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欲望、捨てます。

2020年8月3日(月曜日) Desire

さて、暑い夜を通り越して暑い朝を迎えた。

昨夜は我が家に衝撃が走った。テレビ画面に映されていたいたのは見覚えある社屋。夫が所属する会社でコロナ感染者が出たと伝えていた。夫は濃厚接触者ではないがうっすら関係している。うっすら関係している接触者のことをなんと言うのだろう?この大変な時にそんなどうでもいいことが気になって仕方がない。

辞書で調べてみると「濃厚」の対義語は「希薄」「淡白」など。希薄接触者、淡白接触者...どちらもピンとこない言葉だけど、なんとなく「淡白」の方がいいような気がして我が家ではそう呼ぶことにした。夫は淡白接触者。淡白といえども事態は逼迫しているようで、夫はそれに関する会議に挑むためにいつもより早く出かけて行った。

昼ごろになると朝の緊張もすっかり忘れて、私はいつものかったるい月曜日を過ごしていた。熱と埃が絡み合っているような匂いのする公園をスーパーに向かって歩く。イヤホンから流れる音楽よりも、セミの鳴き声のほうが勝っている。時々上から落ちてくるセミの死骸に気をつけながら、そしてすでに地面に落ちてしまった死骸を踏まないように歩く。

夏の公園は気忙しい。私は日傘を持って来なかったことを後悔していた。日傘があれば上から落ちてくるものは防ぐことができるのにと思う。地面を凝視すると、今さっき落ちたような足をばたつかせる生々しいのやら、何人もの人間に踏みつけられて煎餅みたいになったのやら、数えるつもりはないが、数えたらものすごい数になるであろう死骸が黒く続いている。踏まないように足もとばかりを見て歩いていても、煎餅になったセミは落ち葉などと区別がつかず、たくさんの煎餅を踏んだ。

スーパーの中にあるカフェコーナーでアイスコーヒーを飲む。特にアイスコーヒーが飲みたいわけではないが、何も注文せずに座っていることに少し罪悪感がある。いつも半分も飲まないで捨てる。良いように言えば、涼しい時間をアイスコーヒー代で買っているということだろう。100円くらいだからと自分を許している。スマホの画面に向かって「何もやる気がない」とツイートした。しばらくして「性欲すらない」と返信してきた人がいた。「こんなに暑いとね...」と私は返信した。

暑さはいろんな欲望を奪う。もう若い時のようなねっとりとした色気はいらない。誘い水を投げかけるような艶気もいらない。私の欲望は冷たい朝であり、セミの鳴かない公園だ。スキップしてで通り抜けることができるような清浄な冷たさのある公園だ。

今日も欲望をあきらめよう。

冬になるまであと何時間?

読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。