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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter7-8


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【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流らいごうりゅう道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズはある男と出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇を遂げ、今度は南の地、那覇へと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固め、新たな秘密結社を立ち上げたが、次々と問題が噴出。ついには脱走者も出てしまう…。

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第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter7

 プロフェッサーたちが脱走してから二日がった。マサカズたちは昨日も捜索そうさくに出たが、手がかりらしいものは何ひとつとして見つからなかった。老齢ろうれいのプロフェッサーが岩場やがけを乗り越えられるとは考えづらく、捜索範囲をできるだけ平地にしぼり込むことにし、この二日間で島の南半分はほとんどさがし尽くした。今日からは北半分をめぐることになるが、そもそも地図がないため、行き当たりばったりで目星めぼしをつけていかなければならず、起床したマサカズの気分は空模様とは裏腹うらはらに晴れやかではなかった。
「ボス、大変です」
 け寄ってきたアイアンシェフは細かくまばたきをし、表情もこわばり、声もふるえていた。
「どうしたの?」
「ついさっきフリーダムと見張りを交替したんですが、荷物が減っています」
 現在の時刻は朝七時半時で、シフトではフリーダムからアイアンシェフへ見張り番が入れ替わるタイミングから三十分が経過している。マサカズはチェアでスマートフォンをいじっているフリーダムの元まで行くと「フリーダム、なにかあったのか?」とたずねた。
「別に……ってか、なんで荷物の確認なんてするん? 意味不明」
 不貞腐ふてくされた様子でフリーダムがそうぼやいた。アイアンシェフは腰に手を当てて身をかがめると、フリーダムをにらみつけた。
「いや、外に置いていたバッテリーがなくなってるから、僕、君に聞いたよね? なのに君がごにょごにょと口ごもるから、念のために他にもなくなってないか確かめたんだ」
「アイアン、なくなってるのは何?」
 マサカズの質問に、アイアンシェフはテントの脇に積まれていた段ボール箱に目を向けた。
「バッテリーに医薬品がいくつかと、ロープです」
「フリーダム、君が見張りをしている間、本当に何事も起きなかったのか?」
 マサカズがそうたずねてみたところ、フリーダムはごろりと背中を向けてしまい、返答はなかった。
「プロフェッサーたちの仕業以外あり得ない。ロープの使い道はわからないけど、薬は彼らにとっても必要不可欠だからね。君が見張っているとき、こっそり現れて盗んでいったんだろうけど……気づかなかったのか?」
 しかし、フリーダムからは何も返ってこず、彼はマサカズに対してチェアの上で小さな背中を向けたまま、スマートフォンにだけ向き合っていた。するといつの間にかやってきたデスサイズが、彼の手首をつかみ、上体を強引に引き起こした。
「どうせ居眠りでもしてたんでしょ? 違う?」
 強く言い放つと、デスサイズはフリーダムをにらみつけた。フリーダムは視線をらし、何やらぶつぶつと口ごもった。
「ふざけないでよ!」
 デスサイズはフリーダムのほおを張り、マサカズに「取り戻しましょう、ボス」とげた。

