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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter5-6


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▼マサカズの逃避行と新たな局面が描かれる「第10話」はこちらから

▼新たな秘密結社の立ち上げが描かれる「第11話」はこちらから

【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流らいごうりゅう道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズはある男と出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇を遂げ、今度は南の地、那覇へと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固め、新たな秘密結社を立ち上げたが…。

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第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter5

 無人島にやってきて三度目の朝をむかえた。今日は四月十七日、世間では新年度が本格的に始動している時期に当たり、マサカズたちもまた、全く新しい試みに向けて準備を進めていた。アジトの建設にはより精密せいみつな地ならしが必要だと感じたマサカズは、シャベルでの細かな調整をメンバーに命じ、昨日のうちに更地さらちはそれなりの体裁ていさいが整えられたように見えた。当初は道具が不足していると懸念けねんはしていたものの、アウトローとゲバラが島を探検したところ、さび付いたシャベルが二本発見された。他にもドラム缶や木切れ、ペットボトルなどが島の随所ずいしょに流れ込んでいるらしく、マサカズは今後も使える物を捜索そうさくする必要があると考えた。
 メンバーの仕事ぶりとしては、プロフェッサーが物資の管理と確認を担当し、整地やゴミの廃棄はいきなどの実務はアウトローとゲバラ、アイアンシェフが行い、この四人についてはマサカズが想像する以上に、勤勉きんべんな働きぶりを見せていた。特に、暴走族のアウトローについては荒事あらごと対応の期待しかしていなかったため、ゲバラと互いに確認を細かに行い、テキパキと仕事をこなすのが意外でならなかった。小男のフリーダムと黒衣こくいのデスサイズについては、想像以上に仕事覚えが悪く、教えたところでミスが目立ち、労働力として当てにはならないとマサカズは失望していた。ひざきついてきた夜、マサカズはデスサイズに他のメンバーと仲良くなって欲しいとお願いした。彼女はその命令を遵守じゅんしゅし、翌朝から五人に対して積極的に話しかけるようになっていた。マサカズの目に入っている範囲では少なくともそうしているようなのだが、彼女の言葉はたどたどしいうえに、途切れ途切れの単語が連発されるばかりで会話として意味を成しておらず、メンバーたちは彼女から微妙びみょうに距離を置くようになっていった。

「ボス、風呂はどーすんだよ」
 マサカズがチェアで朝飯のカップめんすすっていると、赤毛のゲバラが腰に手を当て、口先をとがらせていた。
「あー、風呂?」
「まさか、また考えてなかったのかよ? マジか?」
「ごめん、考えてなかった。どうしようか」
 マサカズがそう言うと、ゲバラはツインテールをらして身を乗り出した。
「どうしようか、じゃねーだろ!? どーにかしろよ。もう四日もってんだぞ。風呂なしとかあり得ねーんだけど!」
「シャンプーとか石鹸せっけんは?」
「持ってきてるに決まってんじゃねーか!」
「じゃあ、川とかじゃ……ダメ?」
「はぁ!? まだ四月だぞ。冷たいだろーが! つーか、オメーはどーするつもりだったんだよ!」
「アジトには風呂もあるから、それまでいいかなって」
 言いながらもそれをかすためのガスの用意がないことを、マサカズはあえて考えないようにしていた。
「なんなんだよオメーは! なんなんだよオメーは!?」
 ゲバラは赤毛を振り乱し、ほおを引きらせた。するとその背後からプロフェッサーが姿を現した。
「ゲバラちゃん、ちょうどいいもの見つけたんだけど」
 プロフェッサーにそう言われたゲバラは振り向いて「なにが?」と返事をした。

