優れていたのは、一見すると小さな変化が、気候と個体数の変化を組み合わせることで、どうように種の生存に大規模な結果をもたらすのかという環境の相互依存性をうまく示す点にありました。

繁栄する生態系を作り上げることは大変な仕事だ
クレジット: David McBride

ほかのゲームでは、非常に限定され、人類にとって制限が課されてしまった世界に対応しようとする困難な課題を取り上げてきました。意外にも中世を舞台にしたAntiquityが良い例となるでしょう。そのゲームでは、プレイヤーは、急速に枯渇する天然資源に対処しなければならない中で都市を発展させることの両義性(ambiguity)をつきつけられます。

The Costは、プレイヤーに対し、環境的・人的コストが必然的に伴うアスベスト業界で、経済活動を発展させる苦悩をつきつけてきます。

成功の外部性(外部不経済)
クレジット: Marlon Kruis

ほかのゲームは、より一層、プレイヤーを挑発するような冷酷なものとなっています。シミュレーションゲームのMeltwater: A Game of Tactical Starvationでは、2人のプレイヤーが減少していく資源をめぐり争い、現実世界の限界を無視したイデオロギーの自滅的な性質を表した虚無的な(nihilist)結末を突入していきます。

苦々しい勝利の味
クレジット: Joe

必ずしも環境問題に焦点を当てていませんが、SHASNでは、プレイヤーは政治家となり、選挙区を獲得し、敵対する政治家を弱体化させるための政治方針を作り上げて、政治的な苦難や、重要な社会的な課題を手段として利用することについて洞察を与えます。

行動のきっかけ
ゲームは、認識や理解を超えて、環境問題に関連した状況に対処してやり遂げるための行動をプレイヤーに起こさせることもできます。

Blades in the Darkのシステムをベースにした、サイバーパンクRPGのHack the Planet: Cyberpunk Forged in the Darkでは、プレイヤーキャラクター(PCs)は、気候変動の問題や気候変動避難民(climate refugees)にとっての社会的正義の課題に焦点を当てたミッションをこなすことによって、主体的に行動させます。テーマ設定は環境問題を中心としていますが、プレイヤーキャラクターにより指揮されるミッションの種類は、プレイヤーキャラクターが傭兵というよりむしろアクティビストであるという点を除けば、実のところ古典的なサイバーパンクのジャンルと大きく変わるものではありません。

同様に、Terra Oblivionでは、世界滅亡前夜の未来を舞台にして探索し、プレイヤーキャラクターが環境スパイ活動という危険な冒険に身を投じて、滅びかけた世界を救う戦いに参加します。

堂々と環境破壊を救う
クレジット: Jerry Greyson

緊急行動(Immediate action)は、石油流出により起こる環境災害をテーマとした近日発売されるボードゲームであるThe Spillの中心的なテーマでもあります。

"エンビンビルダー"(engine builders)といったゲーム用語や、4Xジャンル(探検、拡張、開発、殲滅)全体といった実例を挙げればわかるとおり、ゲームは、指数関数的な成長と拡大により、しばしばプレイヤーに充足感をもたらします。したがって、資源が制限されたり、減ったりする設定をプレイヤーに突きつけることは、挑戦的になるかもしれません。そうは言っても、おそらくこの苦悩は、現実の限界より多くの錯覚を招くものです。というのも、"〜の後にゲームが終了する"という雑なラウンドでの選択肢の代わりに、ゲームの終盤フェイズのプレイにおいて、緊張感とリズムを保つために、選択肢の段階的な制約(a gradual restriction of options)から利益を得ることが多いからです。

ビデオゲームに関していうと、人気ゲームのモッドや拡張の中には、気候変動の問題や、気候変動がプレイヤーの行動にどのような影響を及ぼすかといったことを中心としたものがあります。影響力のある4XのCiv系ゲームであるシドマイヤーズ シヴィライゼーション VI 嵐の訪れでは、プレイヤーが開発を計画する際に、考慮に入れなければならない自然現象を発生させる、世界の生態系をシミュレートする機能を加えました。

別の例として、マインクラフトGlobalWarmingと呼ばれるモッドがあります。これは、プレイヤーの活動が世界に(影響を)与えるフィードバックループを実装しています。例えば、鉱石を精錬したり、かまどを使って調理したりすることで増幅するCO2のパラメーターが実装されており、共同して地球温暖化を促進し、森林火災や嵐のような損害を発生させるイベントを引き起こしますが、植林して二酸化炭素レベルを下げることによってそのような(イベントの)影響を緩和することができます。人間の活動に対する新しいフィードバックループがゲーム内に投入されており、プレイヤーが住む世界の活動を制御する機会を与えて、これをプレイヤーに理解させる必要があります。

このようなアイディアは、Ecoというビデオゲームの中核的な体験として開発されてきました。Ecoはオンライン多人数用ゲームで、プレイヤーの行動が、限りある資源とシミュレートされた生態系を持った環境に影響を与えながら、プレイヤー同士が仮想の経済市場で協力するゲームです

プレイヤーは、ゲーム進行中に自身が公害や過剰開発により世界を破壊することなく、世界を脅かす隕石を食い止めるために必要となる技術インフラを作り、築くために協力しなければなりません。

不確かな未来を築く
クレジット: Alice Bell

責任の所在が不明瞭で、皆で共有して負わなければならない長期的コストに対する短期的な個人的利益のバランスを取る必要があるという環境問題の性質上、ゲームによるモデル化は挑戦的なものとなります。そうでなければ、全員が敗北する条件(general loss conditions)を備えた競争ゲームにおけるデザインの余地(this design space)は、環境問題とは無関係にであれ、協力ゲームの例にみられるとおり、ボードゲームにより探求されてきました。