 マサカズとデスサイズは、砂利道じゃりみちを北に向かって進んでいた。出発の際デスサイズは、強奪自体がわなの可能性もあり、待ち伏せの危険を想定しておくべきとの懸念けねんを口にしていたので、マサカズはあらかじめ鍵の力をアンロックしていた。
「フリーダムはアテにできませんね」
 紫のTシャツにジーンズ姿のデスサイズはそう言うと、マサカズの左手をつかんだ。
「まだ怖いの?」
「はい、敵には暴走族もいますし。いざとなったら守ってくださいね」
「もちろん。ただ、“敵”って言い切ってしまうのは、ちょっと抵抗あるかも」
「割り切ることが必要だと思いません?」
「そりゃそうだけどさ」
「ボスは超能力があるから余裕があるんですね。私なんて全然です」
「あぁ、それは確かにそうかも」
 納得をしたマサカズは、足元に石が転がってきたことに気づいた。どうやら、右の斜面から落ちてきたようである。落石の危険を気にして視線を上げると、三メートルほど先の断崖だんがいに二つの影があった。
「ゲバラ! アウトロー!」
 マサカズに呼び止められた断崖の二人は彼を見下ろした。敵意を覚悟したマサカズだったが、二人は目も泳ぎ、口元はわなわなとふるえ、困惑こんわくしたような表情だった。ゲバラは段ボール箱を抱え、アウトローは肩にロープを巻き付けていたので、彼女たちが強奪犯なのは明白だった。おそらく、強奪のあと休憩でもとっていたか、別の用事に取りかかっていたおかげで追いつけたのだろう。鍵の力は発動済みで、ロープを奪い返してそれで自由を封じることも容易ではあったが、できれば荒事にはしたくなかったため、マサカズは崖下がけしたから説得を試みることにした。
「二人ともキャンプに戻ってくるんだ。罰とかは全然考えていない! 五月五日の帰還までの間、みんなで楽しくキャンプしよう! 作戦の失敗はびる! ごめん! 帰ってきてくれ!」
「ゲバちゃん! お風呂に入りたいでしょ?」
 デスサイズがそう付け足すと、ゲバラは段ボール箱を地面に置き、眉間みけんしわを寄せ、こぶしを作った。
「うるせぇ! 手なんかつなぎやがってラブラブかよ!」
 下劣げれつな笑みを浮かべ、ゲバラはそうののしった。
「俺たちは、テメーらみてぇな悪の秘密結社に入るつもりはねぇんだよ!」
 アウトローもゲバラの尻馬に乗るような形でそう罵倒ばとうしてきた。
「エターナルは悪の組織なんかじゃない!」
 マサカズがそう反論すると、ゲバラは身を乗り出し、地面をって石を落としてきた。
「この島は人の土地なんだろ? そこに勝手にアジト作るなんて、悪そのものじゃねーか!」
 そう叫び再び地面を蹴ったゲバラだったが、彼女は身体のバランスを崩し、断崖だんがいから滑落かつらくした。デスサイズから手を離したマサカズは、落ちてきたゲバラを軽々と、そしてしっかりと両腕で抱き止めた。
「大丈夫か?」
 お嬢様っこの様な形になってしまったゲバラは、マサカズの問いかけにじたばたとあばれることで反応した。マサカズの手から逃れた彼女は、赤毛を振り乱し、彼を指さした。
「ぜってー許さねぇ! ぜってーだからな!」
 断絶を言葉にした少女は、砂利道じゃりみちけていった。崖の上にいたアウトローも段ボール箱をかかえ、彼女と同じ方向へと走り去っていった。
「追いかけましょう!」
 デスサイズはそう言ったが、マサカズは首を横に振った。
「あの様子だと、追いついたところで力尽ちからづくでないと戻ってきてくれそうにない。でもそれじゃ意味がない」
 再び手をつないできたデスサイズは、「確かに」と静かにつぶやいて賛同した。

 ゲバラのかたくなな態度からすると、彼女たちが困窮こんきゅうを理由に降参してくるのにはまだしばらくの時間がかかるだろう。何か大きなメリットを提示できれば軟化なんかもできるのだろうが、その“何か”はいくら考えても思い当たらない。この日の夜、夕飯を終えたマサカズは、波の音を耳にチェアでくつろぎながら、断崖だんがいでのゲバラとアウトローとの遭遇そうぐうを思い起こしていた。自分には人心掌握じんしんしょうあくの成功体験はない。こういった離反への対応方法も知らず、実のところこの作戦には、人間関係への備えが最も重要だったと思い知らされた。ナッシングゼロにおいて伊達は、絶妙なハンドリングで自分や老人たちをコントロールしていたのだとよくわかる。
 無人島で素性すじょうも分からない者たちとアジト作りなど、あまりにも無謀むぼうだった。建設資材が無事に届いていたところで、その先に無数の障害が発生し、そのことごとくに自分は打つ手をあぐね、傷口を広げるか放置するだけだったはずだ。嫌気いやけに見舞われたマサカズは、チェアに寝転がり、うめき声をらした。
「ボス、明日も捜索そうさくは続けるのですか?」
 き火を背にしたデスサイズがそうたずねてきた。マサカズは彼女を見上げると、下唇したくちびるを突き出した。
「そうだなぁ……やっぱり場所の把握だけはしておきたいかな」
「わかりました。でしたら明日もご一緒に」
「捜索範囲はけわしめのエリアも含まれることになるけど、大丈夫?」
「はい、ここ何日かで、体力もついてきたって感じなので」
「ほんと?」
 デスサイズはその問いに、ニッコリと微笑ほほえんだ。
「ウソです。けど、頑張がんばります」
 この数日のやりとりで、マサカズはデスサイズに対してほがらかで柔らかい気持ちをいだくようになっていた。彼女との交流は嫌気をまぎらわせてくれる。それがとても有難ありがたく感じたので、マサカズはあご無精髭ぶしょうひげをひとですると、彼女におだやかな笑みを向き返した。
「ボス!」
 駆けてきたアイアンシェフが、目をしばたたき虚空こくうを指さした。マサカズがその方向に目を向けると、三人の姿が入った。それはマサカズにとって信じがたい者達だった。アウトローとゲバラは苦悶くもんを表情に浮かべ、二人が手にしたロープの先には両腕ごと身体をしばられ、ほうけた顔をしたプロフェッサーがいた。マサカズはチェアから立ち上がり、三人のもとに近寄っていった。
「何があったの?」
 マサカズが問いかけると、ゲバラが鋭い目でにらみつけてきた。
「プロじいがおかしくなった。もう限界だ、オレたちは降参する」
 “おかしくなった”とされるプロフェッサーを見ると、彼は目もうつろで縛られているのにも関わらず、抵抗する様子もない。ゲバラの言葉が正しいと判断したマサカズは、“降参”という言葉にひとまず安堵あんどした。

