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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter3-4


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【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流らいごうりゅう道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズはある男と出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇を遂げ、今度は南の地、那覇へと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固め、新たな秘密結社を立ち上げたが…。

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第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter3

 出港してしばらくすると、旅客キャビンからは陸地を認められず、目の先にはおだやかな春の海だけが広がっていた。船旅が初めてのマサカズにとって、これは新鮮な経験だったが、あまりにも変化にとぼしい風景が続くせいもあって、ものの十分もたないうちに窓から外を見るのもきてしまった。持参した携帯ゲーム機でひまつぶすといった手段も考えたのだが、どうにも秘密結社のボスを自称する者として相応ふさわしくないと思えたため、マサカズは船長からアナウンスがあるまでキャビンで目を閉ざし、いかにもな大物感をかもし出すことに努めていた。

 佐世保させぼ港を出港してから一時間半ほどがったころ、ブリッジの船長から到着の知らせがスピーカーに響いた。マサカズがキャビンの窓から外をうかがうと、その先にはとても小さなコンクリートの桟橋さんばしが見えた。
「なんか、港っぽいのって、無人島とは違くねーか?」
 マサカズと同じく、窓から桟橋を見た赤毛のゲバラがそうぼやいた。フリーダムは強くうなずき、少女に対して同意を主張しているようだった。マサカズは椅子から立ち上がり「無人島と言っても未踏みとうってことじゃないんだよ」と、皆にげた“無人島への上陸!”とラベリングされたイベントにおいて、船は港ではなく何もない浜に乗り上げるよう到達する、できれば暴風雨などのトラブルもかかえ込みつつ。おそらくゲバラたちはそのような予想をしてきたのだろう。晴れとも曇りとも言い切れない曖昧あいまいな空のもと、船が到着したのはさざ波が立つぽつりとしたコンクリートの建造物でしかない。現実と破綻はたんを未然に防ぐため、こう大抵たいていがつまらなく果てがないまでにありふれている。自分とてここしばらくの積み重ねがなければ、あの赤く髪を染めた少女のように現実離れした上陸に期待と興奮を覚え、いま頃小さな失望を覚えていただろう。
 マサカズはゲバラに対して何らかのフォローをしておくべきかと考えたが、船室にやってきた船長が荷下ろしの確認をしてきたので、まずはそれに対応することにした。

 船が桟橋にくと、船長ともうひとりの船員が船の固定と、積載せきさいしていた段ボールの荷下ろしの準備に取りかかった。
「我々も荷下ろしを手伝うぞ。エターナル最初の任務だ」
 マサカズはそう命じ、六人はゆっくりと立ち上がった。

 二十個を超える段ボール箱を船倉から桟橋に下ろしたマサカズたちは、佐世保港に引き返していく中型船を見送った。アジトの建築資材が届くのは一週間後で、そこまではここでキャンプとなる。マサカズが周囲を見渡すと、桟橋の根元は岩だらけで、野営できそうな平地は、そこから五十メートルほど離れた内陸地にあった。
「積み荷をあの平地まで運ぶ。まだしばらく力仕事が続くから、覚悟してくれ」
 鍵の力を使えば、段ボール箱などまたたく間に運び出せるが、マサカズは組織運営の初期においては共同作業を重ねてメンバーのきずなを深める必要があると考え、努力で乗り越えられる作業についてはあえて異能いのうを封じることにした。マサカズを含む七名は、四度の往復で積み荷をすべて平らな雑草がしげる陸地まで運び込むと、全員が疲労困憊ひろうこんぱいで地面に座り込んでしまい、それぞれがうめき声をらし、ペットボトルに飲料を求める者もいた。重労働に対して皆が互いの目を見て意思の疎通そつうはかるようになるまで、たっぷりと五分の時が過ぎた。
「で?」
 極めて短く、そして深い意味を含んだ言葉を発したのは老齢のプロフェッサーだった。マサカズは彼に対して少しだけ苛立いらだちを覚えた。
「あ、“で?”じゃなくって、ここからはプロフェッサーが中心になってキャンプの段取りをするって、船で言いましたよね?」
「あ、あー、そうか。そうだったね。なら、まずは寝床と火だ」
 プロフェッサーはよろよろと立ち上がると、マサカズから段ボールの目録を受け取り、小太りのアイアンシェフと小男のフリーダムに指示を出し、開封作業を始めた。すると、黒衣のデスサイズが茂みに向かって駆け出し、しばらくするといななくような激しい嘔吐おうとの響きがとどろいてきた。茶髪のアウトサイダーはケタケタと笑い声を上げ、赤毛のゲバラはトランクからグミの袋を取り出し、中身を口に放り込んだ。立ち上がったマサカズは砂を軽くり、舌打ちをしたがすぐに気持ちを切り換え、開封作業を手伝うことにした。

