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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第7話 ─バッタの力を借りてみよう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、非常に重要な折り返しとなる第7話が開始!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いをきざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

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主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗だてはやと)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

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【前回までのあらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。

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第7話 ─バッタの力を借りてみよう!─Chapter1

 その日、十一月八日の朝、アパートで出勤の準備をしていたマサカズは、テレビのワイドショーに目を留めた。そこで取り上げられていたのが、五日前、自身も深く関わった串焼き店篭城ろうじょう事件だったからだ。鼠色ねずみいろのパーカーを着た容疑者は竹下信玄たけしたしんげんという名の青年で、昨年までは幼稚園バスの運転手をしていたらしい。しかしそこでのトラブルで解雇かいこされてからは窃盗せっとうなどり返し、今回の事件に至ったとのことである。
 シャツのボタンをめながら、マサカズは竹下が人質の女児のことをなぜ“小さい子”などと呼んだのか、なんとなくだがわかった様な気がした。おそらく彼は彼なりに、運転手をしていたころは子供たちとほがらかで柔らかな付き合いをしていたのだろう。彼が一体どこで道を間違えたのかはかはわからないが、自分にしても吉田の依頼で非合法な暴力を振るったこともあったので、まったく遠い存在だとは思えなかった。
 鍵の力を使って篭城ろうじょう事件を解決し、一部ではあるものの、強盗によって奪われた宝石を取り戻すことができた。実際のところ、ゴムホースを引きいて、竹下の胸にただ頭突きをしただけで、高度な判断ができた覚えはない。しかし緊急事態に対して、絶対的に安全である、といった確信にる心の余裕が、よい形に作用してくれたとは思う。目まぐるしく変化する状況に対して冷静に分析し、その結果、最適とも言える立ち回りができた。あの経験は、今後においてきっと大きな実績になってくれることだろう。つい先日買いえた新品のリュックサックを背負ったマサカズは、揚々ようようとした気持ちでアパートを出た。
 伊達は竹下の弁護人となり、鍵の力の隠蔽いんぺいを行うと言っていた。拳銃で脅されていたにも関わらず、不気味にまで落ち着いていた自分の存在感をできうる限り薄く、弱々しい青年として証言させるらしい。その結果、竹下自身にもメリットが生じるのだと、取り調べに対する取り組み方を誘導するとも言っていた。腕利うできき弁護士である伊達のことだから、きっと上手うまくやってくれるのだろう。その点については、マサカズに不安はまったくなかった。

 総武線の小岩駅までやってきたマサカズは、上り電車に乗り込んだ。車内は全ての席がまり、立錐りっすいの余地もないほぼ満員であり、彼はかろうじて吊革つりかわまで辿たどくとそれをつかみ、腰のポーチからスマートフォンを取り出した。
 幼なじみの三条葉月さんじょうはづきから、夫の浮気相手で自殺した女子高校生の遺体を山に埋めたと告白されてから、今日でちょうど一週間がっていた。あれから毎日、マサカズは検索で辿り着いた女子高生の父のSNSアカウントをチェックしていた。父は連日にわたり、娘の行方が知れなくなったことをなげき、悲しみ、その情報をネットに求めている。
 今のところ葉月夫妻が自首したという情報はない。父親が既に行方不明者届を出していたとしても対象が若い女性ということもあるので、警察が捜査に動く優先順位は低くなるらしい。単なる家出の可能性もあり、それよりは認知症で行方不明の老人の方が命の危険があるため、そちらを優先する傾向があるということだ。このケースだと、行方不明者届を出してから、本格的な捜査が始まるまで一ヶ月以上はかかるだろう。この件を相談した際、伊達はそう予想していた。
 つまり、この事件はまだなにも動きが生じず、“いだ”状況である可能性が高い。そして、自分が情報提供すれば、それは一気に暴風域へと達する。だが、それはどうしてもできなかった。幼なじみが罪に問われるのを忌避きひしているのではない。あの太陽の様に燦然さんぜんとして、常にりんとした輝きを放っていた葉月にはしっかりと罪と向き合い、反省をし、自らの意思でそのつぐないに進んで欲しかったからだ。マサカズはそんなことを考えながら、ぎゅうぎゅう詰めの電車にられ、車窓に流れる風景をぼんやりとながめていた。

「マサカズ、お前の懸念けねんな、アレ、正しい可能性が出てきた」
 伊達と共有している懸念は、これまでにいくつかあったので、マサカズは目を泳がせ、下唇したくちびるを突き出した。
 その日の昼休み、二人は代々木駅前の中華料理店の二階で、赤いテーブルをはさんで向き合っていた。伊達の前には天津飯てんしんはんが、マサカズの前には中華丼が、それぞれの空腹を満たすため置かれていた。
「えっと、庭石さんのことですか?」
「そうだ」
 庭石からは四日後の衆議院補選にともなう、演説会の警護業務が紹介されていた。何の懸念があるのだろうか。マサカズは甘酢にえられた白菜とニンジンを米と共に口に運ぶと、伊達の言葉を待った。
「連絡がさ、取れないんだよ。メールにも返事がないし、電話にも出ない」
「電話って、携帯です?」
「ああ、だからついさっき、法務省にも電話した。そうしたら昨日から体調不良で欠勤しているってことだ」
「どうします?」
「とにかく、一度話をしてみないことにはどうしようもない。単なる病気なら別にいいけど、そうだな、もう一週間ぐらいは様子を見ながらって感じだな」
「そっちの方は伊達さんにまかせますよ。上手うまくやってください」
「ああ、もちろん」
 返事をすると、伊達はレンゲで天津飯をくずした。