 ゲバラとアウトローに聞き込みを行ったところ、脱走して島の北部に野営できそうな場所を見つけ、プロフェッサーの指示のもとテントを設営したが、昨日になって突然そのプロフェッサーが姿を消し、さがし出したところ彼は「家に帰る」と言いだした。それなら船を待とうと提案してみたところ、歩いて帰る、と支離滅裂しりめつれつなことを訴え、海岸に向かって一心不乱いっしんふらんに進んでいったとのことだった。アウトローが力尽くで止め、テントまで戻し寝かしつけ、今朝になって拘束のためのロープと医薬品、バッテリーを強奪しに来たとのことだった。
痴呆症ちほうしょうとかですかね?」
 ぼんやりしているプロフェッサーの様子をうかがい、アイアンシェフがそう指摘した。
「作戦の失敗でショックを受けて、気が動転したのかもね。プロフェッサー、現状ってわかってます?」
 マサカズがたずねてみると、プロフェッサーは頭をぶるぶると振った。
「なんで僕、しばられてるんです? なにかのゲームです?」
「いや、その……キャンプから抜け出したこととか、わかってます?」
「え? なんですそれ? それより早く解いてくださいよ。アジト作りはどうなってるんです?」
 認知に障害が生じていることは明らかだった。マサカズは拘束のロープを解くと、プロフェッサーをチェアに座らせた。このように時間や事象の認識が曖昧あいまいで行動に危険性が生じている場合、極めて単純で強力な言葉によって暗示をかけ選択肢をつぶす必要がある。以前、そのようなことを言っていたのは老齢ろうれいスタッフの草津だった。
「プロフェッサー、いや、プロじい。アジト作りは中止です。僕たちは五月五日にこの島を船で引きげます」
「中止?」
「資材が港で留められてしまったのです。失敗です。だから終わりです。残りの十日ほど、僕たちはここでキャンプ生活です」
 はっきりと、それでいて穏やかな口調でマサカズは状況を説明した。プロフェッサーは何度かうなずくと、目を閉ざした。
「で、降参だっけ?」
 ゲバラたちに振り返ったマサカズは、そう言って首をかしげた。
「ライターも切れて火も消えちまった。プロじいもこの調子でオレたちじゃどーにもできねぇ」
 くやしそうにゲバラはそう言うと、視線を地面に落とした。
「あらためてあやまるよ。ごめん。作戦は失敗だったし、確かに人の土地に勝手にアジトを作るなんて、悪の秘密結社呼ばわりされても仕方がない。エターナルは解散だ。僕が間違っていた」
 マサカズの謝罪にゲバラは小刻みに全身をふるえさせ、やがて瞳から大粒の涙をこぼした。
「なんでそんなにあっさりと謝罪できんだよ。すっかりキャラ変わってんじゃん。あたしだってさ、こんなキャラ作りしたかないんだよ。どっちかって言うと、いんキャだし。けどあんたたちがたよりないからさ、やるしかないじゃん。誰かがきょうキャラやんないと、前向きになれないじゃん」
 ぐずりながら、ゲバラはその場に崩れ落ちた。その背中を、デスサイズがそっとでた。
「ボス、どうします? プロフェッサーはともかく、ゲバラとアウトローは自業自得じごうじとくってやつですよ。降参を受け入れるんですか?」
 仏頂面ぶっちょうづらで意見してきたのはアイアンシェフだった。
「うん、受け入れるし罪には問わない。悪いのは全部僕なんだし、帰ってきてくれたのはうれしいだけだよ。残りの期間、せめて仲良く楽しくキャンプをしようじゃないか」
 マサカズの言葉に、アイアンシェフとデスサイズはうなずき返した。すっかり心を崩したゲバラは泣きじゃくりデスサイズに抱きつき、アウトローはうつろな目で親指の爪をんでいた。

 トラブルは何ら劇的な展開もず脱走者たちの自滅といった形で収束した。プロフェッサーに対して常に誰かが目を向けておくといった負担はあるものの、五月五日の帰還まで残すところ十一日間はキャンプを楽しむことにしよう。夕飯を終えたマサカズはデスサイズに連れられ風呂に向かうゲバラを見届けると、自分のテントに入って寝袋の中でおだやかに目を閉ざした。