 テントは初心者向けの簡易かんい的なもので、くいを打つこともなくほぼワンタッチでそれらしい形になった。火起こしも着火ツールを使うことで難なくき火を作ることができ、そこで湯沸かしすることで夕飯のカップラーメンを用意できた。この一連の用意についてもプロフェッサーが皆に指示を与えることで達成できていたので、マサカズは自分たちが組織として、ひとまずだが機能しているのだと安心できた。
 完成した海辺のキャンプ地は、き火を中心に七つのアウトドアチェアが囲み、その外周にテントが張られ、更にそのかたわらにビニールシートで防水した段ボール箱が置かれていた。発電機はなかったが、大容量のバッテリーはあり、これはスマートフォンや電灯の充電などに使われる。他にもソーラーバッテリーも持ち込んでいて、これは非常用として用いるつもりだ。マサカズはキャンプ地の出来上がりに満足し、現時点まで順調に作戦が進行していると感じていた。

 も落ちかけてきた夕暮れ、マサカズたちはチェアに腰掛け背もたれに上体を預け、それぞれが海を見つめ、カップラーメンをすすっていた。食料は一ヶ月分用意してきた。その内訳はすべてが保存の乾物かんぶつだったが、それにきてしまった場合は、果実の採集や狩りで現地調達をするといった手段もある。威嚇いかくだけで熊を撃退できたのだから、おそらく問題なく手に入るだろう。マサカズはそう見込んでいた。
「明日から、アジト建設予定地の整地を行う。これは私が行うが、諸君には後の処理をお願いする」
 カップ麺のスープを飲み干したマサカズは、六人にそうげた。
「圏外じゃねーか」
 赤毛のゲバラが不満げにそうらした。
「僕のは通じる。ギリって感じだけど」
 そう返したのは小男のフリーダムだった。マサカズは腰のポーチからスマートフォンを取りだして確認してみたところ、圏外と圏内の表示が数十秒おきに入れ替わるといった有様ありさまだった。
「あのさ」
 マサカズはそう切り出したものの、その後に続く言葉をみ込んでしまった。彼は目を泳がせ、何度か小さくうなずいた。七人の間に沈黙が広がり、それを埋め合わせるかのように波と風が静かに音を立てていた。
「ボスの超能力について、くわしく教えてください」
 小太りのアイアンシェフがマサカズにたずねた。
「ダメだ。まだ早い。私のこの力については、諸君をより信用できると認めたとき、発動条件など詳細を教えることにしよう。そしてだ」
 マサカズは咳払せきばらいをして、チェアから立ち上がって夕暮れの中の六人を見つめた。
「一定以上の信頼を得たメンバーには、私と同様の力をさずけよう」
 その言葉に、六人は色めき立った。ゲバラは「おー」と感嘆の声をらし、アイアンシェフは何度もまばたきをし、アウトローは力強く拳を作り、プロフェッサーは固唾かたずんだ。フリーダムはカップラーメンの消費ペースを急速に高めた。そしてデスサイズはゆっくりと立ち上がるとドレスの端をまみ、社交ダンスで見られるような仰々ぎょうぎょうしいお辞儀じぎをした。
 たった一度、あの動画を見ただけで、この六人は超能力の存在を信じている。彼らの反応を確かめたマサカズは、あらためてそう思った。六人は作戦に対して詳細を求めてくることもなく、今のところはただ従順に付き従っている。これはおそらくだが、自分の前向きな態度を信じてくれているからだろう。このまま弱気を一切見せず、目的を達成しよう。そう決意をしたマサカズは、両手を広げて「エターナル万歳!」さけんだ。しかし、それに続く者は誰もいなかった。もう少しだけ皆の意識を高めておく必要があると考えたマサカズは、ジーンズのポケットに手を突っ込み、「アンロック」つぶやいた。
「これが私の力だ!」
 そう叫んだマサカズは、その場から右足を強く踏み込んで跳躍ちょうやくした。高さは十メートルほどで、彼はを描くように五十メートル先の海に飛び込んだ。目の前を魚が行きうなか海底近くまで達すると、適当な貝殻かいがらを拾い上げ、マサカズは海面から跳び上がり六人の前に着地した。誰もが驚きを隠さず、マサカズの人間離れした行動に打ちふるえていた。
「心配することはなにもない。我々は不可能という壁をこの力で超える。エターナル、万歳!」
 マサカズが貝殻を足元に落とすと、六人はそろわぬタイミングで「エターナル万歳!」と叫んだ。

