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ドラマ 『季節のない街』

ドラマ『季節のない街』全10話見終わった。
大人の切ないおとぎ話である。
みんな、愛おしい存在だった。
ひとつひとつのエピソードだけを拾っていくと、それはよくある話ではあるが、宮藤官九郎の手によって人間の根底にあるさまざまな思いが、これでもかと見る者に訴えてくる。

このドラマの原作になっているのは山本周五郎の同名小説『季節のない街』で、以前は黒澤明監督がこの原作を元に映画『どですかでん』(1970年)を撮っている。
もちろん今回のドラマは時代を現代に置き換えて作られているのだが、裕福とは言えないその日暮らしの人々のさまざまな人間模様を描いているという点は同じだ。

ストーリ…
”ナニ”から12年―― この街には、”ナニ”で被災した人々が身を寄せる仮設住宅があった。 今もまだ、18世帯ものワケあり住人が暮らしていたが、月収12万超えると「即立退き」とあって、皆ギリギリの生活を送っていた。主人公の田中新助こと半助は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで「最大一万円!」もらえると軽い気持ちで、この街に潜入する。だが、半助こそ ”ナニ”によって何もかも失い、ただ生きているだけの男だった。しかし、ギリギリの生活の中で、逞しく生きるワケあり住人らを観察するうち半助は次第に、この街の住人たちを好きになっていく。そんな中、仮設住宅が取り壊されるという噂が街に流れはじめるのだが……。

『季節のない街』公式サイトより

単なる訳ありではなく訳ありすぎるほどある人間たちがこの仮設住宅には住んでいる。底辺での生活とも言えるであろう日々の暮らしの中に、愉快がある。悲しみがある。切なさがある。恋がある。虚しさ、やるせなさ、能天気さ、下品さ、裏切り、友情、優しさ…そんなものがみんなある。
一匹のネコや仮設住宅に住むことさえできないホームレスにだってちゃんと人格がある。馬鹿がいる。利口がいる。恥ずかしさがある、犯罪がある。
どこもかしこも貧乏だらけ…でも楽しいがある。

人間の生活、というか本性ってこんな感じなんじゃないかなと思う。
表向きは上品にかっこよくSNSなどに投稿されている人もふと気を抜けば、
汚れた手を持っているような気がする。
ここに住む人たちは、SNSで見栄を張ることもせずその気持ちのまんまで生きている。だからドラマを見終わった後も彼らを愛おしく思うのだろう。
人生の教訓とか導きとかそういうお行儀の良いことは表現されていない。
見て少しでも人間って切ないけど素敵な生き物だなと思えればそれで良いと思う。

余談だが、
宮藤官九郎監督であるからして、劇団『大人計画』の役者さんが数人出てらっしゃる。水を得た魚のようにピチピチッとキレの良い演技をされている。
大人計画ファンとしてもそこも見逃せない。

あぁ、楽しかった。

原作/山本周五郎「季節のない街」
企画・監督・脚本/宮藤官九郎
出演/池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知、片桐はいり、坂井真紀、皆川猿時、前田敦子、三浦透子、濱田岳、増子直純、荒川良々、MEGUMI、高橋メアリージュン ほか
ディズニープラス「スター」で8月9日(水)より全10話一挙独占配信


宮藤官九郎

『季節のない街』は僕が一番好きな日本映画、黒澤明監督の映画『どですかでん』(70)の原作なんです。映画を見た後に小説を読んでみたら、短編集になっていて、その一つ一つの話がすごく切ない終わり方で、映画を見た感覚と何かがすこし違う。だから『季節のない街』を現代に置き換えてドラマ化することで、『どですかでん』と違う入り口で、現代の人にも通じる物語を描けるかもしれないと思いました。

VOGUE JAPANインタビューより

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