「ご苦労さん。やっぱり自滅だったな」
 紫煙しえんをくゆらせ、銀縁眼鏡めがねの相棒がそうつぶやいた。
「ですね。想像していたのとはちょっと違う理由でしたけど」
「ガケから落っこちたゲバちゃんを抱き止めたのがよかったのかもな」
「かもです。アレで僕がちょっとでもたよりにできるって思ってくれたような気がします」
「あと十一日、どうすんだよ?」
「みんなで仲良く共同生活です」
「実のところ、ここからが楽しみなんじゃないのか?」
「はい、おっしゃる通りです」
「いい思い出が作れるといいな」
「そうであって欲しいです」
「しかし、問題は先送りだぞ」
「二ヶ月なにも起きてませんし、たぶん今後も心配ないでしょう」
「根拠にとぼしい楽観論だな」
「もういいんです。僕はなにをしてもダメだって、今回のことでよくわかりました。なら、なにもしないのが誰にも迷惑をかけずに済みます」
「せめて、俺がいればな」
「いないですし」
「すまない」
「おかしいです。これについてあやまるのは僕なんですよ。伊達さん」

 り返す波音とデスサイズとゲバラの笑い声を耳にしながら、マサカズは安らかな眠りに落ちていった。

第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter8

 プロフェッサーが認知に錯誤さくごが生じたため、叛乱はんらんは元のさやに収まる形で収束した。テントや食糧など奪った物資は夜のうちにキャンプ地まで元通りに返還され、平穏な空気のなか翌朝をむかえた。本日も快晴に恵まれ、春の陽気に包まれ、波音も穏やかだった。
 朝食のあと、キャンプ地でマサカズがゲバラに質問したところ、脱走の手引きをしたのは彼女であり、桟橋さんばしでマサカズと旅行代理店のやりとりを偶然耳にしてしまい、計画の失敗を知り、不安におそわれプロフェッサーたちを誘ったとのことだった。
「ごめんね。あたし、ボス以上に無謀だったと思う。そうだよね、そもそもがおかしかったのが、ちょっとだけまともに戻ったってことなんだよね」
 ゲバラは髪をアップにまとめ上げ、穏やかな様子で反省の言葉を述べた。マサカズは彼女から昨日までより幾分いくぶんだけ大人びた印象を受けていた。
「そう言われると自分のアホさ加減がよくわかるね。うん、そもそもなんだよね。こんな作戦、うまくいくはずもなかったんだ」
「五日には帰るんだよね」
「うん、僕たちは出会う以前の暮らしに戻る」
 マサカズの言葉にゲバラは目を落とし、下唇したくちびるんだ。
「あたしなんてモロにそうなんだけどさ、みんな、ここに逃げてきたんだよね。ロクでもない日常ってのから、なんかすごいことがあるかもってね」
 ゲバラがそう告白すると、後ろにいたデスサイズとアイアンシェフがうなずいた。ゲバラは小さく頭を振り、マサカズに笑みを向けた。
「ちょっと長めのゴールデンウイークってことにしておくかな? 残りの十日、せめて楽しもっか!」
「ありがとう、ゲバラ。そう言ってもらえるとうれしいよ」
「デっちゃん! お散歩しよーよ! ながめのいい場所見つけたんだよ!」
 “デっちゃん”と呼ばれたデスサイズは笑顔で応じ、二人は連れ立ってキャンプ地を出て行った。
「よかったですね、ボス」
 アイアンシェフはマサカズに話しかけると、戻ってきたバッテリーに小型のソーラーパネルを接続した。
「うん、ゲバラが、なんて言うのか、うまく言えないけど、なんだろう」
 言いよどむと、マサカズはちりちり頭をいた。
「中二ですから、考えとか気持ちがコロコロと変わるのはよくあることですよ」
 その説明が、自分のまとまらない気持ちを補足してくれる内容なのかどうかまではわからなかったのだが、マサカズはアイアンシェフの口調にしっかりとした自信を感じたので、それが意外だった。
「あ、僕なんですけど、妹がいるんですよ。新しい母の連れ子なんですけど。中一なんで、わかるかなって」
「へぇ……あとさ、ゲバラが中二って? そうなの?」
「ええ、船の中で言ってましたよ。ゲバちゃん十四歳だって」
 メンバーの年齢や経歴といった具体的な個人情報は、極力知ろうしないことを心がけていたが、それは組織としてのルールとして特に定めていない。自分の知らない所でメンバー同士が情報を交換していてもおかしくはないのだろう。“アイアンシェフには連れ子の妹がいる”といった個人情報を期せずして知ってしまったマサカズは、またひとつ自分が無茶なおきてを課していたことに思い至った。

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