「シンちゃんはわかってねぇよな。ボスの超能力がありゃ、オレたち無敵じゃん」
 茶髪をでつけたアウトローがそう言うと、五人はうなずき返した。マサカズたちはその夜、き火を囲ってチェアに座り、ジュースやお茶のペットボトルを手に、歓談かんだんしていた。
「まぁまぁ、シンちゃんさんの悪口はほどほどにしようよ。悪い人じゃないんだし、彼はうたぐり深いだけなんだよ」
 マサカズがそうたしなめると、いつの間にかデスサイズが彼の背後に回り込んでいた。彼女はマサカズの肩に手を乗せようとしたのだが、躊躇ためらうようにそれをあきらめ、何度もり返して手を上下させていた。
「デスちん、オメーなにしてんの?」
 ゲバラがそう問いかけると、デスサイズは「し、ん、ら、い……」と口ごもって返事をした。
「あー、もしかしてボスからポイントゲット? セコ……」
「ち、ちが、ちががが」
 ゲバラとデスサイズのやりとりが何を意味しているのかマサカズにはわからず、彼は背後を見上げた。焚き火に照らされたデスサイズは口先をとがらせ、上体を前後させ、両手は鍵盤けんばんくようにふるえていた。
「デスサイズ、席に戻ったら?」
 マサカズがそう提案してみたところ、デスサイズは手を宙に浮かしたまま、ぎくしゃくとした挙動で自分のチェアへと戻って行った。
「残念なことに脱落者も出てしまったけど、私は君たちのことをよりよく知りたい。もちろん、秘密結社だから個人情報を特定するようなことは共有する必要はないけど、その、なんて言うのか、人間性のようなものがわかるとうれしい」
 両指をひざの上で組み、マサカズは六人にそう言った。するとプロフェッサーが手を挙げた。
「では、好きな食べ物ときらいな食べ物はどうです?」
「いいですね。じゃあまず私からですけど、好きなのはラーメンで、嫌いなものは特にない」
 守秘する必要もない個人情報を明かすと、マサカズはアイアンシェフの目を見た。
「僕は……好物はアイスクリームで、嫌いなのはイチジクです」
 食べ物の好き嫌いから始まり、それからマサカズたちは一番感動した映画や尊敬する人物などといった他愛たあいのない話題で、時には共感で盛り上がり、時には風変わりだと驚き、弛緩しかんした空気の中にあって互いの理解を深め合っていった。

