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人生の謎について 松尾スズキ

この本のタイトルを見た時に、「あなたが謎だよ、松尾さん」とツッコミを入れたくなった。他人の人生で「あの人、謎だわ」と思う人は多々いるが、私の中では松尾スズキほど謎な人物はいないとずっと前から思っていた。今もそう思っている。この本は松尾スズキの人生の謎について書かれたエッセイで、普通言えないよなこんなことと思えるようなことも堂々と書いてあるから素敵だ。

私は松尾さんが携わるほとんどのお芝居や映画やドラマなどを長い間観てきたが、松尾さんはほんとうに謎多き人だった。特に舞台上では、なんであんなに身体をクネクネさせてダンスを踊るのか?台詞を言う時、重要な台詞に限ってなんであんなに身体をクネクネさせるのか?(クネクネばかりだが…)なんで人の傷にこれでもかというほど塩をぬれるのか?そして人間の闇を奥底まで掘り下げようとするのか?演劇人としてファンとして昭和の女としていろいろ謎を持って今まで松尾さんのお仕事を拝見させてらってきた。その謎がこの本で解けたような気がしている。といっても100%解けたわけではなくて、その一部が垣間見えるえた程度なのだが、それは私の感覚的なことなのでうまく説明はできないが、妙だなと思っていたことが、はぁやっぱり妙だったんだと思えたことだ。

幼い頃からのエピソードや今現在のコロナ禍でのエピソードまで盛り沢山な内容なのだが、幸か不幸か、どの年代のどの場面にも出来上がった松尾スズキという人間が存在しているなと思いながら読んだ。「ゲッ、なんでそうなるんだよ」と思うようなこともあるが、「そうか、それがこの人なのだ」と思い直すと素直に受け入れられる。

いつも人間のほんとうの話を書きたいと思い煩っている。だからおのれの醜い姿を否定したくない。

あとがきの最後に書かれたこの言葉が身に沁みる。松尾さんの才能には届かないが、私もありのままの気持ちを書くために「うすのろ日記」を毎日ここに書いている。それは私のありのままなのだけど読む人にとっては「もっと明るい話題を書いて」とか「あなたの記事を読むと気持ちが落ち込みます」とかの意見をもらう。そんな意見をもらうと「あぁ、人は明るくて元気で幸せで甘くて美味しくてキラキラ輝いている記事を読んで覚醒したいのだな」と思う。でも私はありのままを書く。それに揺るぎはない。私が松尾さんの手がけるお芝居が好きなのはそこにあるのだろうと思う。不都合なことに目を背けるな!ということだ。

泣ける話もあった。コロナ禍での芝居のやり方については感慨深いものがある。マスクだらけの観客を見た時の驚きや、コロナ真っ最中にも関わらず観にきてくれる観客を目にした時のこと...と、その観客のひとりであった私は、その話を読んで泣いてしまった。

昭和世代にしかわからないと思うが、沢田研二さんがまだ若くてかっこよかった頃のヒット曲で「サムライ」という歌があった。その歌詞の中に...

片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を

心に花束っていうのはちょっと怪しいが、松尾さんはそんな感じだ。

私は松尾さんから当分離れられないのだなぁと思った。

だって似てるんだもの、私、彼に。

ふふふっ...。


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