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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第8話 ─国家に挑戦状を叩きつけよう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、後半戦の第8話が開始!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いをきざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

【遠藤正二朗 (えんどう しょうじろう) 】1970年3月3日生。父親は安部譲二氏。学生時代からその才能を発揮し、中学生にしてコミケデビュー。金子一馬氏と同じアニメ制作会社に在籍し、人気アニメの原画マンも担当。その後、出版社を経て、日本テレネットに入社。「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」などをメガCDで出し、セガサターンで「メタルファイターMIKU」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」などを手がけ、現在も現役として活躍中。現在『Beep21』に完全新作小説を毎週連載で執筆!

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主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗だてはやと)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

"ちりちり頭"と表現される主人公・マサカズ(左)と敏腕弁護士の伊達隼斗(右)。2人の友情と葛藤は必見です。 イラスト : RARE ENGINE

前回までの「ひみつく」は

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▼新たな挑戦者とミッションが描かれる「第6話」はこちらから

▼衝撃の展開が描かれる「第7話」はこちらから

【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。

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第8話 ─国家に挑戦状を叩きつけよう!─Chapter1 

 事務所の血だまりの中、へたり込み、茫然自失ぼうぜんじしつとなってしまった。かけがえのない存在を失ってしまったからだ。その翌日、マサカズは昨日に引き続き、代々木警察署の取り調べ室で、捜査官から事情聴取を受けていた。本来ならこの日は、朝から南多摩で幼稚園バスの見守りをするはずだったが、昨晩の時点で保司ほしに事情を電話で説明し、キャンセルを申し入れた。電話越しの保司は伊達の殺害報道にひどくうろたえた様子で、しきりにマサカズの身を心配してきた。マサカズは、見守りのキャンセルだけではなく、中目黒の半グレグループを無力化する件について、保司に説明をしなければならなかった。ホッパーはグループの全員を殺害してしまい、依頼内容に対してやりすぎてしまったからである。マサカズは釈明をするつもりだったのだが、その話を切り出した途端とたん、保司は「山田ちゃん、そっちはいいから。依頼主にはこっちで上手うまく処理しておくから、いまは自分の心配して」と、制されてしまった。

 昨日とは異なり、今日の担当は戸山という若い刑事だった。戸山はスーツ姿でネクタイはしておらず、シルバーフレームのメガネを着用し、髪は七三に分けていた。マサカズは戸山の外見と最初の軽いやりとりで、彼が大人しそうな人物である、との印象を受けた。ライダースジャケット姿のマサカズは戸山をにらみつける様に見据みすえ、机の上で両指を組んでいた。
 昨晩はサウナからカラオケボックスへ逃げ込んだものの、結局、日付が変わる前の深夜には自宅アパートへ帰宅した。ホッパーの襲撃しゅうげきも考えられうるので、一睡もできないだろうと覚悟していたが、気がつけばきっぱなしの布団の上で、スマートフォンを握りしめたまま朝まで寝落ちしてしまった。代々木警察署からの電話で目を覚ましたマサカズは、事情聴取の要請に応じ、昼前には代々木駅までやってきたのだが、そこに至るまでホッパーとの遭遇そうぐうはなかった。携帯電話にも応答はなく、自宅の住所は知っているので、その気になればこちらから訪ねるといった選択もできるが、マサカズはどうするべきかまだ考えあぐねていた。

