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フリーランスが知っておきべき、報酬請求に関する2つの条文、という話

フリーランスでも中小企業でも、クライアントのために業務を行ったのに、ちょっとした事情があるばかりに費用を請求できないのでは・・・と悩んでしまったケースはありませんか?

泣き寝入りすることの無いよう、役に立つかもしれない2つの条文をご紹介します。

契約書がないから支払わないよ、と言われたら

例えばこのようなケースです。

ある日、とある会社A社からフリーランスのイラストレーターである甲山乙子(仮名)さんに連絡がありました。
それはA社が発売する書籍の表紙イラストを描いてほしい、というものでした。

「はいっ!よろこんで!!」と居酒屋的テンションで答えた甲山さん、早速打ち合わせに呼ばれ、A社担当者と何度も協議を進めます。
その中で、A社担当者はこのように言いました。

「甲山さんにはあとで正式に依頼するつもりなんだけど、先に社内に見せるためにある程度完成しているイラストがほしい。ちょっと描いてくれるかな?

「はい!よろこんで!!」ということで、ラフを描いて提出→ちょっと直して→また描く→うーん、ここも変えたいかな→また直して描く・・・ のやりとりが続いた後、

「うん!これいいね! 社内で確認するよ。決まったら連絡するね」

・・・という担当者のメールを最後に、一向に連絡が来なくなりました。

心配になった甲山さん、意を決してA社担当者に連絡します。
すると、A社担当者からは

「あーーごめん、甲山さんのイラスト、ボツになったんだ!ゴメンネゴメンネ-!!!」

「え?お金? 採用したわけじゃないし、そもそも契約書もないじゃん?だからウチからは払えないよ」

・・・確かに契約書は交わしておらず、また報酬額についても特に話していなかった甲山さん。目の前が真っ暗になります。

さて甲山さんがイラストを描くために費やした時間は、無駄になってしまうのでしょうか。

そんなときは、この条文を思い出してください。

商法512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

ここでいう”商人”とは「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」(商法4条1項)ですが、甲山さんは趣味ではなく事業・仕事でイラストを描いているフリーランス(個人事業主)であるため商法上の商人に該当しますし、今回はイラストを描くという”事業の範囲内”の作業をしています。

よって、この条文を根拠に、A社に対して「相当な報酬」を請求することができる可能性があります

ただ、気を付けなければならないのは「相当な報酬」の額です。
実際には正式に発注されておらず、また甲山さんのイラストが採用されたわけではないため、通常の同種の作業における報酬額満額を請求することは難しいかもしれません。
裁判においても、具体的な状況を元に判断されてこの「相当な報酬」の金額が決められますので、作業や取引の状況に関する証拠(メールのやりとりなど)は保管しておくことをお勧めします。

契約解除したから支払わないよ、と言われたら

また別の話。

とある会社B社から、フリーランスのウェブデザイナー乙海甲太郎(仮名)さんに、B社の新サービスについてのランディングページ(LP)を作ってほしい、という依頼がありました。

B社とLP制作(デザイン制作とHTMLコーディング)についての業務委託契約書を締結し、業務を開始した乙海さん。順調に制作を進め、全体のデザインが完成しました。
しかしその頃B社はクラウドソーシングサービスで格安でHTMLコーディングを請け負う別のフリーランスを見つけていました。
このまま乙海さんに作業を続行してもらうより、完成しているデザインデータを使ってコーディングはその格安コーダーに依頼したほうが良くね?と考えたB社、乙海さんに伝えます。

「実はさー、LP制作が必要なくなったんだよねー(ウソ)。だから契約解除でいいよね?ゴメンネゴメンネ-!!!」

ということで一方的に契約を解除されてしまった乙海さん。

LP制作のような業務委託契約は「請負」契約とされ、仕事の完成が報酬支払いの条件となります(民法632条、633条)。
でも、乙海さんは仕事を完成することができず、また契約自体が解除されてしまったため、この”LP制作という仕事”自体が無かったことになります。つまり、乙海さんはLPを完成させるという義務が無くなると同時に、B社が乙海さんに報酬を支払う義務も無くなったわけです。

この場合、乙海さんは諦めるしかないのでしょうか。

そんなときは、この条文を思い出してください。

民法634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責に帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

乙海さんが作成したデザインはそのまま使うわけですから、B社は”仕事の結果のうち可分な部分の給付によって”利益を受けています。また、乙海さんが仕事を完成させることができなくなったのは、乙海さんの責任ではありませんし、契約も解除されてしまっています。

よって、この条文を根拠に、B社に対して「注文者が受ける利益の割合に応じた報酬」を請求することができる可能性があります

この「注文者が受ける利益の割合に応じた報酬」の額というのもなかなか難しいですが、例えば見積もりにおいて「デザイン費」と「コーディング費」を分けて提示していた場合、「デザイン費」(+ディレクション費の一部など)の部分については請求できる可能性は十分高いと考えられます。

「制作費一式」で計上するのではなく、作業ごとに分けて明細を提示しておくと、このような場合に役に立ってくれます。


以上、泣き寝入りする前に、相当な対価を請求できるかも?という話でした。

まあ、実際には、A社やB社との今後の付き合いなどを考えると、やっぱり泣き寝入りで、、、を選択せざるを得ない場合もあるとは思います。。。善し悪しではなく。。。はい。。。





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