 庭石から仲介されていた四日後の仕事は、衆議院補欠選挙に付随して行われる、街頭演説の警護だった。昼食から事務所に戻ってたマサカズは、自分の席に着くと業務内容をあらためて確認した。
 今年は記録に残るほど、夏の暑さが長期にわたって継続し、十月に入っても夏日が続いていたのだが、さすがに十一月に入ると季節も移り変わって秋が深まろうとしていた。この事務所もここ数日は冷房をけず、南側の窓を開放し、秋の空気を取り入れていた。マサカズはうなじにすずしさを感じながら、この仕事は浜松でのそれとあまりかわらない、特に何事も起きないまま、ただ立っているだけの結果に終わるのだろうと予想していた。
「木村さん、こちらがこないだの出張の支出リストと領収書一式になります」
「はい、確認しておきますね」
 伊達と木村が、これまで何度も耳にしたやりとりをしていた。浜口は寺西にシーズンオフとなったプロ野球の話題を持ちかけ、草津は手を頭の後ろで組み、モニターを見ながら細かくうなずいていた。ゆるめの表情から察すれば、おそらく『マイニングクラフト』のアップデート情報でも確認しているのだろう。缶コーヒーを手にしたマサカズは、なにやら心地の良い眠気に見舞われた。ここはおだやかでひりつきのない場だ。老齢なので欠勤も多く、その穴埋めに伊達の負担が重くなることもあるが、彼が選んだスタッフたちはいさかいをおこすことなく、明るく穏やかな空気をこの事務所に作り出していた。
「マサカズ、スーツは新調するのか?」
 隣の席に着いた伊達が、そのようなことをたずねてきた。マサカズはちりちり頭をくと首を横に振った。一昨日、選挙演説の案件を伊達から知らされた際、マサカズは青いリクルートスーツだと、ボディーガードとして見た目が今ひとつの様な気がするのでなんとかしたい、と事務所で漏らしていた。
「ジムもありますし、ちょっと時間足りないかなって」
「飛び込みでも一時間ぐらいでなんとかなるぞ」
 伊達の言葉に、マサカズは「へー」と、抑揚よくようのない調子で返した。
「ほんとはね、オーダーメイドがいいんですよ。身体に合いますから。銀座なんかで作っても十万円足らずで、品質のいいお店もありますよ」
 低く穏やかな声でそう言ったのは木村だった。“オーダーメイド”という言葉がとてもではないが、自分には縁遠く感じる。しかしこれから先、政府との仕事が増えてくるのであれば、身なりにも気をつかっていかなければならないのだろうか。マサカズは少しばかり億劫おっくうに、それよりも大きく面白そうだと感じた。
「伊達さん、それに皆さんにお願いです。僕は、その、こんな感じで状況に応じた服装とかって全然なんで、なんていうか、ツッコミは大歓迎です」
 腰を浮かせたマサカズがそうげると、伊達を含めた皆はゆるやさしい笑みを向けた。

 電車のドア近くに寄りかかっていたマサカズは、手にしていた缶コーヒーをひと口飲んだ。帰宅のため乗り込んだ車内は満席で、出社の際と比べれば床面積にそこそこの余裕があったが、満員電車には変わりがなく、快適ならざる環境だった。
 選挙演説の警護、建設資材の運搬、幼稚園バスの見守りと、十一月のスケジュールはそれなりにまっていた。経営は軌道に乗りつつあり、順調と言ってもいい。利益も出ていたため、登別のぼりべつから奪い資金洗浄した金も資本金以外では手を付ける必要もなかったので目減りもせず、五千万円もの資金がたくわえられている。事務所の雰囲気も居心地がよく、ジムに通ったり、会社経営に必要な知識を学んだりと、自分自身の成長も上手うまくいっていると思える。伊達も庭石からの案件が入ったことで、最近では営業にてる時間が減少し、事務作業の負担も老人たちの尽力によって効率化が進み、残業時間も減りつつある。
 なにもかもがいい方向に進んでいる。成功に向けて、あと何歩か進むだけだ。その途上で苦労することや悩みもあるだろうが、自分たちならきっと乗り越えられるはずだ。そして、偶然トラブルに巻き込まれてもこの力さえあれば、敢然かんぜんと立ち向かえる。マサカズは思わず鼻を鳴らして笑い声をらした。そして、すぐに表情を曇らせた。

「もしもし葉月。ヤンマサだ」
 アパートの自室で、マサカズは幼なじみに電話をかけた。
「報道はまだだけど、警察とかどうしてるんだ?」
 スマートフォンから聞こえてくる声は、たどたどしく、言葉の中身は要領を得ず、同じ日本語を共通言語にしている相手とは思えないほど、会話そのものが成立してくれなかった。
「自首は、できるだけ早い方が減刑も見込める。腕利きの弁護士の協力も取り付けた。僕の会社の副社長をしている刑事事件専門の弁護士だ。まだ若いけど、腕は確かだ」
 ダメで元々。そんな気持ちで情報をぶつけてみる。やはり、その返答は意味を理解できない解像度の低さだった。

 マサカズは通話を切り、スマートフォンをカラーボックスの上に置いた。きっぱなしの布団に座り込んだ彼は、傍らにあったコンビニの袋からトンカツ弁当を取り出した。今ごろ、葉月は夫に手料理を振る舞っているのだろうか。いや、電話の様子だと、まともな日常を送っているかどうかもあやしい。違う、意外とそういった状態の方が、極めてまともな生活を保っているという考え方もできる。
 わからない。誰かと結婚して共に暮らす。それも共に犯罪に手をめたうえで。わからない。わかるはずもない。トンカツにかじりついたマサカズは、ソースをかけ忘れていたことに気づくと、小さく首をかしげた。

第7話 ─バッタの力を借りてみよう!─Chapter2

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