「当日、事務所に出勤していたのは、被害者と、パートタイマーの木村さん、浜口さんの三名ということで、よろしいですか?」
「はい。ただ、木村と浜口の両名は、事件があった当時、新宿まで買い出しに出かけています。二人が事務所に戻ってきたのは伊達さんが搬送されたあとです」
「ええ、昨日の聴取でもそう言ってましたね。諒解りょうかいです。問題ありません」
 第一発見者で伊達の雇用主ということもあり、人間関係の近さから、マサカズは自分に殺害の嫌疑けんぎがかけられる可能性もあるのではないだろうかと用心していた。しかし昨日の聴取でマサカズは、犯行時刻に自分は代々木駅まで電車で移動中だった、うそのないアリバイを供述きょうじゅつし、警察も何らかの手段でその裏付けを終えているらしい。どうやら自分に疑いの目は向けられてはいない様だ。戸山刑事の質問は昨日の供述の再確認が大半だったため、確証こそ持てないままだったがマサカズはなんとなくそう感じていた。
「残りの二人、草津、寺西の両名についても山田さんの供述通り、犯行当時に草津さんは眼科、寺西さんは整形外科にそれぞれ通院していたことがわかっています」
「大前提ですけど、伊達さんは木村さんたちからしたわれていました」
「あー、そういった意味ではないです。犯行当時、現場にいても違和感いわかんのない人物たちの、当日の足取りを知る必要があるのです。我々は」
 それはつまり、犯行時刻に現地にいてもおかしくなく、その上でアリバイが不確かなら、現場か現場付近で、犯人につながる何らかの異変を目撃していた、といった可能性が発生する。警察としては、そこを捜査の糸口にしたい、ということなのだろうか。マサカズは推察してみたが、明確な回答まで辿たどりつけなかった。
「あとは……学生のアルバイトをやとっていますね」
 とうとうその存在が刑事の口から出てしまった。昨日の事情聴取では質問されなかった、昨日あの現場にいたはずの、最後の一人だ。ホッパーたけしは、まさしく殺害の実行犯そのものだ。
 昨日の段階で、マサカズは彼について、ある方針を決めていた。まずホッパーの逮捕は、すなわち鍵の秘密が国家に知られることにつながる。今回の件でも中目黒の半グレグループ“サマーリバー中目黒”の殺害事件も捜査が進めば、ホッパーの犯行にあの鍵が使われたことはすぐに判明する。そうなれば鍵の提供者である自分にも警察の手が伸びるのは間違いなく、これまで伊達と積み重ねてきた努力は水泡すいほうに帰す。中目黒の件ではホッパーの姿は防犯カメラに映っていて、おそらくは今回も街中のカメラに彼の姿は記録されているだろう。それに指紋や頭髪といった物的証拠も意に介せず残し放題だったこともあり得るので、こうなると逮捕は時間の問題だと思われる。
 鍵の秘密を守るには、二つしか方法がない。ホッパーを殺害する、あるいは説得による口封じだ。思いついたものの、いずれもが実現は難しく、現時点では不可能と言っていい。まず前者についてだが、マサカズは自分がホッパーを殺せるとは到底とうてい思えず、それは人殺しをしたくないといった心情的な拒絶が原因だった。そして殺すにしても説得するにしても、大前提として連絡のつかない者の居場所を特定することが困難だと思えた。井沢いざわの力をたよれば、吉田のときの様に足取りをつかめるかもしれないが、昨日の今日だったため、まだ連絡はできていない。もし、ホッパーともまだ交渉の余地があるのなら、その可能性の目をむのは得策ではないため、依頼自体はしておくべきでだとマサカズは考えていた。
 伊達の命を奪った者と交渉する。以前の自分なら、そのような高度な判断はできなかっただろう。感情的に怒りをぶつけ、戦いに勝ったとしても殺しきれずに途方とほうに暮れるのが関の山だ。しかし今は違う。伊達は鍵の秘密をそれこそ命がけで死守せんとした。鍵の秘密は自分にとって何よりも優先される。この前提によって、判断は下されるべきだ。だからこそ、眼前でボールペンを起用に手で回すこの若い刑事にもホッパーの犯行を口にすることはできなかった。

「ホッパー剛ですね」
「はい、彼は事件当時、どこに?」
「わかりません。出勤時刻は過ぎていたので、事務所にいたはずですが、僕が着いたとき、彼の姿は見えませんでした」
「タイムカードは?」
「はい、きのうについては記録がありませんでした。ですので急な休みだったってこともあり得ます。とにかく、僕はその日、直行で南多摩だったんで、当日の状況は全然把握できていないんです」
 そのあと、刑事はホッパーと伊達の人間関係について質問してきた。アリバイがない唯一の従業員であり、施錠せじょうされていた事務所に合鍵で侵入できる唯一の存在であるホッパーに、殺人犯の嫌疑けんぎがかけられているのはマサカズも察することができた。だからこそホッパーについては終始曖昧しゅうしあいまいな供述に徹し、“よくわからない”を連発するしかなかった。
「被害者の携帯電話ですが、初期化されていました。メールもサーバーからデータが削除されていたようなのですが、なにか心当たりはありますか?」
 伊達は仕事用のスマートフォンで、全てのやりとりを行っていた。データが残っていたら井沢や保司ほしとの、表沙汰おもてざたにするにははばかられるやりとりや、自分にてられた絶命寸前の遺言ゆいごんも当局に知られることになる。最後まで彼は完璧だった。刑事の質問にマサカズは言葉を詰まらせてしまい、うめき声を上げた。
「山田さん?」
「あ、いや、その。わかりません」
 最後にマサカズは、戸山刑事に、昨日発覚した夏川たち二十名の殺害事件の捜査状況を、さりげなく不自然が無いよう心がけてたずねてみた。だが刑事からは「所轄が違うから自分には捜査状況はわからない。仮に知っていたとしても教えられない」と、ない返答しか得られなかった。