 キャンプ地に、ドラム缶とコンクリートブロック、そして木の板が運びこまれた。すべてはこの無人島で発見された資材で、ブロックを足場にしてドラム缶がたてに置かれ、それらの作業はプロフェッサーの指示の元、アイアンシェフが行った。完成したドラム缶のオブジェクトを前に、ゲバラは腕を組んだ。
「なにこれ? プロじい、もしかして、これが風呂って言いてーのか?」
「その通りだよゲバラちゃん。アジトができるまで、このドラム缶風呂で汗を流して清潔せいけつになろう。あ、でもすのこの上にちゃんと乗らないと大やけどしちゃうよ」
 プロフェッサーのおだやかな言葉に、ゲバラは力なくうなだれ、肩をふるわせた。
「どう考えたっておかしいだろ、こんなの? 誰もおかしいって思わねーのかよ!」
 振り返ったゲバラは、両手を広げて仲間たちにそううったえかけた。しかし少女に同調する者は誰もおらず、フリーダムは視線をはずし、アウトローは口笛を吹き、プロフェッサーは「まぁまぁ」となだめるように声をかけ、アイアンシェフは火だねの準備に忙しく、デスサイズはマサカズをじっと見つめていた。
「ゲバちゃん、これも経験だよ。大人になってから自慢じまん話にするといい」
 さり気なく略称をまぎれ込ませ、プロフェッサーは穏当おんとうな口調でそういた。ゲバラは再びうなだれると舌打ちをした。それを渋々しぶしぶ諒解りょうかいだと理解したマサカズは、アウトローに水みを、フリーダムには遮蔽しゃへいのために使うビニールシートを用意するよう指示をした。次々と進んでいくドラム缶風呂の準備を背に、ゲバラは今にも泣き出しそうに顔をしかめて打ちふるえ、デスサイズがその肩をそっとつかんだ。
「女子組として、一緒に入りましょう? 洗いっこしましょう」
めずらしくまともなこと言うじゃねーか。けどよ、どう見たってありゃ一人までが定員だ」
 ゲバラは最後に「あんがと」と付け足すと、海岸に向けて歩き始めた。デスサイズは一度マサカズに目を向けると、ゲバラのあとに続いて行った。

 ドラム缶風呂が完成してから四日がち、佐世保港を出港してからこの日で二週目をむかえた。この一週間、天候にも恵まれ、雨に降られることはなかった。ゲバラの不平不満は相変あいかわらずだったが、言葉の量に対して怒りの熱量は幾分いくぶんだがやわらぎ、嫌味いやみや小言にまでトーンダウンしているようでもあり、マサカズは彼女がなにかと希望をあきらめることで、状況を受け入れるための折り合いをつけているのだろうと分析した。
 経験者であるプロフェッサーの指導のもとアウトドア生活も順調に進み、“アジト完成までの風呂”というマサカズにとって想定外かつ大きな問題は一応だが解消できた。そしてあらかじめ持ち込んでいた着火用のライターや電源、ライトや工具などといった、便利な道具のおかげて小さく細かな不満も今のところグループ内で表面化せず、食料にもまだ余裕よゆうがあった。実際のところ今後は様々な問題が発生されることが予想できたが、マサカズはそれに対しては思考を停止させていて、少しでも不安がよぎれば具体的に頭を振ることで、それを振り落としていった。

 この日はセルフビルドの建材が到着する予定になっていた。セルフビルドとは大工の手を借りず、自力で家を建てることを意味する。マサカズはシンちゃんの動画でその存在を知り、彼が購入したものと同じメーカーに一軒家の建材を注文していた。今日の午後、輸送船でそれが到着することになっていたので、昼食のあとマサカズは桟橋さんばしまでやってきた。実際の建築に、実践済みのシンちゃんは必要不可欠な存在だったが、動画の中でシンちゃんは最後に「これ、誰にでもできるんじゃ」とめくくっていた。だから、マサカズは何とかなるだろうとたかをくくっていた。
 だがしかし、そこに現れたのは輸送用の中型船舶せんぱくではなく、一そうのモーターボートだった。
「山田さんですね!」
 ボートから一人の女性が桟橋まで降りてきた。年齢のほどは五十代といったところで、女性にしてはマサカズと変わらないほど背が高く、髪は短く薄い化粧をして容姿は整い、オレンジ色のブルゾンと灰色のスラックスにスニーカーを身に付けていたしていた。初めて見る人物にマサカズはちりちり頭をき、首をかしげた。
「そうですけど、あなたは? セルフビルドの人?」
「私はT&Bツアーズ株式会社の今野こんのです」
「ああ、旅行代理店の人ですね。わざわざなんです?」
「あのですね、今もおっしゃいましたが、セルフビルドって、山田さん、この島であなた方は一体なにをするつもりなんです?」
 旅行代理店とは、この桜葉島おうようじまで八名三週間のキャンプ旅行といった名目で申し込みと契約を行ってはいたものの、一軒家建築については知らせていなかった。なしくずしでなんとかなるだろうとんでいたマサカズは急に恐ろしくなり、ひたいわきの下から大量の汗をき出し、首をブルブルと振った。
「昨日、港から輸送船について確認の連絡があったんです。こんなもの島に運び込んで、本当にいいんですかって? で、行ってみれば山田さんが注文したっていう家の材料がまれてて、だから私、あわててここまで来たんですよ! 電話じゃなくって直接聞いておく必要があると思って」
「あ、う、え、う……」
 言葉にならないうめき声をマサカズはらした。
「輸送船の出港は取りやめにさせました。あんなもの我々の島に持ち込ませられませんし、契約違反です」
「我々の……島? だって、無人島でしょ?」
「はぁ? なに言ってるの? 国土には所有者がいて当然よ? この島は当社が所有して、キャンプと観光に利用しているのよ」
 無人島に所有者などといった概念があること自体を知らなかったマサカズは、頭の中で平屋の一軒家が盛大に爆発し、端微塵ぱみじんになった。
「あ、あ、あれとかこれとかそれで、一千万円もかかっちゃってるんですけど」
「知らないわよそんなこと。建材は港にめ置いてるから、どこか土地でも買って、勝手に建てればいいでしょ」
「そ、そんな……」
「今日にでも佐世保まで戻ってもらいます。契約違反ですから、現時点でこのツアーは中止します。帰りの船代と建材の保管費用はあとで請求させてもらいますね」
 今野はそう言い切るとブルゾンのポケットに両手を突っ込み、威嚇いかくするようにあごを上げた。彼女は美しい熟女じゅくじょではあったのだが、その美貌びぼうが目に入らぬほど、今のマサカズは困惑こんわくしていた。もがくように思考の迷宮をい出てきた彼は、何度もまばたきして腰を落とした。
「ごめんなさい! けど、今日帰れは、いっくらなんでもあんまりです。せめて契約の三週間はここにいさせてください。もうヘンなものは持ち込みませんから」
 我ながら筋道の立った要求ができた。ふるえつつもマサカズがそう得心とくしんしていると、今野は頭を何度か振り、ため息をらした。
「今日で一週間だから、残りは二週ね……旅程通り二週間後の正午に来る船に乗って帰るってくれること? 本来なら契約違反ですから、すぐにでも離島してもらいたいんですけどね」
「そこをなんとか。違約金いやくきんとかあれば後ほど支払いますから。仲間たちもこの島気に入って、楽しんでるんですよ、アウトドアを」
 何度も頭を下げ、マサカズは懇願こんがんした。今野はもう一度深いため息をらした。
「わかったわ。実際、想定外の船を手配するのだって手間てまだし。けど、二週間後には絶対に帰ってもらいますからね! 約束を破ったら、今度は私だけじゃなくって警察も連れてきますよ!」
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」

