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BLANK PAGE (空っぽを満たす旅)

【読書感想文】BLANK PAGE 空っぽを満たす旅/内田也哉子


樹木希林さんと内田裕也さんの娘である、内田也哉子さんが書かれたエッセイとなる。
この本はかなりの人気だと聞いている。現に私の知人の半分がこの本を購入していた。也哉子さんのお母様である希林さんの人気も凄まじかったが、その娘となると若い方も加わってさぞかし人気なのだろうと思う。
希林さんは、女性の方、それも若い方というより年を重ねられた方に絶大な人気がある。
希林さんが生前書かれたエッセイは今でも売れているようだし、希林さんのような生き方がしたいと願う方も多い。
私がこの本を手に取ったのは、也哉子さんはどんなふうにご両親の人生を思い、どんなふうに自分は生きてらっしゃるのかが知りたかったからだ。
この本を読んでみて、あくまでも私が感じたことではあるが、希林さんとはまた違った感性をお持ちで、私は内心ほっとしている。
ほっとしているというのは、似たもの親子がよくないと言うわけじゃないが、やはり也哉子さんにはお母様とは違ったものを持って生きてほしいという私の勝手な願いからだ。
結果として也哉子さんは、ちゃんと母・樹木希林さんや父・内田裕也さんのことを見つめ直して、自分はどうあるべきかどう生きるべきかをちゃんと見つけてらっしゃるような印象をこの本で感じた。

本の書き出しは…
『母と父をたてつづけに葬った。それは、私が初めて実感する家族の死だった』という文章から始まっている。
希林さんとの風変わりな思いで話や、内田裕也さんの告別式で語られた喪主の挨拶などが掲載されいて、その後に旅をする内田也哉子さんの言葉がさまざまに形を変えて登場する。
タイトルに『空っぽを満たす旅』とあるが、旅といってもさまざまな観光地を巡る旅ではない。
さまざまな方に自ら会いに行って、いろんな話をしながら自分の心にぽっかり空いた空洞を満たす旅だ。
会う方々は、谷川俊太郎さん、小泉今日子さん、中野信子さん、養老孟司さん、鏡リュウジさん、坂本龍一さん、桐島かれんさん、石内都いしうちみやこさん、ヤマザキマリさん、是枝宏和さん、窪島誠一郎さん、伊東比呂美さん、横尾忠則さん、マツコデラックスさん、シャルロット・ゲンズブール。
まぁ錚々たる方々である。私も会えるものなら会いたい人ばかり。
也哉子さんはこの方々に同行する編集者も付けずにひとりで会いにいき、話をされてきたそうだ。
谷川俊太郎さんは、そんな也哉子さんに、
「今日は、也哉子さんひとりで来てくれてうれしかった。対談となると、総勢15人くらいでやってくる女優さんや、20人引き連れてくるアーティストがいるからね。なんか、ようやく同族のひとが現れたってかんじ」とおっしゃっている。
わかるような気がする。私も人と話すときは二人っきりがいい。

数多くの対談相手の方々それぞれに、心に突き刺さる、あるいは心に染み込む言葉がある。
例えば、小泉今日子さんの言葉。
数年前に小泉今日子さんが、妻子のある男性とお付き合いをしているという報道があった時のエピソードを語ってらしゃって、その時、テレビ画面の中で、小泉さんは静かにこう言ったのだそうだ。
『自分の罪は、自分で背負っていきます』と。
それを見ていた也哉子さんは「彼女の本当の過酷な覚悟を見た」と言ってらっしゃる。
私はそのテレビは見ていないが、小泉今日子さんの言葉も訴えるものがあるが、也哉子さんは『過酷な覚悟』にもドキッとした。
最後に也哉子さんは小泉今日子さんのことを『強靭ではかない人』と表現している。
強靭で儚いか...素敵な表現だなと思った。

脳科学者の中野信子さんとの対談では、也哉子さんとご主人の本木雅弘さんの馴れ初めや結婚してすぐに離婚を考えたエピソードなどを語ってらっしゃる。ここに細かく書くことはできないが、思ってもみなかった也哉子さんの、普通っぽいというか、可愛らしい部分が垣間見れてとても得したようなエピソードだった。

ここに登場する方々は錚々たるメンバーばかりだが、誰もが人生において暗黒の時代を過ごしてらして、そこで考えたことなどが今のその方を形成している。そんな話を也哉子さんは気負うことなくサラッと引き出していく。
読んでいて、こちらも気負いなくすんなり対談相手のことを知ることができる。えっ?とびっくりするような内容もあるにはあるが、その後すんなりと私の中に入ってくるのは也哉子さんの頭の良さとプラス人柄があるからなのだと思う。
也哉子さんは希林さんに「オモシロイオトナと出会いなさい」と言われて育ったそうだ。「勉強しなさい」とは言われたことはないが、
「この人はオモシロイから一度会っておきなさい」と折りに触れて言われていたそうだ。
なるほどな...と思う。
オモシロイ人とどれくらい出会えるか?
出会えた数だけ、自分の人生に濃くや幅が出てくると私も思っていた。
さぞかし也哉子さんはオモシロイオトナにたくさん出会ってこられたのだろうな。

最後はこう記されて終わっている。

親という根っこのような枷を失い、身ひとつとなった私は、切なさと清々しさを同じくらい抱え、虚空(こくう)を見つめている。ふと思う。空っぽは、彼らが最後の、そして、最良の置き土産として遺していってくれたのかもしれない。ずっと彼らの存在で埋まっていた自分が、ようやくひとりで再出発するための身軽さだった。空っぽを満たす旅に出たけれど、むしろブランクを持つことの豊潤さを、人と出会う度に教えてもらった。

あとがきより一部抜粋

最後まで興味深く読んだ。
飽きることなく読んだ。
私も早速オモシロイオトナを探してみたくなった。


またひとつ素敵な本に出会えました。

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