エイリアンに着想を得た設定のゲームであるArgoを例にすると、プレイヤーは利己的に自分の乗組員を救出しようとしますが、最低限の協力を得られなければ、プレイヤー全員が、どのプレイヤーにも属さないエイリアンに敗北するというリスクを負わなければなりません。もう1つの例として、完全な競争ゲームであり、環境問題をテーマにしていないCrisisがあります。ただ、このゲームでは、ゲーム中に、プレイヤーが共同で勝利点生成の基準値(thresholds of victory point generation)を管理しなければ、プレイヤー全員が敗北する条件が発動することになります。

沈む経済下での繁栄
クレジット: Jakub Niedźwiedź

多くのゲーマーが、こういった(※全員敗北条件のある)協力ゲームや協力ゲームの実現可能性に疑問を覚えます。しかし、それは、気候変動に係る政治問題が提起する難問であり、実用的な解決策を見つけなければなりませんし、この疑問を、ゲームデザインと政治とを混じり合わせた興味深いものにさせます。ゲームデザイナーが世界政治の解決に一役買うなんてことがあるのでしょうか。

当然、環境テーマのボードゲームでは、競争ゲームであることが一般的です。CO2では、プレイヤーはエネルギー供給者になって、開発戦略の中に政府の法的規制や気候変動によるシステム上のリスクを織り込んで行動しなければなりません。そうしなければ、プレイヤー全員が敗北するという可能性に直面することになります。

キープクールは、目標を達成するために政府、圧力団体、利益団体、権利擁護団体と交渉する必要のある意思決定者の立場にプレイヤーを置き、激変する環境による影響を緩和し、世界全体が崩壊する気候変動を避けようとします。このゲームは、教育的な価値が高いことにより称賛を受けてきましたが、ゲームプレイの面白さはそこまでなく、どちらかというと教育的・コミュニケーション的なツールの側面が強いといえます。

協力プレイを通じて素直に環境問題を探求できる別の興味深い作品として、Terraがある。子供でも遊びやすいコンパクトなゲームプレイで、このような問題を何とか前面に持ってくることに成功しており、もっと流通して利益出すことができる隠れた宝石のような作品でしょう。

陽気に世界を救うか否か
クレジット: Jolly Thinkers

協力型タブロービルディングゲームの枠組みでこういった問題を扱う、今後発売されるタイトルとして、Tipping Pointがあります。そのゲームでは、プレイヤーは街を建設して人口を最大化しようとしますが、共通プールとなっている、CO2レベルが増加とその後に起こる全プレイヤーに影響する異常気象イベントに対応しながら、人口の基準値に到達しようとします。

とはいえ、多くのゲーマーが、より標準的な協力の観点(lenses)を用いてこの問題に取り組んでいます。この例として挙げるもうすぐ販売予定のゲームは、Daybreakでしょう。このゲームでは、プレイヤーは世界の権力者となり、気候変動の問題に対処するために政策や技術を展開させ、自分たちの社会を環境課題に対して立ち直りやすくさせようとします。

より良い二ューノーマルの創造
環境に責任を負った社会の作用(an environmental responsible society function)とはどのようなものになるでしょうか。何が、人間の活動、安定した気候、豊かな生態系の間の均衡を保つメカニズムの基盤となる原則になり得るでしょうか。

そのような社会では、新製品の商業化をするにはそのライフサイクル(※製造から廃棄まで)全体が研究され、再利用やリサイクルが促進された後に限り許されることが保証されるといった、循環(型社会)の原則に従うと予測する人もいるでしょう。市場の規制は、科学的データや人々のニーズを考慮に入れた、実働している運営機関(functioning governing bodies)を通した環境的な外部性(※"環境に対する影響度"の意味と解される)と関連していると思われます。しかし、この全てをもってしても、そのような業績を確実に上げることができる政治的な組織を構築する方法についての説明になっていません。

したがって、火星をテラフォーミングに焦点を当てたゲームがあるように、そのような思索的な分野(speculative space)に取り組むゲームにとって未開拓の市場があります。そのような設定に挑んだゲームの例は、やはり、競争モード(※原文はcoopetitiveだが、competitiveの誤記)に加えて、プレイヤーが一緒になって困難な環境課題に対峙する協力モードが搭載されたTerraになります。残念ながら、楽観的な見た目に加えて、そのような協力の土台となる要素については何も語られてないままなので、テーマやメカニズムの観点から、この話題を掘り下げる余地が多くあります。

最終的な考え
業界の環境負荷を減らす取り組みを行う出版社が増え続けていることには、とても勇気づけられます。このような努力は、コンテンツクリエイターやゲーマーに評価されるにふさわしいものですし、ゲームに関する会話の中に、持続可能性に関してより多くの注意が向けられる必要があります。

ゲーマーは主体性を強く望み、ゲームが提供する選択肢の質を求めています。彼らの問題解決能力を私たちの社会が直面している最大の課題に役に立つようにすることにより、ゲームは、社会的、知的、文化的活動としてより重要となるのです。

以上

(追記)
この記事に対する反応として、レガシー系ゲームは環境負荷が高いという指摘があった。この記事には掲げられてない視点であり、そのとおりだと思われる。

※同じ著者の記事として、ソロモードを類型化して分析した以下の記事がある。

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