 夜もけ、七人はそれぞれテントの中で寝袋に入って眠ることになった。マサカズにとって、これは人生で初めての経験だった。なにやら緊張して眠気がそれを上回ってくれない。その理由がどこにあるのかもわからず、寝袋で仰向あおむけになっていた彼はじっとテントの頂点を見つめていた。
「違う……」
 そうつぶやいたものの、何がどう“違う”のか、マサカズにはわからなかった。今のところ、作戦は順調に進んでいるはずだ。なにも問題がない。追跡者がこのような無人島まで来るはずもない。おそらく連中は佐世保港からの追跡を断念していることだろう。そう思い込むと、何やら気持ちが軽くなってきたので、マサカズはゆっくりと目を閉ざした。
 寝袋のすぐかたわらで、オイルライターを点火する音が聞こえた。

「伊達さん?」
「この島は禁煙じゃないよな」
「テントなんで、正直迷惑です」
 三つぞろえのスーツに身を固めた“彼”が煙草たばこを手に寝袋のかたわらで胡座あぐらをかいていた。人の悪い笑みを浮かべた彼は、人差し指で眼鏡めがねを直した。
「いいだろ? 俺のぶんのテントはないんだし」
「シンちゃんさんの分がひとつ余ってます。使います?」
「いらないよ」
「なんでです? ここは二人じゃせまいですよ」
「なら、明日から使わせてもらうよ」
「そうしてください」
「マサカズさ」
「言いたいことはわかります。伊達さん、僕が上手うまくいっていないって思ってるんでしょ?」
「そうだ。なんだあいつらは。久留間くるまたちの方がまだマシだぞ」
「伊達さんが久留間を知っていたのが意外です。弁護士時代に顧客こきゃくだったとか?」
「あの六人は、ハッキリ言ってポンコツぞろいだ」
「僕はそう思いません。彼らはひとりひとり技能を持った優秀な仲間です。何よりも僕のことを全面的に信用してくれています」
「ネットであやしげな勧誘かんゆうにホイホイついてきて、計画の委細詳細いさいしょうさいも聞いてこない現実逃避者どもだ」
「違います! なんでそんなこと言うんです!」
「事実をありのまま述べたまでのことだ」
「一方的な決めつけです。頭がいいからって、そんなのはダメです」
「マサカズさ、お前、俺がいたときよりバカになってないか? 自覚してる?」
「それも違います。僕はあれこれ考えるのをやめただけです。伊達さんが死んでから、色々と考えました。けど、どれもが無意味だったんです。だから僕は前を向いて進むことだけにしたんです」
「それをバカと言わないで、どう形容する?」
「なら、もうバカでいいです。けど、そんなことを言う伊達さんは嫌いです」
「ハナからお前に好かれるつもりはない。だけどな、警告だと思って聞いてくれ。バカは身をほろぼすぞ」
「じゃあ、どうすればいいんです」
「言っただろ? 選択肢ってのは多いに越したことはない。お前の場合、バカのにとてつもなく大きな選択肢をひとつけずり込んでいる。それをやめるんだ」
「逃げるのは絶対に嫌です。へっぽこ拳法家モドキと泥仕合どろじあいなんて人生の無駄むだです。僕は今年で三十になるんですよ」
「なら、俺からアドバイスできることはないな」
「それも嫌です。度々たびたび呼び出しますんで。これが一番えてる方法ってやつなんです」
「分裂症じゃん」
「違います。僕は今まであった中で最もすぐれている人から助言が欲しいだけです」
「おいおい、確実に劣化れっかした俺だぞ」
「知りません。そんなこと」
 マサカズは意識をしてあらためて目を開けた。すると、テントのファスナーが少しだけ開けられていて、そこから二つの目がき火に反射して光っているのが見えた。
「誰だ?」
 マサカズは寝袋からい出て、テントの中をのぞく何者かにうた。しかしのぞは足音を立てて逃げ出し、テントの一つへ姿を消した。あれは、黒衣の淑女しゅくじょ、デスサイズのテントだ。目で追ったマサカズは深いため息をらし、テントのファスナーを閉ざした。

第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter4

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