 桟橋さんばしから去って行くモーターボートに、マサカズは頭を下げ続けて見送った。建材は、アジトの元はもうこの島には届かない。二週間を過ぎれば警察が乗り込んで強制退去になる。マサカズはしかめっ面でその場にしゃがみ込むと、強く目を閉ざした。

「波の音は風情ふぜいがあっていいね。無人島、最高じゃないか」
 桟橋さんばしでもスーツ姿だった“彼”は、いつものように煙草たばこをふかしていた。
「どーすんだい、マサカズ?」
「ハッキリ認めます。無謀むぼうです。浅はかです。無知無学です。おろかです。そして、作戦は失敗です」
「だからさ、これからどーすんだよ。あのポンコツ共になんて説明する?」
「仲間の悪口はやめてください。今日はショックが大きいので、明日の朝、説明します」
「それまでどーすんだ?」
「テントに戻って、体調不良をいつわって寝ます」
「またあのメンヘラゴシックねーちゃんが、夜這よばいでもかけてくるんじゃないのか?」
ふるえて寝るだけです。そうか、アレは色仕掛いろじかけだったのか。それにしてもなんてヘタクソな。鍵の力を手に入れたかったんだろうな。しょうもな」
「気づいてたクセに」
「彼女は好みから外れるので、意識しないようにしていました」
「お前さ、那覇なはで彼女作ろうって意気込んでたけど、意外とお前って女性との出会いが多いよな」
おびに短したすきに長し……でしたっけ? ちょうどいい具合の出会いがないので困っています。いくら可愛かわいくて好意を持たれても女子高生ではどうしようもありません。今年三十ですので。犯罪です。それにまぁ、あの別れぎわきらわれたのかも」
「仲間への失敗宣言さ、俺が原稿書いてやろうか?」
「いいです。それぐらいは自力でやります」
「どーすんだ? これから」
「今日の伊達さん、そればっかりですね」
「だって、そうだろ?」
「確かに、今の僕はお先真っ暗です」
「作戦というか、お前の人生の敗因分析なら、いくらでも付き合ってやってもいいぜ」
「伊達さんはやさしいんですね」
「お前も人に優しくなれよ。そうすれば運がめぐってくる」
「僕は優しくしているつもりですよ。いつでも誰にでも」
「本当にそう思ってるのか?」
 マサカズはその問いには答えず、目を開けて立ち上がった。キャンプ地への足取りは鉛のように重かったが、それでも彼は仲間の元へ戻るより他に選択肢がなかった。

第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter6

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