 三時間ほど事情聴取を受けたマサカズは代々木警察署を出ると、徒歩で事務所まで向かった。刑事の話によると、ホッパーとは連絡が取れず、自宅の渋谷区代官山のマンションや、江東区豊洲とよすの実家にもおらず、家族もその足取りを把握はあくしていないとのことだった。こうなると、警察はホッパーを容疑者の有力候補とみて捜査を進めるだろう。伊達は言っていた。「日本の捜査当局の追跡力はな、人定済じんていずみの場合ハンパなく高くなる。そこから身をかわすには裏社会の助力が必須だ」と。そうなると、おそらくはこれまでとうな世界で生きてきたホッパーに逃れるすべはなく、逮捕は目の前だ。警察より前に自分がホッパーを捕捉ほそくできるのだろうか。

 不安をかかえたまま、それでも優先順位の高い待ち合わせをしなければならなかったので、マサカズは事務所の前までやってきた。この三階建ての雑居ビルは、先々月に三階のデザイン事務所が、先月に一階の会計事務所がそれぞれ退去していたため、現在は二階のナッシングゼロしかテナントが入っていない。
 ビルの前に、灰色のスリーピーススーツを着た、小柄こがらな初老の男性がたたずんでいた。男は両手を合わせ、目をつぶっていた。マサカズが深々と頭を下げると、男は合わせていた手を離し、小さく会釈えしゃくを返した。白髪交じりの短髪、鷲鼻わしばなり上がったけわしい目付きをしたこの男は、伊達の恩師にあたる柏城かしわぎ所長である。柏城とは今朝、事情聴取が終わりしだい事務所で話をする段取りになっていた。
「俺みたいな第三者は立ち入り禁止なんだよ。そりゃそうだろう。あと二、三日は現場検証が続く。現場保全の観点から、検証が終わるまで、あんた以外はここに踏み入っちゃいけないし、俺だって入りたくはない」
「そ、そうなんですか?」
「そーゆーこった。まぁ、待ち合わせにはちょうどいいから、来ることには来たが。で、どうする?」

 事務所で話をするつもりだったが、見込みが甘かったようである。柏城にうながされたマサカズは、彼を事務所から五分ほど歩いた表通り沿いの喫茶店きっさてんまで案内した。広々とした店内だったが、偶然にもホッパーを面接した際のテーブルしかいておらず、マサカズはなんとなく気まずさを感じながら、柏城に着席をうながした。柏城はコーヒーを、マサカズはコーラをそれぞれ注文し、二人は目を合わせた。
「まずは、すみません。こんなことになってしまって」
「犯人に心当たりはあるのかな?」
 単刀直入たんとうちょくにゅうとも言える柏城の問いに、マサカズはのどを詰まらせ咳払せきばらいをした。
「わ、わかりかねます」
「山田さん、あなたの事業に特に興味はないが、ひとつ忠告しておきたい」
「はい?」
「今すぐカタギに戻りなさい。破綻はたんは時間の問題だ」
 り上がった目には、なにか強い意志が乗せられているようでもある。マサカズはそれにこたえるつもりで背筋を伸ばした。
「なんで、そう言い切るんです?」
七浦葵ななうら あおい竹下信玄たけした しんげん、そして伊達……たった半年で三件の刑事事件に関わってる山田正一やまだまさかずは、警察の縦割りを外しちまえば、極めて異常な存在だって、誰にでもすぐ気づかれる。いくらなんでもだ、偶然でこんなヤツは生まれない。何らかの犯罪に関与していると断定されてもおかしくはない。お前はもう、公安に目を付けられてるかもしれない」
 伊達からもされたことのない、恐怖を覚える指摘だった。マサカズは運ばれてきたコーラのグラスを手にすると、ストローでずるずると黒いそれをすすった。
「あの伊達が入れ込んでウチをめちまうわけだ。相当、よっぽどってことだろう。庭石にわいしを殺したのもそのよっぽどがからんでるんだろ?」
「あれは、自殺です」
 ふるえた声で、マサカズはそう返した。柏城はしわの寄った手でコーヒーカップを取ると、音を立て褐色かっしょくのそれをすすった。
「僕は伊達さんのかたきつつもりです」
「時代じゃないだろ。どうせ犯人はすぐ逮捕される。ここだけの話だけど、指紋しもんも出てるそうじゃねぇか」
「指名手配ってことになるんですか?」
「ガラが辿たどれないんなら、そうするだろうな」
 逮捕されれば鍵の秘密が露見ろけんしてしまう。凶器の提供者として、すぐに自分も当局に身柄みがら拘束こうそくされ、罪を追及されるだろう。マサカズはテーブルに目を落とし、大きくため息をついた。
「ちくしょう……」
 柏城はそうらした。マサカズが目を向けると、彼はハンカチで目をぬぐっていた。
「本当に……ごめんなさい」
 マサカズは、うめくようにそうつぶやくしかなかった。そしてこの言葉を伝えることこそが、柏城に来てもらった一番の理由でもあった。

第8話 ─国家に挑戦状を叩きつけよう!─Chapter2

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