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[映画] ケイコ 目を澄ませて

私が岸井ゆきのさんのことを知ったのは2018年のNHK朝ドラ「まんぷく」の中だった。その時は彼女に対しての情報は何もなく、元気で可愛らしい人だなという思いで見ていた。それから時々ドラマなどで見かけるようになって頑張ってらっしゃるんだなと思っていたところ、先日の日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞されて感動的なコメントをされていた。
素敵な女優さんになられたのだなとその時思ってこの作品もいつか観ようと思いながら今日になった。

物語は、
耳が聞こえない実在のプロボクサー小笠原恵子さんの自伝「負けないで!」を原案に作られた作品。
生まれつき聴覚に障害があるケイコは下町の小さなボクシングジムに所属するプロボクサー。毎日まじめに練習を重ねるが、何か違うんじゃないかというモヤモヤが消えない。素直な感情の持ち主で愛想笑いができずどこか生きづらさを常に持っている。
自分の道を模索する中、ジムが経営不振で閉鎖することになるが…

ストーリー的にはそれほど盛り上る場面はないのだが、自分の思いを他人に打ち明けることのないケイコの心の奥に潜む思いを考えながら観ることになる。
ただ、びっくりするのは、生活する中で発生する音を誇張して発生させている点だ。聴覚障害を持つ人を題材にしたドラマなどはたくさんあるが、どれも主人公の立場を優先して静かさを主張して作られているように思う。
でもこの作品は聴こえる人の立場から聞こえる音を効果的に使っている。
・水道から流れ出る水の音
・テーブルを拭くティッシュの音
・水筒からコップに注ぐ飲料の音
・シャドーボクシングの時、足が地面に擦れる音
・ガード下に響く電車の音
・川を流れる水の音
その他のさまざまな当たり前にある日常の音を誇張することによってケイコにはこの音がまったく聞こえていないということを視聴者に訴える。
それにこの作品は16mmフィルムで作成されている。荒い画面からはより一層現実感が漂ってくる。

私はケイコがなぜボクシングをやっているのか最後まではっきりとわからなかったが、人間ってどんな立場で生きていても自分が打ち込める何かが必要なのだろうなと思った。辛くてもケイコにはボクシングがあって幸せなのだろうなと思う。
聴覚障害の感覚を100%共有することは無理であるが、少しでも彼女の心を読みたくて彼女の一挙手一投足を目で追ってしまう。
岸井ゆきのさんは聴覚障害というハンデキャップの演技とプロボクサーの演技とダブルで大変だったと思うが、上手い女優さんだなと改めて思った。
タイトルにもあるように彼女の目は澄んでいて鋭い。目で音を聞いているかのような気さえしてくる。
トレーナーとのミット打ちの場面でパンパンというリズムのいい音が発生するが、その音がとても心地よかった。ケイコにはその音が聞こえないのが残念でならない。
聞かせてあげたい音だと思った。
ジムの会長役として三浦友和さんが出てらっしゃるが、いい意味でのボソッとしたおじさん感が出てて良かった。



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