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時がたち、インクの滲みが消えるころ

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。
いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。
『霜柱を踏みながら 19』

私の部屋のクローゼットに、スカーフやハンカチなどの小物が収納された籐カゴがある。何枚ものスカーフが折り畳まれたその一番下に一枚の古い絵葉書が仕舞われている。その絵葉書だけは誰にも見られたくない。やましいことが書かれているわけではないが、それは私の人生に影響を与えた出来事が関係しているからだ。消印は1998年3月3日となっている。グアテマラからのその絵葉書にある写真には民族衣装を着た現地の女性たちの姿があった。色鮮やかな衣装を身に纏った女性が目の前にある蝋燭の炎を見つめている。それはどこか寂しげな瞳をしていて、憂いのある横顔がとても綺麗だった。今あらためてその絵葉書を見つめているとその憂いは哀しみの憂いなのではないかと思えてくる。何かを予言したのだろうか、この絵葉書にまつわるこれから起こる出来事を...

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